37 / 121
第2章
第37話 暁闇
しおりを挟む*-*菜都 side story*-*
昨晩は早い時間から眠りについていたのに目覚めが悪い。
それ以外はいつも通りの朝の始まりだと思った。
(怖い夢を見た気がする・・・気分が悪いわ。)
パンをかじりながら、つけっぱなしのテレビニュースに目を向ける。
「昨日の夜に香織ちゃんから電話があったんだけど、何回呼んでも起きなかったから切らせてもらったわ。ちゃんとかけ直してね。」
台所に立つ母が、思いついたように話かける。
「え?何だろう?一緒に学校行くからすぐに会うけど・・・。」
「様子がおかしかったから体調が悪いのかも。大丈夫か聞いたんだけどね・・・もしかしたらお休みの連絡じゃないかしら?」
香織は少し時間にルーズなので、約束の時間が過ぎれば菜都は先に学校へ向かう。
そのため、前もって休む連絡が来たのだとは思えなかった。
菜都は嫌な予感がして、食べかけのパンを置き慌てて香織の自宅に電話をかける。
~~~♪♪
「もしもし。」
数回コールが鳴った後、電話に出たのは香織本人だった。
(声のトーンが低い。どうしたんだろう?)
「おはよう!土田さんだよー。昨日は寝落ちして電話かけ直すことができなかった・・・ごめんね。何かあった?」
「・・・菜都っ!近藤君が・・・。」
「ん?」
「・・・突然刺されたの。」
「え!?」
思いもよらない一言に、菜都は受話器を握りしめる。
それと同時に、テレビでは通り魔のニュースが流れていた。
”被害にあった男子中学生は意識不明の重体。刺した男性は現場から刃物を持って逃走しています。30代後半から40代前半とみられ---”
「意識不明の重体・・・?今ニュースでしてるやつ・・・?香織は大丈夫なの?」
「すごく危険な状況だったんだけど一命をとりとめたって。覚悟していたよりも大丈夫そう。私も落ち着いたし怪我もしてないよ。」
淡々と話す香織は言葉の通りとても落ち着いた様子に思える。
香織の無事を確認すると菜都は安心してその場に座り込んだ。
「びっくりしたよ・・・そんな大変な事があったのになにも知らなくて・・・力になれてなくてごめん・・・。」
「私も気が動転してたけど、近藤君の無事を確認できてからやっと落ち着けたの。犯人は分からないけど、今思えば最初私を狙ってきたような気がする。私のせいで怪我したのかも・・・。それにいつ目を覚ますんだろう・・・サッカー、続けられるよね・・・?」
「香織のせいじゃない!どう考えても犯人のせいだよ!
それに近藤君は誰に何を言われても絶対サッカーを諦めないから!絶対に!!」
時折弱音を吐く香織を励ましながら、学校に行く時間になったため電話を切る。
香織は事情聴取も終わりカウンセリングをられていたそうだ。
そして、一睡もできていないこともあり今日は1日休むそうだ。
「香織ちゃん大丈夫だった?今さっきニュースでしてたんだけど近所で通り魔事件があったみたい。犯人は捕まってないから今日は車で送るわ。」
「あ・・・うん、大丈夫そう。ありがとう。」
母のおかげで車で行く事になり、いつもより少し遅く家を出た。
学校に着くまでの間、小学校や中学校の先生、保護者などが至る所に立っていて見守りを強化しているように見えた。
「送ってくれてありがとう、帰りは友達と帰るからいいよ。気を付けて帰ってね。」
「今日はまっすぐ帰りなさい。じゃあいってらっしゃい。」
菜都は母に向かって手を振り、下駄箱へ向かう。
登校してくる見知らぬ人たちも通り魔の噂で持ち切りだった。
授業が始まる前に、急遽体育館で全校集会が行われた。
校長による、通り魔事件についての注意だった。
生徒たちは落ち着かない様子でざわついている。
教室に戻ると他のクラスの女子5人が菜都の元へやって来て廊下へと呼び出す。
「近藤君は休み?」
彼女達は去年から近藤君のファンクラブを名乗り、よく教室やサッカー部に顔を出している。
「え?どうだろー・・・2年の教室行ってないし分からない。」
「近藤君の噂があることないこと言われてると思うの。どう思う?」
「噂って?」
「本当に何も知らない?昨晩入院したらしいけど。そのせいで”通り魔に刺されたのは近藤君じゃないか”とか言われてる・・・まさかそんなわけないよね?」
菜都は香織から口止めされたため、何も言えなかった。
「そ・・・そうなんだ。何で入院したんだろう・・・ね?」
菜都の答えに彼女達は苛立ちを隠せなかった。
「本当のことを言ってよ!!!」
「そう言われても・・・。」
彼女たちが気の毒に思えたが軽い気持ちで言うことも出来ない。
困っているところに琉偉が人混みの中から現れる。
「菜都は知らないって言ってるだろ!」
「琉偉!」
一瞬たじろぐ彼女達だったが、集団の力で再び強気に戻る。
「ふっ、土田さんが知らないならこれ以上聞いても無駄ね。浜田と付き合ってるから、近藤君と仲良くしてても我慢してたけど・・・もう近藤君には近付かないで。」
菜都に対してただの八つ当たりだったが、言いたい事だけ言うと菜都の元から去って行った。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる