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136 迷宮攻略(アスクレピオス迷宮編)⑥
しおりを挟む─コハク視点─
なんか急にお猿さんが目の前に現れた!
ママとカレンお姉ちゃんは上から降ってくる岩のせいでコハクの所にいない。
お猿さんはコハクと遊びたいのかな?
それなら最初から言ってくれればいいのに!
何でお話ししてくれないんだろう?
「お猿さん、コハクと一緒に遊びたいの?」
「キキー!」
え、なに!?
お猿さんの手から大きな岩がいきなり出てきた!
すごい魔法! ママが使う魔法より大きい岩だ!
お猿さんかっこいい!
「キー!」
その岩をどうするんだろう……?
あ! もしかしてその岩をコハクにプレゼントしてくれるのかな?
……んー、でもそんなに大きな岩はいらないんだよね。
貰ってもあとでママに怒られそうだし……。
ママは優しいけど、たまに厳しくコハクを叱るから、コハクは怒られないようにいい子にしないといけないの。
だからごめんね、コハクはママに怒られたくないからその岩はもらえないの……。
「わおぉぉぉん!!!」
どうしたのケロちゃん!?
急に怒るなんてびっくりするじゃん!
「……え? 危ないって?」
ケロちゃんがコハクに伝えてきた。
一体何が危ないんだろう?
もう一度、お猿さんに視線を戻してみる。
すると、お猿さんがコハクに向かって岩を落としてきていた。
どうしたのお猿さん!?
そこまでしてコハクに岩をプレゼントしたいの?!
でもこのままじゃ、ケロちゃんが怪我をしちゃう!
それだけはダメなの!
ママにケロちゃんのお世話を任されているから、ちゃんと約束は守らないといけない。
早くあの岩を退かさないとケロちゃんが怪我をしちゃう!
……あ、でも手に持っている桃が邪魔だ。
これはケロちゃんの背中に置いて……と。
「キキー!!!」
「岩はいらないんだってばー!」
ケロちゃんの背中からジャンプして、向かってきた岩にパンチをしようとする。
コハクはいらないのに無理に渡そうとするなんて、お猿さん酷いよ!
「コハクー!」
「……え?」
突然ママから呼ばれた。
ママはコハクのところに向かって走ってる。
あ、でも今はケロちゃんが怪我をしないようにこの岩を退かさないとなの!
「コハクパーンチ!!!」
お猿さんが投げてきた岩に向かってパンチをした。
すると、岩が真っ二つに割れた。
よかった~。これでケロちゃんは怪我をしないね。
ママにもケロちゃんのお世話を任されていたから、約束を破るところだったよ。
もうママに怒られたくないしね。
「……あ、あれ?」
ケロちゃんの背中を借りてジャンプをしながら岩を割ったけど、勢いが止まらない!
ジャンプ中にママに呼ばれたから、気になって勢いを止められなかった!
このままじゃお猿さんにもパンチしちゃう!
逃げてお猿さん!
「キキー!」
あ~!
コハクのパンチがお猿さんのお顔に当たっちゃった!
ごめんなさい! わざとじゃないの!
「ごめんなさいお猿さ~ん!」
─ヒナタ視点─
何故かコハクが謝罪をしながらレッドモンキーにパンチをする。
そしてそのレッドモンキーはコハクのパンチを受けた衝撃で後方へと吹き飛ぶ。
そしてその先には……。
「何でこっちにくるんだよー!」
カレンがいた。
まずい、カレンが死んじゃう!
あの勢いのレッドモンキーにぶつかるなんて、高速道路で車に衝突するのと同じだよ!
「カレン逃げて!」
すると、カレンはすぐさま居合い斬りでもするかのような構えをした。
お、かっこいい。
そして吹き飛んできたレッドモンキーにタイミングを合わせて抜刀した。
「おりゃああああ!!!」
光のような速さ繰り出されたカレンの剣は全く太刀筋が見えなかった。
気がつくと、レッドモンキーが胴から真っ二つになり絶命している。
おお、カレンカッコよすぎだろ。惚れるぜ!
「カレンカッコいい!!!」
「わおぉぉぉん!!!」
「お猿さーん……」
私とケロちゃんでカレンを称賛する。
コハクは何故かお猿さんが死んじゃったことに悲しんでいるようだ。
何故そんな顔をする。
さっきこのお猿さんに岩を投げつけられたんだよ?
危なかったんだよ?
