16 / 121
第1章
第16話 乾き
しおりを挟むまるで作り話のようだが本当にあった出来事。
考え込む兄弟の魂。
悩むのは当然のことだろう。
もし叶うなら、兄弟揃って本当の願いは”共に大人になり年老いていく”こと。
〔兄さん・・・僕だってきっと死なない。未来予想は不確定すぎて、簡単に違う未来に塗り替えることが出来るんはずなんだ。例え死ぬ運命でも僕は負けない強さを持ってる。だから僕を信じて、兄として先に生まれてよ・・・。〕
《うぅ・・・っ。変わってやりたい・・・のに。・・・ごめん、ごめんなぁ・・・。》
魂が小刻みに揺れる。
お互い大雨のように涙を流していた。
それは、とても綺麗な涙だった・・・。
「じゃあ、このままで良いよね?医療もどんどん進んでいってるみたいだし、病気や事故でも助かるケースは増えてると思うよ。」
ジンはその場の空気に似合わず、相変わらず軽い口調で話している。
〔はい、このままで良いです。手間をかけさせてしまいすみません。〕
《僕も・・・弟と共に想像する別の未来を信じます。すみませんでした。》
「いいよいいよー。もう大丈夫だとは思うけど、またお兄さんの気が変わったら声をかけてね。」
《〔ありがとうございました!!!〕》
話は終わり、ジンは美癒の方を向く。
「あれ?・・・美癒ちゃん、どうしたのボーっとして。帰るよー???」
強張った表情の美癒は、話しかけられて現実に戻り、目を見開いて慌てる。
「あっ!は、はい!すみません。兄弟君たちお元気で。またねー!!!」
「元気でね~。」
《〔さようなら~。〕》
美癒は手を振って、歩き始めたジンの背中を追いかける。
「・・・ジン様はてっきり兄弟君たちの話を全然聞いてないのではないかと思って、心配してました。」
「ははは、ひどいなぁ。僕だって話は真剣に聞くよ。ここでは色々あるからね。」
「すみません。」
「え、まさか・・・そんなことを考えてボケーっとしてたの??」
「いえ、それは違くて・・・。姉妹の話、何だかゾッとするなぁって。」
美癒は鳥肌の感覚を思い出し、両腕を擦る。
「あぁ・・・参考として未来の人生を見たからって、それに囚われていたら駄目ってことだね。」
「そうですね、あの兄弟君たちが一緒に大人になってくれたら私も嬉しいです。」
それはジンも同じ気持ちで、軽く頷く。
「でもちょっと気になることがあって・・・。
姉になった元妹は、生まれることが出来なかったから【水の世界】にいるんですか?
妹として生まれた元姉は、今でも【この世】で生き続けていて、魂を操る能力は使えるままなんですか?」
「ははは、美癒ちゃんは鋭いね。」
「琉緒には脳ミソ空っぽってよく言われますけど。」
「そうだよね。美癒ちゃんの言った通り、生まれることが出来なかったから【水の世界】に来たみたいだよ。」
美癒の左側の頬がピクッと動いた。
(”ソウダヨネ”って・・・?ジン様も私のことを脳ミソ空っぽって思ってるんだ・・・。)
美癒はコホンと咳払いをすると話を続けた。
「私の思った通り、【水の世界】にいるんですね!勝手に魂を入れ替えられて、そのうえ生まれることも出来なくて・・・怒ってなかったんですか?」
「怒ってないでしょ~。悪意があったわけじゃないし、寧ろそのあと生まれた妹のことをずっと大切に思っていたと思う。」
「へぇ・・・誰なんだろう。まだ【水の世界】にいるんですか?」
「どうだろうね~・・・それと妹として生まれた子は、当たり前だけど【空の世界】の出来事は覚えてないし、【この世】の人間だと魂を操る能力も使えない。折角兼ね備えた能力だけど、ただの一般人だよ。
・・・・・・来たな。」
ジンの視線が美癒の背後に移る。
「へ?」
周りの空気がフワッと浮いた感覚がして
美癒が振り向くと、琉緒が飛んで来ていた。
「琉緒・・・。」
怒った顔した琉緒の足が地上に付くと、美癒の腕を掴んで自分の方に引き寄せる。
「ジン!!!何のつもりだ!」
「ははは、美癒ちゃんが悩んでるみたいだったから、気晴らしに遠出かな。」
琉緒は美癒の方に目をやる。
「悩み?・・・いや、だからって美癒を連れ回すんじゃねえ!一応病み上がりなんだ!!!」
「やめてよ琉緒、私がついていくって言ったの!」
「美癒は黙ってろ!」
「おい琉緒、美癒ちゃんにそんな言い方はないんじゃないか?それにお前の場合、勝手に此処へ来ただけでも問題だぞ。」
「将来に向けての社会科見学だ!」
(いやいや無理があるって・・・。)
「まあいい、琉緒がここに来た事は僕が何とかしてやる。」
(いいんですかぃ・・・。)
そう言いながらジンが美癒の元へ近付き、琉緒の手を引き離す。
「腕、大丈夫?痛くない?とりあえず【水の世界】に戻ろう。
---ごめんね美癒ちゃん、また眠ってて・・・おやすみ。」
「おいジン!!!!」
遠ざかる意識の中で、琉緒が怒っている声が聞こえた。
(すごく怒ってる・・・ジン様大丈夫かな?)
この状態で意識を失うのは正直心配だったが、考える暇もなく目の前が真っ暗になり再び眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる