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第1章
第14話 乾き
しおりを挟む自分の部屋に帰ろうと頭をよぎったが、ひとまず心を落ち着かせるため学校ビルの中庭にあるベンチに座った。
上を向いて目を瞑ると、ざわざわと草木の揺れる音に耳を澄ませる。
(根拠は無いけど、私には”何か”が足りない。)
まるで乾いた喉に水分を欲しているような心、物足りなさ。
この身はあるのに自分のへの不信感。
どれだけ時間が経ったか分からなかったが、考えることに疲れて心を無にボーっとしていたらフワッと風が吹いた。
(この感覚・・・琉緒だ!)
意気揚々と振り向くと、飛んで来たのはジンだった。
「ジン様・・・。」
「はははっ。えらいガッカリした顔だね。誰だと思ったの?」
「え?そんな!!全然違いますよ!!」
美癒は自分の顔が熱を帯びて真っ赤になったのが分かった。
「まだ病み上がりだよね?何か悩みごとかな?」
「まだ身体は怠くて・・・授業中なのにこんなところで休んでてすみません。
ちょっと・・・看視実習で担当の菜都を見てたら頭がこんがらがって・・・。あ、菜都って私の妹なんです。」
「妹ちゃんか~、看視実習で自分の身内を担当する事は多いもんね。でも美癒ちゃんは何で頭がこんがらがってるの?」
美癒の顔がひきつった。
この気持ちをいざ説明するとなると難しい。
「頭がおかしくなったと思われそうで、先生達にも言ってなかったんですけど・・・。
異界の山で倒れた日、自分の部屋で目を覚ましてから少しの間 自分のことがよく分からなかったんです。
琉緒のことも『誰?』ってなったし、”美癒”って名前を呼ばれても自分のことだと気付けなかった。
あ、でもその後すぐに思い出したので、寝惚けていただけだと思いますが。
・・・それでもやっぱり自分自身に違和感があって。上手く説明が出来ないんですけど。
---それで、さっき看視実習で久しぶりに妹を見たら、私と同じように自分自身に違和感を持っているみたいなんです。これって偶然でしょうか・・・?それで頭が混乱しちゃって・・・。」
頭の中が整理できていない美癒の説明は滅茶苦茶だった。
だが、話し続ける美癒に対してジンは静かに頷いて相槌を打っていた。
美癒は言葉を止めてジンの顔色を伺った。
少し考え込む姿を見せたジンは、閃いたように笑みを浮かべる。
「美癒ちゃん、僕はこれから【空の世界】に用事があるんだけど一緒に行く?」
「へ!?」
突然の誘いに美癒は困惑して固まった。
(ジン様・・・何を突然!?それに、私の話を聞いてくれてるようで、聞いてくれてない!??ちょっと逆に笑いそうになっちゃった。)
一呼吸おいて美癒はジンにこたえる。
「【空の世界】は、学校の実習項目に無いから行けることなんて二度とないと思ってました・・・。」
「神使任務でしか行くことが出来ない場所だからね。行く?体調は大丈夫?」
「はい。ジン様が良いなら・・・。」
「それなら行こうか。距離が少しあるから・・・少し眠ってて。」
そう言いながらジンの手のひらが額に近付く光景を最後に、美癒は眠りについた。
「美癒ちゃん。おやすみ。」
***
【空の世界】
「起きて良いよ。」
「……はっ!おはようございます。」
寝惚けた顔を一気に引き締め、慌てて頭を働かせる。
(すごく心地よく眠ってた。私ってば涎垂らしてる…。)
辺りを見渡すと、とても懐かしい光景が目の前に広がった。
【空の世界】
ここは、生まれる前に過ごす世界。
人間の姿ではなく、各々の個性を持った色の魂が飛び交う。
「なんだか懐かしい気分…。私もあんなふうに、まん丸な魂だったんですよね~。ふふっ。」
「へ~、覚えてるんだ?」
「うーん・・・この光景を見て、なんとなく見覚えがあるっていう程度です。」
「そうなんだ。今いるこっち側は人間として生まれる魂が集まる所。
両親を決めた魂も、悩んでいて彷徨ってる魂も、みんな自分の心を持っている。
・・・今日はね、少し特殊なケースを対応するために来たんだ。」
「特殊なケースですか?」
「稀にあることではあるけどね。さぁ、行こう。」
歩き進める間、ジンは美癒に自分自身のことや、琉緒との関係を少し話した。
ジンの能力の1つに、魂の前世が何者だったのかを見る能力があるそうだ。
基本的に現在関わりがある人は、前世でも来世でも関わっているらしい。
神様がそうしているわけではない。
魂同士が引き寄せ合ってるのではないかとジンは考えている。
美癒は興味本位で自分の前世を聞きたかったけど、ジンは笑ってはぐらかしていた。
ジンと琉緒は前世の前世のかなり昔から縁があったと言う。
ジンが【この世】に生まれず【水の世界】に来たせいで、琉緒も巻き添えをくらったとかそうじゃないとか・・・その辺りは冗談っぽく話すからどこまでが本当の話なのか分からなかった。
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