夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

文字の大きさ
40 / 121
第2章

第40話 暁闇

しおりを挟む

あっという間に遂行実習の終わる時間が来てしまったが、美癒の心はモヤモヤしたままだった。

次は選択実習の時間で、美癒が受ける授業ではなく時間が空いたため学校ビルの中庭へ向かった。

ベンチに腰掛けて風で揺らぐ花を見ているうちに、懐かしい記憶が蘇ってきた。


***


「菜都は先生の代わりによく水やりしてるよな。学校の花なのに。そんなに花が好き?」

「うん、花の名前とかは全く覚える気ないけど好き。」

段差に腰掛ける琉偉に話しかけられ、菜都はジョウロを持って校庭に咲く花に水をあげながら答える。

「菜都らしいな、花の名前覚えられないだけだろ~。」

「ううん、違うよ。知ってる花も多いけど本当に覚える気がないだけ。花って用途によって使い分けられるじゃん?それが気に入らないの。母の日だから?お祝いだから?お供えだから?別に好きな花でいいじゃんって感じ。私の勝手な考えだけど、そう思うのは自由でしょ。」

「あ~、その辺は俺もよく分からないや。」

段々とムキになり少しキレ気味な口調になってきた菜都に対して琉偉は苦笑いをする。

「うちの庭はお花がいっぱいなの。だから私も自分の家を持ったらお花でいっぱいな家にしたい。」

「オトコ女って言われてるのに、たまには可愛いな。」

「可愛いでしょっ!」

ジョウロの水が空になり片付けると、琉偉も腰を上げる。

「俺は野菜を沢山育てるから、菜都は花を沢山育ててな。」

「・・・ん?」

驚いた菜都は持ち上げたばかりのカバンを落としてしまう。

琉偉の顔は真っ赤だった。

「ふふっ、プロポーズみたい。」

「俺ら結婚するだろ?本ッ当にいつも菜都は余裕ぶって照れもしねぇ。」

「照れ・・・てはないけど、嬉しいよ。ありがとう。」

菜都は背伸びして、琉偉の両肩に両腕をかけ首筋に軽くキスをした。

琉偉の顔はりんごのように真っ赤だった。

「琉偉の背が高いからほっぺたには届かなかった。」

ニヤリと笑う菜都を見て、琉偉は「このやろ・・・」と呟きながらそのまま菜都を引き寄せて唇にキスをした。

「ふふっ待って、そこ誰か通ってる。」

「うっせ、1年だろ。」

「だーめ。」

琉偉の胸を両手で押す。

琉偉は後ろを振り向き、通り過ぎようとしていた1年生に向かって『シッシッ』と手で追い払う仕草をした。

女の子2人がペコリと頭を下げながら走って行く。

「ばか、帰るよ。」

「ちぇっ・・・。」

琉偉がスッと菜都のカバンを持つ。

「あ・・・ありがと。」

「ん。その代わり俺の手を持っといて。」

少しいじけたように言う琉偉を見て、菜都は笑いながら手をつないだ。


***


(懐かしいなぁ・・・。そういえば前に看視実習で、琉偉が『最近の菜都は女の子らしくて今の菜都の方が好き』って言ってたよね。私が菜都だったことを思い出しちゃったから琉偉の発言に腹が立ってきた!・・・でも今の菜都が好きだなんて、琉偉は見る目があるんだな・・・。)

卒業を前にして、看視実習も次回で終わりとなる。

看視実習が終わると、モニター越しではあるが菜都や琉偉に会えなくなってしまう。

少し憂鬱な気持ちのままベンチに横たわった。

「お花さん、キミの名前はなぁに?・・・折角名前があるのに、知ろうとしなくてごめんね。庭を花いっぱいにする夢は叶わないや・・・。」

どれだけ時間が経ったか分からなかったが、本当に心が洗われていくような気持ちがして色とりどりのの花を眺め続けていた。

「風邪引くぞ。」

背後から琉緒の声がした。

迎えに来てくれると分かっていた美癒は、クスッと笑いながら起き上がる。

「私暑いより寒い方が好きなの。」

「雪だるまみたいだもんな。」

「・・・じゃあ暑い方が好きって言ったらどうするのよ。」

「ヤカンみたいに頭が沸騰してるって言うと思う。」

「・・・見て、お花可愛いねぇ。」

何を言っても馬鹿にされるから呆れて話題を逸らした。

「時間がないから教室行くぞ。」

琉緒は美癒の腕を持ち上げながら立たせて引っ張る。

「ねえ、昔の美癒は女の子らしかったでしょ?そんな意地悪言ってなかったよね?」

「あー・・・そうか、お前は昔の美癒の記憶もあるのか。」

「うーんハッキリとは分からないけど、微かに。昔見たテレビの内容を覚えてるって感じ。」

「例え方がこの世界向けじゃないぞ。」

「あーテレビや漫画が恋しいよぉ~。」

琉緒は「はいはい」と言いながら美癒の服についていた砂埃を払う。

そんな姿を見ながら美癒は嬉しくなって、琉緒の両肩に両腕をかける。

そして背伸びして首筋に軽くキスをした。

「ふふっ、やっぱりほっぺたには届かないや。」

「みっ美癒!・・・ん?ちょっと待て、これどこかで見た光景・・・。」

「はははっ!!琉偉と一緒で顔がリンゴみた~い。」

「やっぱり!お前なぁ、琉偉のこと考えながらするなよな。」

思い出したかのように言う琉緒は、看視実習で当時の菜都と琉偉を見ていたようだ。

「覗き見するなんて変態~、スケベ~。」

「ばっばか!違うだろ・・・俺は弟みたいに続きはしねぇぞ。」

そう言うと、琉緒は美癒の耳元で「時間がないからまた今度な」と囁いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...