神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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137 迷宮攻略(アスクレピオス迷宮編)⑦

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 目の前からレッドモンキーが大木を伝ってやってきた。
 距離はここまで100メートルくらいかな。

「キキー!」
「コハクは下がってて!」
「えー、またー?」

 コハクが不服そうだが、次は私の番だ。
 早速、新しく行使できるようになった魔力波領域エリアウェーブをレッドモンキーに向かって行使する。
 普段の魔力波マジックウェーブよりも範囲を大きく、そしていつもより魔力を込める。

「……え?」

 無属性魔法は目には見えない。だから魔力感知スキルで魔力の流れを見てみようと思った。
 どのくらいの範囲に魔力波が飛んでいくのかなぁ、なんて気楽な気持ちで。

「キキッ?!」

 魔力波領域エリアウェーブの行使によって、私の目の前には巨大な津波のような魔力波が形成されていた。そして魔力波の津波が大木を薙ぎ倒し、周囲に生えていた草や花が跡形もなく消滅していった。
 そして目の前に広がるのは広大な更地。

「…………これで戦いやすくなったね!」

 とりあえず誤魔化す。
 まさかここまでとは……。
 そしてレッドモンキーはどこにいったんだ。
 気配探知で確認しても反応がない。どうやら今の魔法で跡形もなく消滅したみたいだ。
 あとはカレンの反応が気になる。
 でも後ろを振り向きたくないなぁ。また呆れられているかもしれない。
 でもこのままっていうわけにもいかない。
 私は恐る恐る後ろを振り返った。

「ママすごーい!」
「わおぉぉぉん!」

 コハクは私に向かって拍手喝采。
 ケロちゃんは咆哮している。
 カレンは口を大きく開けて呆然としている。
 顎外れないよね……?

「ちょっとやりすぎちゃったね。あはは……」

 てへぺろ。
 首を傾げて舌をちょっと出して誤魔化す。
 この魔法は状況次第だけどなるべく封印かな。地上でこの魔法はダメだ。
 無属性魔法は本来失われた魔法。この場で無属性魔法の上級クラスの威力が確認できただけでも上々だろう。

「えっと……カレン?」

 カレンが未だに呆然としているため、カレンの肩を掴んで少しだけ揺らしてみる。

「……はっ! な、な、な……何が起こった!?」

 随分取り乱しているな。
 もしかしたら何とか誤魔化せるんじゃないか……?

「カレン。……今のは夢だよ」
「…………は?」
「カレンは何も見てない。目の前で起こったことは幻なんだよ」

 カレンの目を見て真剣に諭す。まるで催眠術でもかけるかのように……。

「……なら目の前の惨状はどう説明するんだ?」

 ちっ!
 勘の鋭い子は嫌いだよ!
 まあ、誤魔化せるわけないもんね。ここは潔く諦めるしかない。

「カレン、このことは黙っててね。この魔法はもう封印するから」
「やっぱりヒナタの魔法なんだな……。つーか、黙ってるも何も、言っても信じねぇと思うけど……」
「あ~、確かにそうだね」

 カレンの言う通りだ。
 魔法一つで周囲一体を更地にしたなんて誰が信じるのだ。
 頭でも打ったか、幻でも見たのかと言われるのがオチだろう。
 こんな魔法をこの世界で出来るのはいないのではないだろうか……。
 書物に載っていた大賢者クラスの魔法使いならもしかしたらってところかな。
 でも今世にはそのような者はいない。もちろん私がそのような称号を賜るのは以ての外。
 この魔法はこの迷宮限定で使用可能なのだ!

「とりあえず……またお猿さんが出てくるだろうから、次はまともに相手をしてあげようか……」
「……そうだな。さっきのヒナタの魔法で死んだ奴には同情しちまうぜ」

 この二戦は流石にレッドモンキーに同情してしまう。
 出現してからまともに戦闘をすることもなく討伐されている。
 カレンの言う通り特に私の魔法での討伐は酷すぎた。レッドモンキーの声を少し遠くから聞いただけで終わったから。姿すらまともに見えていなかったので次はしっかり戦ってあげないと。
 それにこの状況は明らかに第一階層のケルベロス戦と同じ内容だ。
 きっと、あのレッドモンキーも仲間にするのが攻略条件なのだろう。
 あとはどうやったら仲間にできるかを検証しながら戦闘しないといけない。
 まあ、何となくは勘付いているけどね。

 再度、気配探知スキルを発動させる。
 たぶんレッドモンキーが先程と同じ場所で再召喚されるはず。
 ちょっとどんな場所か気になるし行ってみようかな……。

「お猿さんが召喚される場所に行ってみようか」
「ん? ああ、確かにそうだな」
「ほら、コハク達も行くよ」
「はーい!」
「わん!」

 さっきのレッドモンキーの出現場所はここから200メートルくらい。
 歩いてすぐだろう。
 たぶん、召喚される頃に私達が到着するはずだ。

 私の魔力波領域エリアウェーブの影響で100メートルくらい先は更地になったのでとても進みやすい。
 この場所ならあのレッドモンキーも大木の上に登れないから私達が有利なのでは……?
 でも出現場所も見てみたい。ただの好奇心だけど。

