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第2章
第21話 フラグメント
しおりを挟む先の方には人影が見える。
真っ白の中、とても目立っていた。
(あの人がカンナのお父さんかな?)
男性は背後にいる美癒達に気付かないまま、首を上下左右に回して途方に暮れているようだった。
そして近付く足音に気付いて振り向き
「だ、誰だ!!!?」
と、とても驚いた表情を見せた。
先頭のトオルはニコリと笑い、男性に向かって手招きをした。
あっけらかんとした男性は、何も言わずに近付いてきた。
トオルが歩き始めると、皆がついて行く。
カンナは男性近くの最後尾を歩いていた。
少し歩くと真っ白の景色から、山の中に戻った。
男性も余裕がでてきたのか、カンナ含む最後尾の人達に
「ここはどこだ?」
「君達は何をしている?」
「どこに向かってるんだ?」
などと話しかけていた。
誰も返事は出来なかった。
川を渡り、洞窟を抜け、疲れてきた美癒は琉緒の方に目をやった。
視線にすぐ気付いた琉緒は、余裕そうにフフンという表情で笑った。
そして先頭にいるトオルに目を移すと、だんだんと年老いていくのが後ろ姿からも分かった。
それを見て、
(あぁ、もうすぐ【あの世】に着くんだ。)
と分かる。
そしてトオルは行き止まりになった所で立ち止まり、振り向いた。
男性はその時トオルを見て漸く老化に気付く。
「き、君は誰だ!?まさか先頭にいた子供が君なのか!?・・・どうなっている?」
トオルは表情を変えず、上を指差した。
男性も、もちろん美癒も
指先を辿って上を向く。
(え、行き止まりだと思ってたけど・・・まさかこの崖を登るの!!?)
美癒の笑顔は引きつる。
もちろん男性も真っ青になっていた。
「無理だろ!」
先にトオルが登り始めるとクラスのみんなもそれに続く。
そうすると男性も、仕方ないという感じで諦めながら最後尾を登っていく。
ふと美癒の方に目をやる琉緒。
一生懸命登っている美癒を見て愛おしく、それが面白くて笑いが堪えられなくなり
美癒が楽に登れるよう魔法をかける。
勿論、自分が吹き出して笑ってしまわないようにしただけである。
フワッと身体が軽くなり驚く美癒は琉緒の方を見た。
(琉緒!!魔法を使ってくれたんだ。)
口パクで「アリガトウ!」と言うと、琉緒は少し馬鹿にしたような笑顔で頷いた。
(ってよく見ると、魔法使える人は軽々と上がってるし、ジン様なんて浮いてるじゃん。)
登るのに余裕が出来た美癒はカンナを見る。
カンナの目は、涙がこぼれそうに潤っていた。
そして頂上に到着すると、みんなは疲れた表情を出さないように堪えて立った。
男性は体力があるのか
割と平然とした姿で立っていた。
そして目の前には大きな扉。
トオルは男性に向かって扉を指差した。
みんなが立ち止まっている中、既に何かを悟ったように
男性は扉に向かって歩き出す。
普通に歩いているのに、時の流れが遅く感じた。
「・・・っ!お父さん!!」
「!?」
ついにカンナが我慢できなくなり呼び止める。
最後の最後に気持ちが抑えきれなかったのだ。
男性は振り向いて声の主を探す。
焦ったトオルが止めに入ろうとするが、ジンがそれを阻止した。
ジンとトオルを見て、みんなも黙ったまま静観する。
男性の視線はカンナを捉えた。
「お父さんって・・・?まさかキミは、僕達の娘か?そうだ。生まれていたらこれくらいの女の子のはずだ・・・。」
男性は膝をついて涙を流す。
「お父さん・・・お父さん・・・、1度で良いから呼びかけてみたかった。
私ずっと見てたよ、お父さん達の事。元気に生まれる事が出来なくて本当にごめんなさい。お母さんとお父さんに抱きしめて欲しかった。・・・お母さんを大事にしてくれてありがとう。私の事を忘れないでくれていて、ありがとう。
お父さん、女の子だったらカンナって名付けようって言ってくれたよね?
私の名前は、カンナだよ。」
男性は大粒の涙を流したまま立ち上がり、カンナに近付き抱きしめる。
「カンナ、カンナ・・・お父さんも名前を呼びたかった。抱きしめたかった。
・・・・やっぱり俺は死んだんだな。それでカンナに会えたんだな。会いに来てくれてありがとう・・・。カンナも一緒に行くのか?」
「うぅっ…ごめんね。私はまだ行けないの。お母さんの事は私が見てるから
お父さんは安心して。」
「折角会えたのにカンナと・・・離れたくない・・・・。」
「私もだよ。私もお父さんとずっと一緒にいたいよ。」
親子の会話を聞いている美癒、そしてクラスのほとんどが涙を流していた。
そして美癒は無意識のうちに、2人に近付いていく。
抱き合う2人を美癒も包み込んで、一緒に男性を【あの世】へ送り出したかった。
美癒と同じ気持ちの人も多く、一緒に親子を抱きしめようと歩く美癒の後ろに続々と続く。
(カンナのお父さん・・・死なないで欲しい・・・。)
そう思って美癒が抱きしめるため手を伸ばすと、美癒の手から眩しい光が発せられて2人を包んだ。
(何だろう、この光・・・すごく眩しい。お父さんが【あの世】に行くための光なの?)
「お父さん・・・!?」
光が消えると男性はいなくなっていた。
「もう扉の向こうに行っちゃったの?」
「・・・いや、違う。彼は【この世】に戻っている。」
ジンが【この世】のモニターを映すと、男性が病院で手術を終えた所だった。
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