神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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135 迷宮攻略(アスクレピオス迷宮編)⑤

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「何だここは……」
「ここって本当に迷宮……?」
「森だぁー!」
「わふん!」

 コハクの言う通り、扉の先に現れたのは緑一色。
 高さが目測30メートルほどある大木がたくさん生い茂り、森というかジャングルみたいな空間。
 本当に迷宮なのか疑ってしまう程の景色の為、自分の今いるこの空間に疑念を抱く。
 誰がこんな地下深くにジャングルがあると想像できるだろうか……。
 そしてこの広大なジャングルに君臨する階層守護者は何なのか。
 ケルベロスと違って扉を開けたら目の前にいるわけでは無いみたいだから、この広いジャングルから探し出さなければいけない。
 何せこのジャングルが広大すぎて気配探知で把握できる範囲に反応がないからだ。

 でもジャングルだからこそ、どんな魔物か出現するか予想ができるかもしれない。
 例えば、SF映画だとアナコンダとか巨大なワニとかゴリラが出てくる。
 ゴリラに至っては物凄く大きいけど。
 でもSF映画に捉われず、あそこまで大きな魔物が出るとは思わない方が良いのかもしれない。
 もしあの大きさのゴリラがいるならこの場で見上げれば分かるはずだから。
 でも常識の範囲内での大きさの魔物なら有り得る。私個人としては小さい魔物の方が助かるけど、第一階層のケルベロスが大きかったから、その次の第二階層も同様に大きいのではないかと思ってしまう。
 まあ、仮定の話をしてもどうしようもないから、とりあえず何が出てきても良いように構えておかないとね。

「少し歩こうか」
「そうだな」
「行くよケロちゃん!」
「わふっ!」

 ここにいてもどうしようもないので、私達は魔物を探しに歩き出す。
 特に道があるわけではないので、生い茂る草を掻き分けながら進んでいく。
 こうしていると、魔物を倒すために歩いているというより遭難したみたいだ。
 前世ではこんな経験があるはずもなく、本当に映画の中にでも入り込んだ気分になる。
 それにケロちゃんは図体が大きいから、凄く進みづらそう。大木の間を縫うように進んでいる。ちなみにコハクはケロちゃんの背中に乗って舵をきっている。

「コハク、どこに魔物がいるか分かる?」
「んー、いろんな匂いが合わさっちゃってるから分かんない。ケロちゃんは分かる?」
「くぅぅぅん……」

 コハクではどうやら分からないらしい。それにケロちゃんも首を横に振る。
 ちょっとだけコハクに期待してしまったが、こればっかりは仕方がないよね。
 もしかしたら魔物との距離が離れているから匂いがしないのかもしれないし、このジャングルで生えているよく分からない草や花の影響で分からないのかもしれないし。
 こうなったら、足を動かして地道に探すしかないのかな……。

「……あ、そうだ」

 ふと思いつく。
 ここで魔力感知をやってみてはどうだろう?
 もしかしたら、魔物の位置がわかるかもしれない。
 早速、魔力感知のスキルを発動させてみる。
 そして光が見えないか周囲を確認する。

「見つけた……」

 進行方向から左に小さく青白い光が見える。
 本当に便利なスキルだ。気配探知でも分からない範囲でも魔力感知なら分かる。
 ケロちゃんの別個体に感謝だね。

「ヒナタ、どこにいるんだ?」
「えっとね。左に進めばいるよ。距離までは分からないけど」
「ならそっちに進もうか」
「ケロちゃんあっちだよ!」
「わふん!」

 私達2人と2匹の珍妙な隊列がジャングルを進む。
 客観的に見ればケロちゃんがいることで異常な光景だろう。
 これでもしコハクも竜の姿なら、私とカレンは魔物使いにでもなった気分だ。
 この世界でもそんなスキルとかあるのか、ふと疑問に思う。
 もしあるのだとしたら、可愛い魔物とかをペットにして飼いたいものだ。
 コハクでも充分癒しになっているけど、もふもふの魔物とか欲しくない?
 今まで見たのだと、角ウサギとかかな。あれは小さくて前世のウサギと同じような姿だから、特に嫌悪感も抱くことなく可愛がれそう。