「あ、あそこだ!」

 歩いて行ってレッドモンキーの出現箇所と思われる、遺跡のような場所に辿り着いた。
 例えるなら、イギリスにあるストーンヘンジのような場所。
 そしてその中心にはケルベロス戦でも出てきた魔法陣。
 ここにきて世界遺産を拝めるとは……ありがたや。いや、この世界では違うんだけどね……。

 そして到着と同時に、魔法陣が光る。

「来るよ!」
「ああ! やってやるぜ!」
「次はコハクとケロちゃんの番だね!」
「わふん!」

 何故コハクは戦いたいのか。
 戦いに参加せず安全なところで見てて欲しいと何度も言っているのに……。
 ……もういいや! 諦めた! コハクの自主性を尊重しよう!
 私みたいに魔法で戦うわけじゃないから、レッドモンキーを殺すこともないだろう。
 精々気絶程度だと思う。ならレッドモンキーを仲間にする条件としてはコハクが適任だと思う。

「いっけー! コハク!」
「まかせてよママ!」

 コハクはケロちゃんに指示してレッドモンキーに立ち向かう。

「キキー!」
「ケロちゃん突撃だぁ!」
「わおぉぉぉん!」

 突っ込んでくるケロちゃんに対してレッドモンキーが土魔法で土壁アースウォールを形成する。
 それを物ともせずにケロちゃんは土壁に激突する。

「キキ!?」

 ケロちゃんの突進攻撃によって土壁アースウォールが破壊される。
 そしてレッドモンキーは信じられない……とでも言いそうな表情をしている。

「そのまま行っちゃえー!」
「わおぉぉぉん!」

 そしてケロちゃんはレッドモンキーに体当たり。
 レッドモンキーはその衝撃により、後方へと吹き飛ぶ。

「やったね、ケロちゃん!」
「わふん!」

 コハクがケロちゃんの背中を撫でる。
 ケロちゃんはコハクに褒められて嬉しいのかぴょんぴょん跳ねている。
 何とも微笑ましい光景だ。
 私とカレンは只々、その光景を呆然と立ち尽くして見ていた。

 喜んでいるのも束の間、遠くに吹き飛ばされたはずのレッドモンキーが唐突にケロちゃんの前に出現する。
 驚きの速さ。これが縮地スキルの真骨頂か。
 まるで瞬間移動でもしているかのようだ。

「ケロちゃん逃げて!」
「わふん!」

 コハクの言葉を聞いてもケロちゃんは逃げずにレッドモンキーに立ち向かう。
 対するレッドモンキーは土魔法で上空に巨大な岩石を創り出した。
 そして間髪入れずに落下してくる岩石。隕石でも降ってくるかのような攻撃だ。
 さらにレッドモンキーは降ってくる岩石を回避するために、逃げるように後方へと退避した。
 私とカレンもこの場にいたら隕石の餌食になってしまうので、飛行魔法フライでカレンを抱えながら上空へと退避する。
 本来ならコハクを助けるべきだが、さっきコハクは言った。
 「任せて」と。
 なら私はコハクに任せるべきだろう。また私が手出しするとコハクがいじけるかもしれない。コハクから嫌われるかもしれない。それだけは嫌だ。

 ……さて、ここからコハクはどう対処するか。

「ケロちゃん! ここはコハクに任せて!」
「わん!?」

 コハクは先程と同様、ケロちゃんの背中から落下してくる岩石に向かって空高く飛び上がる。
 まさかまた叩き割る気か……?
 そんなことしたら砕けた岩石が砕け散ってケロちゃんにも被害が及ぶかもよ……。

「これならだいじょうぶ!」

 コハクが取った行動は、岩石をキャッチすること。
 いや、正確にはあの大きさの岩石をキャッチはできないので、両手で受け止めたような感じ。
 そしてその岩石をレッドモンキー目掛けて投げつけた。

「いっけー!」

 ナイスコントロールで投球された岩石がレッドモンキーに向かう。
 これにはレッドモンキーも予想外だったようで戸惑っている。
 焦ったレッドモンキーが選択した反撃は、土壁アースウォールで防御をすることだった。
 かなり厚めの土壁で対抗しようとしたが、コハクから投球された岩石は時速120キロくらい。
 ……何という怪力娘だ。
 もちろんレッドモンキーが創った土壁アースウォールなど無意味。

「キキー!!!」

 岩石の衝突と同時に土壁アースウォールが砕けて、その先のレッドモンキーにも岩石が激突する。
 その結果、レッドモンキーは岩石の下敷きになってしまった。

「あの大きさの岩石を投げるとは……」
「コハクってあたしより強いよな……」

 カレンが少しだけ悔しそう。
 まあ、コハクは例外だから仕方ないよ。だって人間じゃないもん。容姿に騙されちゃダメだよ。
 私は戦闘が終わったため着地する。
 そしてカレンを慰めるように肩を撫でる。

