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第1章
第15話 乾き
しおりを挟むそしてジンが目的としていた、ある魂のもとに着いた。
魂は《煉瓦色》と〔瑠璃色〕の2つが並んでいる。
ジンと美癒に気付くと、まるでお辞儀をしてくれたかのよう魂が揺れた。
「待たせてごめんね、君達の担当をさせてもらうジンだ。よろしく。」
《〔よろしくお願いします。〕》
「報告書は先に読ませてもらったんだけど君たちから直接、僕が呼ばれた理由を話してくれるかな?」
《僕達は兄弟として生まれる予定でした。僕が先に・・・兄に生まれることを決めていたんです。僕の未来の人生では、弟が交通事故で命を落としてしまうことが予想されていて、それを承知の上で選びました。
でもコイツが僕の弟として生まれることを選んでから、ここで一緒に過ごしていくうちに僕は弟を交通事故で死なせたくないと思った・・・。
ほら、見てください。あれが僕達の両親になる人です。
母親はしっかりしているように見えて実は天然で・・・。俺等が支えてやらないと駄目でしょう…。
父親はお酒が大好きです。将来は息子とお酒を飲んで語り合うのが夢らしいです・・・。
だから。だから・・・・!僕はいいから。僕が弟になるから、コイツを兄にしてやって下さい。
コイツ、本当に愛しそうな目で両親を見るんです。大人になっても両親の傍にいさせてやりたいんです・・・!!》
みんなは《煉瓦色》の魂の話を静かに聞いた。
とても必死にお願いしていることがよく分かる。
しかしこれはお互いが了承しているわけではないようだ。
〔兄さん、僕だっていいんだよ。僕が交通事故で死んでしまった時、両親の心を救えるのは兄さんだけだ。それに、僕が好き好んで弟の人生を選んだんだよ。だから代わって欲しいなんて言わないでくれ・・・。〕
美癒は2人の話を聞いて心が締め付けられた。
それと同時に、先ほど美癒がジンに相談した時、ジンが全く話を聞いていなかったことを思い出し、今回も話を聞いていないのではないかと心配した。
ジンは相変わらずで、吞気な口調で答える。
「そういう事か、分かった分かった。で、どうする?」
にこやかな表情のままのジンを見て、美癒は心の中ですかさずツッコミを入れる。
(いや、絶対全然わかってないでしょう!!!)
そして2人の話に疑問を持つ。
「ジン様、生まれる予定の魂を入れ替えることは出来るんですか?」
「基本的には一度決めた身体に生まれることが規則だよ。でも僕なら身体に入る前だったら入れ替えることが出来る。1魂につき1回限定だけだけどね。」
「へ、へぇ~・・・。」
入れ替わりの願いが聞き入れられることも、そんな能力があることも美癒は初耳だった。
「ちなみに、このことは学校で習っているはずだよ。」
ジンは美癒の耳元で、クスッと笑いながら小声で呟く。
(聞くんじゃなかった。私の頭の悪さが丸見えだ・・・。)
美癒は穴があったら入りたくなった。
《お願いします。早く入れ替えて下さい。コイツこそが兄になるべき・・・
生き続けるべきなんです!》
「・・・・・・・いやぁ~、でも・・・
稀にいるんだよ、君達みたいに入れ替えて欲しいっていう人が。
けどね、参考までにある例を教えてあげよう。
僕も話にしか聞いたことないケースだけど、本当にあった話だ。」
ジンは落ち着いたトーンで淡々と話しを続ける。
「君達と同じように、姉妹で生まれるはずだった2人がいた。
でも妹は事故で命を落とす未来が予想されていた。
姉は、『確実な未来ではない』と自分自身と妹にも言い聞かせて、生まれたらやりたいことを想像させながら励まし合っていた。
もちろん、姉は入れ替わりの申請も考えていたけど、妹がそれを許さなかった。
ここまでは君達と似てるね。」
〔本当に似てますね。そのあと姉妹はどうなったんですか?〕
「実は、姉が魂を操る能力を持っていたみたいなんだよ。
姉本人は気付いていなかったが、自分が先に生まれる直前、能力が開花して妹を先に【この世】へ送ったんだ。
おそらく僕とは違い、何度でも魂を操れる優れた能力かもしれない。」
《そんな事が・・・僕はそのお姉さんの気持ちが分かります。お姉さんは、妹を助けられたんですね。だから僕も・・・僕もお願いします!!!》
必死な《煉瓦色》のお願いを聞きながら、ジンは目線を下げて切なく笑う。
「それが、この話には続きがあってね・・・。」
美癒は瞬きすることを忘れて、ジンの話に聞き入っている。
「姉妹の入れ替えは成功。けど先に生まれることになってしまった元妹はまさかの流産。姉として・・・【この世】に生まれる事が出来なかったんだ・・・。」
《確かに未来は予想であって、最後まで何が起こるか分かりませんよ。でもこの姉妹が入れ替わって流産になったからって、僕達もなる可能性は低いと思いますけど。》
「そうだね・・・元姉はこの現実を受け入れられず取り乱したため、生まれる直前まで神様に魂を眠らされて、その後無事に妹として生まれたよ。記憶は全て消えて・・・ね。
そして妹には未来予想の通り命を落とす運命が待ち構えていた。
でも死因となるはずの事故を起こしても助かって元気に過ごしていた。
彼女は未来予想から外れて、自分自身で創りあげた未来を進んでいるんだ。
長くなっちゃったね。僕が言いたかった事は、ここで見る未来の人生は本当に不確実なんだよ。だから2人はこのままの入れ替わらなくてもいいんじゃない?」
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