コハクの感情が母親であるはずの私でもよく分からない。
「コハク、あのお猿さんは危ない魔物なんだよ?」
「そんなことないよ。だってあのお猿さんはコハクと遊びたかったんだと思うの……」
「……そうお猿さんが言ってたの?」
もしかしてレッドモンキーと会話ができたのか?
それなら本当にケロちゃんと同様に仲間にできたのかもしれない。
そうだとしたら、コハクがレッドモンキーにパンチしたことへと謝罪の意味も理解できる。
そう考えると、レッドモンキーに申し訳ないことをしてしまった気が……。
「……ううん。でも魔法で作った岩をコハクにプレゼントしてくれたんだよ。コハクはいらなかったけど、優しいお猿さんなんだよ、きっと……」
どうやらお話ができたわけではないらしい。
……それにしてもこの娘は何を言っているのかな。
岩がプレゼント?
普通そんな考えにならないよね?
……いや、いかん。コハクの頭の中はいつもお花畑だ。真剣に捉えてはいけない。
この発想はコハクだから有り得るのだ。
私の常識をいつでも覆してきたコハクに敵うわけがない。
「……そっかぁ。でもケロちゃんを怪我させちゃう危険もあったからよく守ってくれたね」
「うん! ケロちゃんが怪我したらダメって思ってコハクが助けたの!」
「うん。ママ、コハクの活躍見てたよ。カッコよかったね」
「でしょ! ママとの約束守ったの!」
この楽観的な思考回路のコハクはいつか危険な目に合うのではないかと思ってしまうが、これがコハクなのだとも考えてしまう。
コハクはこうじゃないとコハクではない。これがコハクなのだ。
まあ、いつかコハクも敵味方の区別ができるようになるよね。
それまで私がそばにいればいいだけだ。
「カレン、あの剣捌き初めて見たよ!」
コハクとの会話の間にカレンが私達の下へとやってくる。
「昔に憧れていた冒険者の先輩が見せてくれた剣技だよ。前から練習してて出来るようになったんだ。ヒナタに見せるのは初めてだな」
「そうだったんだ!」
いつの間に練習してたんだろ。
心当たりがあるとすれば、私がサーシャの家庭教師をしていた期間か、コハクの育児休暇の時しか思い付かない。
そうか。カレンの剣技は十分すごいと思っていたけど、まだまだ成長しようとしていたんだね。惚れ直したよ。
「でもケルベロスと違ってあのお猿さんは簡単に斬れたね」
そう。ケルベロスと違ってあのレッドモンキーはあっさり真っ二つになった。
あまり防御力がないのかな。
その代わりにケルベロスよりも素早さが桁違いで、何より猿だからか動きもトリッキーだった。
それに土魔法を使って攻撃をしてくる。
大木の上でずっと魔法を使われていたら、普通の人間なら苦戦するに違いない。
それに魔力感知でも、あれだけの大量の落石や巨大な岩石の出現を行使しても魔力はほとんど減らなかった。胸の辺りに見えた青白い光も大きかったし、もしかしたら私よりも魔力量が大きいかも。
「……たぶん、コハクが吹き飛ばしてくれた勢いも相まってだろう」
「あー、確かに……」
「ってことはコハクのおかげだね!」
「わふん!」
そうだね。コハクのおかげだね。
さすが私の娘。私はもう思考を放棄する。
とりあえず、レッドモンキーは真っ二つになったけど強奪は出来るだろう。
私は死んだレッドモンキーのそばに駆け寄って強奪スキルを行使する。
名前:ヒナタ
種族:人族
年齢:15歳
職業:魔法使い
HP :338/356(+59)
MP :485/536(+85)
スキル:水魔法LV7
風魔法LV8
火魔法LV5
土魔法LV8
無属性魔法LV 7(+1)
無限収納
威圧LV4
毒霧LV1
毒耐性LV4
麻痺耐性LV2
気配察知LV5
気配遮断LV4
隠密LV7
発情LV2
遠視LV4
気配探知LV8
自然回復LV7
身体強化LV5
物理攻撃耐性LV8(+1)
竜装化
竜王覇気
咆哮
硬質化
魔力感知
縮地
ユニークスキル:強奪
ものすごい魔力量が上がっている……。
これがケルベロスを10体近く討伐した結果か。
それに無属性魔法もついに大台に乗った。
これで一応上級魔法が行使できる。
えっと書物だと、魔力波領域だったっけ?