「慰めはいらねーよ!」

 怒られた。
 でも比べる相手が違うよ。
 カレンは同じ職種の剣士と比べるべきだ。剣士としてはかなりの腕前だと思うけど、私達のせいでカレンがどうしても影が薄くなってしまう。
 本当に申し訳ない……。

「ママ、コハクどうだった?!」
「うん! すっごくカッコよかった!」
「やったー!」

 コハクが両手をあげて喜んでいる。
 二の腕を見てもどこにそんな力があるのかと疑問に感じてしまうな。
 でも可愛いから気にしない。私はもうコハクの非常識を常識として捉えている。
 ……人生、諦めも肝心だからね。

 さて、被害者のレッドモンキーの生存を確かめる。
 気配探知で調べてみると、赤い反応が点滅しているため辛うじて生きているみたいだ。
 これならもしかしたら……。

「コハク、あのお猿さんとお話しできる?」
「うん? えーと……何も聞こえないかな」

 それは予想外。
 てっきり相手を弱らせることで、自我が芽生えるのだとばかり思っていた。

「コハク、あの岩を持ち上げられる?」
「……うん、やってみる!」

 コハクがレッドモンキーの上に乗っている岩石をひょいと持ち上げる。
 おー、本当に持ち上がった。半分冗談だったのに。

 そして姿を現すレッドモンキー。
 その姿を見てなぜお話しできないか理解する。

「気絶してるね……」
「あちゃー。コハク、やり過ぎちゃったかな……」

 まあ、生きてはいるだろうから、そのうち目が覚めるか。
 ここで少し休憩しよう。
 この迷宮に入ってからもう何時間経っているか分からない。
 もしかしたらもう深夜かもしれないし、私達の体力も限界だ。

「みんな、ここでお猿さんの目が覚めるまで休憩しようか」
「……そうだな」
「はーい!」
「わふん!」

 私達は全員で輪になって座り込む。気分はピクニックだ。
 そして簡単ではあるが、作り置きしておいたオークステーキを無限収納から取り出す。
 ケロちゃんはどのくらい食べるのかな。とりあえず1キロ分くらい食べさせてあげようかな。

「やったー! オークステーキだぁ!」
「わんわんわん!」

 コハクもケロちゃんも喜んでいる。
 ケロちゃんに至っては尻尾が今まで見たことのないくらいクルクル回っている。

「いただきまーす!」

 コハクもケロちゃんもオークステーキに齧り付く。
 たくさん動いたからか、いつもよりがっつき度合いが違う。

「コハクよく噛んで食べないとダメだよ」
「はーい!」

 了承はしたものの、食べ方は相変わらず変わらない。
 あの笑顔で食べている姿はとても愛らしい。

 30分程度で食事も終わり、ゆったりとしているとコハクが反応した。

「お猿さん!?」

 コハクが唐突にレッドモンキーの方に視線を向けた。
 それに釣られて私達もレッドモンキーのいる方向に視線を向ける。

「キキ……」

 レッドモンキーが意識を取り戻し、起き上がった。
 私とカレンは念の為戦闘態勢に入るが、コハクは待っていた桃を持ってレッドモンキーに近づく。

「はい。これ食べて元気出して」
「キキ……」

 レッドモンキーがコハクから手渡された桃の種のようなものを手に取り食べ始めた。
 すると、レッドーモンキーの怪我が回復していく。
 やっぱりあの種のようなものには、回復効果があったようだ。
 そしてレッドモンキーがコハクに向かって両手を挙げてぴょんぴょん跳ねる。

「コハクのお友達になってくれるの!?」
「きき!」

 どうやらレッドモンキーも仲間になったようだ。
 どのような会話が繰り広げられているか分からないが、これで第二階層も攻略。
 一体いつまで続くのか分からないが、この様子なら全ての階層守護者を仲間にすることが攻略条件なのだろう。

「なら、お猿さんはキーくんだね!」
「ききー!」

 早速コハクが名付ける。
 今度はキーくんになったらしい。
 ……うん。ち○ち○が付いているし、オスだな。くん付けで間違いない。
 気にしてなかったけど、そうなるとケロちゃんはメスなんだろう。
 コハクは簡単に雄雌を判断しているようだけど、一体どうやって分かるのだろうか……。
 もしかして生殖器で判断してないよね?
 違うことを切に願うが、生殖器で判断しているならコハクにはまだ早いよ!
 男の子の身体の仕組みについて知るのはもう少し大人になってからだからね!

 ……さて、このまま第三階層に行ってもいいけど、どうせなら寝たい。
 ここならもう魔物も出現しないだろうし、ゆっくり出来るのは階層守護者の部屋くらいだ。
 それに先程、仲間になった途端にストーンヘンジの中心の魔法陣が消えて階段が出現した。
 次の行き先はもう目の前だし、ここで一晩過ごそう。

「みんな、ここでちょっと寝ようか」
「確かに動き過ぎて眠いな」
「ふわあぁ~。そうだね……コハクも眠いよ」
「わふ~ん」
「きき?」

 キーくんだけ眠くなさそうだが、私達は疲れている。
 ここでしっかり休んで第三階層に備えよう。

 私達は横になって眠りについた。
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