「カレン、こんな時に聞くのもあれなんだけど、魔物を使役するスキルとかってあるのかな?」

 この世界の事情に詳しいカレンに聞いてみる。

「魔物を使役するスキル……? 聞いたことねぇな。そんな奴がいるなら街とかに入れねぇだろ」

 はい。私の夢が早くも儚くついえました。
 本当にありがとうございました。

「そうだよねぇ! あはは、ごめんね。変なこと聞いて」
「いや、良いけどよ。でもある意味、コハクはヒナタが使役している感じになるのか?」
「違うよ! コハクは私の娘だから! 使役なんて言葉使わないで!」

 全くもう!
 コハクは私の娘だよ。魔物じゃないよ。
 最近は私のお腹から生まれたんじゃないかとも思えるくらい、私そっくりの性格になっているくらい私似だよ。それに血は繋がってなくても魔力で繋がった関係だ。つまりは、正真正銘私の娘だということ。

「そ、そうだな。ごめんな……」
「分かればいいんだよ!」

 ぷんすかぷんすか。
 普段温厚な私でも怒る時は怒るよ。コハクのことに関しては特にね。
 でもしょうがないよね?
 これはカレンが悪いもんね。

「!」

 私の魔力感知で見えている光がだんだん大きくなってきた。
 そして気配探知に見える赤い点がどんどんこちらに近づいてくる。

「カレンくるよ!」
「分かった!」

 カレンは剣を鞘から抜き構える。
 正直、この場は戦闘をするには不向きだ。
 障害物が多すぎる。
 なるべく図体が大きく標的になりそうなケロちゃんとかは離れてもらったほうがいいかもしれない。

「ケロちゃん! ここから離れてコハクを守って!」
「わおん?」

 ケロちゃんが首を傾げている。
 そうだ。私の言葉は通じないんだった。

「コハク、ケロちゃんにママの言ったことを伝えて!」
「うん! ケロちゃんはコハクが守るからね!」
「わふん!」

 違う。そうじゃない。

「違うよコハク! ちゃんと伝えて!」
「見えてきたぞヒナタ!」

 そんな会話を繰り広げていると魔物がこちらに迫ってきていた。
 そして目の前には大木の枝を伝ってやってきた、赤い猿。
 大きさは、ケロちゃん程ではないけど、それなりの大きさ。大体6メートルくらい?

「キキー!!!」

 この魔物の名前は分からない。
 だから、赤い猿ということでレッドモンキーとでも名付けよう。
 私とカレンは大木の上にいるレッドモンキーを見上げる。

「なんだあの魔物は……」
「猿だね……」

 どうやらカレンも知らないみたいだ。
 でも、こんな迷宮の第二階層守護者として君臨しているくらいだから、ケルベロスよりは強いと推測できる。
 こんなジャングルでの戦闘は本当に危険だ。私とカレンで息を合わせてなんとか戦うしかない。
 コハク達はちゃんと物陰とかに隠れているかな……。
 そんな思いで後方を振り返る。

「ケロちゃんいけー!」
「わふん!」

 何故か攻撃を仕掛けるケロちゃん&コハク。

「ちょっと待ってコハク!」
「……え? なんで!?」

 コハクが何故か疑問形で叫んだが、私の声をそもそも理解できないケロちゃんは、レッドモンキーが佇んでいる大木に向かって体当たりする。

「キキッ!?」

 なんとびっくり。ケロちゃんの体当たりにより大木が倒れる。

「うわー」
「マジかよ……」

 私もカレンもびっくり。
 そしてそのままレッドモンキーが落下してきて、地面に叩きつけられる。
 おお、これが本当の猿も木から落ちるか……。
 いや、そうじゃない。

「コハクちょっとこっちに戻ってきて!」
「えーどうしてー?」

 不服な顔で私のもとにケロちゃんと共に戻ってくる。
 何で言うことを聞かないかな。
 この迷宮に来てからすごい我が儘だ。

「コハク、さっきママはなんて言ったかな?」
「え……。ケロちゃんを守りながらあのお猿さんを倒すんだよね?」

 うん。違うよ。
 そんな高度な戦術はしたくないよ。
 誰かを守りながら敵を倒すのなんて難しんだよ?

