夢で出逢う - meet in a dream -

第２章

第４６話 プリムラ

美癒が目覚めてからジンが何度か会いに来た。

琉緒にすぐに追い出されていたが、ジンは琉緒にお構いなしだった。

あとからジンに聞いた話だが、神様と会話すると神様の放つオーラに身体が耐えられず体力・魔力が消耗するらしい。

それに加えて通常と流れる時間のスピードが違うため、神様と長く対面すればするほど命も削られていく。

神様は命を生み出し続けているが、その逆も持ち合わせてしまっているということだ。

ジンですらも初めて対面した時は、長時間走り続けたかのような疲れで丸一日眠っていたという。

美癒は眠りから目覚めた後もひどく身体が重く、通常の生活に戻るまで一週間以上かかった。


「神様からプレゼントされたこの小さな箱が、【この世】につながるんだねぇ。神使任務に就くとこんな特典があるなんてすごくラッキー。ずっと寝込んでたからそれどころじゃなかったけど早く行きたいな～。」

美癒がソファに座って箱を見つめる。

少し離れた所に座って本を開いている琉緒は返事をしなかった。

「琉緒～、聞いてるの？」

「別に。俺は【この世】に行きたいとも思わないから、使い道が分からねぇ。」

「ふふっ【この世】には琉緒が思っているより楽しい事がいっぱいあるよ。旅行感覚で良いって言われたんだから。私が色んな所に連れて行ってあげる！美味しいものもあるし、楽しいゲームや漫画もあるし･･･って、私が大好きな漫画･･･結末どうなるんだろー。思い出したら気になってきた。」

「今まで忘れてたんだから、気にしなかったら良いだろ。」

呆れた琉緒が、冷めた口調で言う。

「それよ！この気持ちは【この世】で生活した人にしか分からないんだわ。とりあえず【この世】には短い時間しかいられないから有意義に使わなきゃね。菜都や琉偉のことも気になるし。」

「はいはい、分かったよ。」

相変わらず、どうでもよさそうに返事をする琉緒。

「ところで琉緒、何読んでるの？」

立ち上がり、琉緒に近付いて本をのぞき込む。

「何これ、図鑑？蝶々･･･？」

「あぁ、蝶々じゃなくて花だ。たまたま読んでたら載ってた。」

「これ、花なの！？すごい！！蝶々みたい！」

本物の蝶々に見える色とりどりでとても綺麗な花を見て、美癒の顔はパッと明るくなった。

「やっぱり･･･喜ぶと思った。」

最近寝込んでいた美癒を元気づけようと思い、琉緒は調べていたのだ。

「うん、綺麗。初めて見たぁ～！何ていう名前なの？」

美癒は花の名前が知りたかったわけではなかった。

ただ、自分のために琉緒が調べてくれたのだと思うと嬉しくなってその花の正体が気になったのだ。

「唯一【水の世界】にしか咲かない花だからな。名前は･･･つけられていないようだ。あ、俺は花について全く分からないぞ。」

「へぇ、花は好きだけど私も詳しくないよ。【水の世界】のどこに咲いてるの～？」

「異界の山の最後の扉がある崖の反対側って書いてある。ここだけみたいだ。」

「行けるじゃん！今度見に行こう！！」

「持って帰れねぇぞ。摘んだら30分で枯れてしまうって。」

「見るだけにするから！」

目を輝かせて喜ぶ美癒を見て、つい琉緒の表情にも笑みがこぼれる。

琉緒はこの雰囲気に安心しながら図鑑を閉じて立ち上がった。

「病み上がりなんだから、今度な。」

「うん！ありがとう、楽しみにしてるね！」

「図書館に返してくる。」

「え、もう？私も図鑑見てみたかったなー･･･。」

琉緒が部屋から出て行ったので、美癒はベッドに横になり目を瞑った。

美癒が順調に回復していっているので、近々ジンが【この世】へ行くことについて説明に来る予定だ。


美癒は楽しみが増えて、浮かれてしまっていた。

まだ見つけることの出来ないゼロ。

ゼロと対峙する予定である【この世】の琉緒。

本物の琉緒が【この世】に戻ることにより待ち受ける、別れ。

記憶が戻ったがために菜都が抱える本当の気持ちーーー。