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第2章
第20話 フラグメント
しおりを挟む(あれ?琉緒がいない。待ってくれてると思ったのに・・・。)
船はいつの間にか出発していて、琉緒はトイレの外にも座っていた席にもいなかった。
美癒は、カンナの事を教えてくれた友達に声をかけた後、再び琉緒を探した。
(外にいるのかなぁ?あっ!もしかして慎先生の所に文句言いに行っちゃったのかも!!)
止めないといけないと思い慌てていると、背後からジンの声がした。
「琉緒を探してるの?外にいるよ。」
「ジン様!何でここに?」
「今日は僕も付き添いなんだ。琉緒とはさっきまで話してたから、まだ外にいるよ。」
「えっと・・・はい。行ってみます。それと、昨日は本当にありがとうございました。」
頭を下げて、琉緒の所へ向かった。
船の速度が速いため、外に出るととても風が強く自分が飛ばされそうだった。
「おい、落ちたらどうすんだよ。」
背後から琉緒に腰を掴まれる。
「琉緒!何で外にいるの!?危ないじゃない!」
「危ないのはお前だよ・・・。」
その瞬間、美癒は琉緒の支え無しで普通に立っていられるようになった。
「魔法使ってくれてる?」
「あぁ、じゃないと落ちるぞ。」
辺りを見渡しても誰もいない。
こんな強風で外に出る人は他にいないようだ。
「船の中に入らないの?」
「息苦しくなる存在がいたんだよ。」
(ひょっとして、ジン様のこと?)
「・・・じゃあ私も一緒にいるよ。」
琉緒は嬉しそうに優しく笑った。
「カンナは?」
「話ができたよ。自分で乗り越えようとしてるから、きっと大丈夫。
カンナは強いや。本当すごい・・・。」
「美癒も、何か悩んでるんだろ?」
「あ・・・昨日ジン様から聞いたんだよね・・・?」
美癒は自分自身の違和感、【空の世界】での出来事や最近見る夢について全て話した。
「お前は、俺との思い出・・・記憶にも違和感があるんだな・・・。」
「ご、ごめんね。忘れてるわけじゃないんだけど、おかしいよね。」
「・・・・・・お前は誰なんだよ。」
「え?」
琉緒の言葉に固まる。
「何でもない。やっぱり中に入ろうぜ。」
(何でそんなに悲しそうな顔をするの?)
「ちょっと待って!私は私だよ。それに琉緒が相談しろって言ったんじゃん!!」
「あー・・・悪い。えっと、あれだな。何て言うか。
相談してくれたけど、俺には分かんねぇ!」
つい先程まで悲しい顔をしたかと思えば、急にいつもの琉緒に戻ってふざけたように笑いながら答える。
そんな琉緒の様子におかしいと思いながらも、自分を否定されるのが怖くて目を逸らした。
「もー、そうだね。その返事の方が琉緒らしいよ。真面目に悩み相談のアドバイスくれたら気持ち悪いもん。」
「おいコラ。」
「アハハーー。」
琉緒は、美癒が菜都として生きていた事実を知っていても言えなくて苦しんでいた。
何も知らない美癒は、琉緒と一緒に船内へ入っていった。
***
異界の山の入り口に到着。
みんなが次々とに外へ出てくる時、泣き止んでいるカンナを見つけて安堵した。
一行は、ジンと慎先生について歩き進む。
誘導任務の人達が何人か待ち構えていて、その先を案内してくれた。
山を登ってしばらくすると大きな建物が見えてきた。
誘導任務の事務所兼待機室だと教えられ入って行く。
「みなさん、初めまして。誘導員を代表して案内させて頂くトオルと申します。
【この世】から異界の山に来られる方は、この大人数に驚くかもしれません。それと同時に一緒に歩き進める安心感もあると思います。」
トオルの話は演説のように続く。
初めての誘導任務実習のため、気を付ける事は山ほど有った。
「・・・と、このように沢山の注意事項を言いましたが、その中でもこの2点は必ず守ってください。
①安心して一緒に進むために悲しい表情はしないで下さい。笑顔が難しければ、無表情で構いません。
②会話をしないで下さい。話すと相手から必ず質問されます。ここはどこなのか?あなたは誰なのか?・・・我々はそのような質問に、一切答えることが出来ません。
そのほかにも、情が移る・進む妨げになるなど様々な理由はありますが、会話をしない事が一番です。」
注意事項が多すぎて頭に入らなかった美癒は、この2点だけでもと思い頭の中で何度も唱えた。
「また、私は自身の姿を好きな年齢に変える事が出来ます。
【あの世】に近付くほど私は年老いていきますが皆さんは驚かないで下さい。
では、外に進みましょう。」
そう言ってトオルは建物の奥にあるとても大きな扉を開いた。
みんなはトオルの後ろをついて歩く。
先ほどまで大人の姿だったトオルは本当に姿を変えていて、子供になっていた。
そして、外は山の中だったはずなのに、辺りは真っ白。
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