「そんなこと言ってないでしょ? ママが言ったのはケロちゃんにコハクを守って欲しいって言ったんだよ?」
「……でもコハク、ケロちゃんを守れるよ?」
「そうかもしれないけど、ママはコハクに危ないことはしてほしくないの」
「危なくないもん……」
「ママはコハクのことが心配なの。コハクが怪我しちゃったらママは悲しいんだよ。コハクはママを悲しませたいの?」
「……やだ」
「よかった。ならママ達がお猿さんをやっつけるまで後ろでケロちゃんと待っててくれる?」
「……わかった」

 よかった。コハクの説得が大変だ。
 子育てなんてしたことないから、子供の我が儘にどう対応すればいいのか分からない。
 コハクは聞き分けがいいとは思うけど、こういう戦闘系になると我先にと突っ走る印象だ。なんかこの先も思いやられそうだ。
 ……あ、それより忘れていることがあった。

「そういえばコハク。あのお猿さんとお話しできる?」
「……ううん。できないよ? でも凄い怒ってるように感じるの」

 なるほど。対話はできない……と。
 なら倒しちゃってもいいかな。
 もしレッドモンキーの声が聞こえたとしても一度は討伐したい。
 強奪スキルでレッドモンキーのスキルが欲しいからね。

「あのお猿さんとお話し出来そうだったら、ママに教えてくれる?」
「分かった!」

 とりあえずコハクとケロちゃんを後方へと下がらせる。
 そして私とカレンは地面に叩きつけられたままのレッドモンキーに同時に仕掛ける。

「いくぞ!」
「うん!」

 カレンがレッドモンキーに向かって剣を振る。
 私は後方から岩石弾ロックショットを放つ。
 カレンの剣と私の岩石弾がほぼ同時にレッドモンキーに当たる瞬間に、レッドモンキーが飛び上がり回避した。

「ちっ!」
「早い!」

 レッドモンキーの動きが素早い。
 飛び上がりそのまま大木の枝に掴まり私達を見下ろす。

「キキー!!!」

 レッドモンキーが叫んだ。
 それと同時に、空に大きな岩石が大量に出現する。

「カレン逃げて!」
「あ、ああ!」

 あれは上級の土魔法である岩石雨ロックレインだ。
 上級魔法まで扱えるなんて厄介だな。
 どうやらケルベロスと異なりレッドモンキーは魔法を使う魔物らしい。
 動きは奇天烈のうえ木に登って近接戦をせず、遠距離から魔法で攻撃してくる。
 これは近接攻撃を得意とするカレンやコハクにとっては天敵になりそうだ。

 そして落下してくる無数の岩石。
 カレンは岩石の落下地点から逃げているみたいだから、私は土壁アースウォールを自分を包み込むように発動させる。
 そして岩石が落下してきて、土壁に衝突する岩石の音が響いている。
 音が反響してきて五月蝿い。
 しばらくすると岩石が衝突する音が止まったため、土壁を解除する。
 そして再度、レッドモンキーがいた大木を見上げる。

「あれ……?」

 レッドモンキーの姿が見えない。
 どこに行った……?
 私は気配探知でレッドモンキーの位置を確認する。
 私がいる青い点が一つ、そして目の前にあるもう一つの青い点、これはカレンだ。
 そして後方に青い点が2つに赤い点が1つ。
 レッドモンキーの狙いは……。

「コハク!」

 私はコハクがいる後方を振り返った。
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