魔力波よりも更に広範囲を対象に無双できるような魔法だったような。うーん、魔力波と同じようなものだからイメージは簡単そう。
これならすぐに行使できそうだね。
試しに次に行使してみようかな。この迷宮なら大丈夫でしょ。
そして新スキルは縮地。
縮地って仙術の一つだよね。地面自体を縮めることで距離を接近させ瞬間移動ができるみたいなものだったと思う。
確かにそう考えると、レッドモンキーがコハクに向かって行った時は驚きのスピードだったと思う。
このスキルを使用したのか。……すごく便利スキルではないか。
これがあれば移動速度が速くなるし、カレンやコハクが危ない瞬間、例えば先程のようにコハクにレッドモンキーが接近した時やケルベロス戦でカレンが喰われる時に、縮地で急接近して魔法で助けることができる。
それにこのスキルをもっと早く所得していればシャルも救えたかもしれない……。
……まあ、その可能性があったくらいだし、あくまでこのスキルを取得したからという前提の話だから今更ではある。
ここで過去を振り返るのは良くない。
兎に角、今は今。
レッドモンキーを討伐したからこれで第三階層への扉が開けばいいけど……。
……扉ってどこだ?
これも探さないといけないのかな。
この広大なジャングルの中を?
勘弁してくれよ。
「カレン。もしかしたらこれで第三階層への扉が開いたかもしれないから探しに行こうか」
「ああ、そうだな」
「よーし、ケロちゃんいくよー!」
「わふん!」
私達は開いたかも分からない第三階層への扉を探すために歩き始めた。
「ふんふんふ~ん♪」
コハクがケロちゃんの背中に乗って鼻歌を歌っている。
楽しそうで何よりだ。
コハクがいるおかげで私も何とか平常心を保てているような気がする。
本来であれば、この迷宮に来たのはシャルを生き返らせるため。
もっと緊迫した雰囲気になるのが普通な気もするが、それがコハクのおかげでこの和やかな雰囲気が出来上がっている。
それにこの迷宮を難なく進めているのもコハクがいたから。
コハクはやっぱり自慢の娘だ。
可愛いし、強いし、愛嬌があるし、可愛いし、物覚えが良くて頭が良い、自分の考えをしっかり持っているし、可愛いし、何より可愛い。
つまり……コハクは可愛い。
なんか優雅に鼻歌を歌っているコハクを見ていると、一緒にケロちゃんの背中に乗ってみたくなってきちゃった。
せっかくの機会だし、乗ってみても良いよね。
ケルベロスの背中に乗って移動するなんて、もう一生経験できないかもしれない。
「コハク、ママも一緒にケロちゃんに乗っても良いかな?」
「へ? ケロちゃん、ママも一緒にいい?」
「わふん!」
「いいって!」
「ありがと」
ケロちゃんの許可も得られたことで、私は早速、飛行魔法でケロちゃんの背中に移動する。
「おお~、高い……」
「気持ちいいよね!」
「わふ~ん!」
何という眺め。
高さは5メートルくらいかな。
前世では絶対に経験できるものではない。もちろん今世でも。
馬に騎乗するのとはわけが違う。……乗ったことはないけど。
「ケロちゃんいくよー!」
「わふん!」
「……あ、カレンは乗らないの?」
カレンも誘ってみる。
まだケロちゃんの背中は空いている。
折角の機会だからカレンも乗ればいいと思う。
「あたしはいいよ……」
カレンが何故か呆れている。
こんな経験そうそうできるものじゃないよ。なんて勿体無いことを。
カレン1人が徒歩でジャングルを進んでいく。
意外とケロちゃんの移動でも振動が少ない。
これなら乗り物酔いもしなさそうだ。
ふと思ったけど、ケロちゃんがこのまま仲間になってくれれば、馬車移動がかなり楽になりそう。
そもそも荷台が必要なくなるし、私達4人が乗れるスペースもある。
そういう面ではケロちゃんを連れ帰るというのも悪くなかったのかも。
でもケロちゃんがこの迷宮に残る選択をしたのだから、私達の都合で連れ帰るわけにはいかない。
本当に残念だ。
そんなことを考えていると、気配探知に赤い反応が突然現れた。
ここから右方向に200メートルほどの位置。
あそこが魔物の出現位置みたいだ。
「みんな、あっちにお猿さんが現れたよ!」
「分かった!」
「さっきと同じ匂いがする!」
「わん!」
やはり再召喚がされたか。
もしかしたらまた、あのレッドモンキーを仲間にするのが攻略条件なのかもしれない。
気配探知で分かる通り、ものすごい速さで移動してくる赤い反応。
……さて、もう一戦いきますか!
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