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第2章
第45話 プリムラ
しおりを挟むつい見惚れていると、突然心の中から知らない声が聞こえてきた。
(美癒、来てくれてありがとう。)
(え?なに!?)
神様を見上げて様子を伺ったが喋っている様子は無い。
空耳かと思い隣にいる琉緒の方を見ると、琉緒も驚いた顔で美癒の方を振り向いていた。
(ジンから何も聞いてないのね。驚かせてごめんなさい。私はあなた達のように言葉を口に出して会話が出来ないの。・・・だけど心で通じ合う事は出来る。)
心に響くソプラノの声は空耳ではなく、神様の声だった。
声は全身に響き心地よかった。
(この会話は琉緒達にも聞こえてますか?)
(いいえ、私とあなただけ。ジンと琉緒にはそれぞれ話しかけてるわ。)
神様は心の中で、ジン・美癒・琉緒と同時に別のやり取りをしているため、部屋はシーンと静まり返る。
(渡したいものがあって呼んだのだけど・・・。
美癒、あなたは・・・そう。
本当は菜都に戻りたい、菜都がうらやましいのね。)
・・・美癒は返事に困った。
近藤君が異界の山にやって来た時に美癒が涙を流したのは、菜都に戻りたい気持ちに気付いたからだった。
気付いてはいけない・・・認めてはいけなかった。
これまで菜都の人生を奪って生きてきた罪悪感があり、菜都に戻りたい気持ちは再び心の奥底へ閉じ込めて蓋をしていた。
戻りたいだなんて思ってしまうだけでも罪だ。
菜都に悪いから。
美癒は神様に返事が出来なかったが、心の中は全てお見通しである。
(ジンが迷惑かけたせいで、あなたと琉緒にもより一層苦労をかけるわね。ごめんなさい。でもあなたはもう神使任務の一員。あなたの活躍を期待してるわ。)
(はい。この身が尽きるまで精一杯務めます。)
(・・・これは私からプレゼント。神使任務に就く者には皆に与えているの。)
天使から小さな箱が、美癒と琉緒に渡される。
(12時間限りの1度だけ【この世】に行く事が出来るわ。神使任務に就く前に旅行気分で使ってちょうだい。色々と規則はあるけどジンが教えてくれるわ。)
(えー!?ありがとうございます!!!)
思わぬプレゼントについ笑みがこぼれる。
そんな美癒の様子を見て神様は微笑むと、自身の翼から羽を抜いて美癒に渡す。
(これは特別あなたへ。いつか翼が必要になる時が来るでしょうから、その時まで肌身離さず持っていなさい。)
(あ、ありがとうございます・・・?)
何のために羽を与えられたのか理解が出来なかったが、琉緒のように飛ぶことができない自分への情けだろうと思うことにした。
(羽が綺麗なうちは何回でも使えるけど、使う距離によっては一度しか使えないから使い時を考えてね。)
神様は微笑んだまま美癒たちを見つめる。
(相変わらず昔からあなた達は仲良しね。)
(???)
(あなたたちに負担がかかってるからここでお別れしましょう。それでは・・・。)
神様が開いた右手を上げると周りを囲む天使たちが花びらのように舞い上がり、カーテンが少しずつ閉まっていった。
カーテンが全て閉まると強風が3人を包んだ。
「・・・よし、帰ろう。」
風が止み、ジンに話しかけられて気が付くと美癒の部屋の前に帰って来ていた。
跪いたままだった美癒と琉緒は立ち上がる。
「神様に会うと、なんだか心がほわ~んとするねぇ。」
「確かに、不思議な気分だったな。」
美癒も琉緒も夢の中から目覚めた気分だった。
「大丈夫?今日は遅くまでごめんね。」
「遅くまで?・・・って、えぇ!?もう真夜中!?」
廊下に掛けられた時計を見て驚く。
「パーティから出てきたのが夕方で、神様に会ったのは少しの時間だったはずなのに何でだ!?」
「流れる時間のスピードが違うからね。疲れていると思うから【この世】に行く件は改めて話そう。
それと・・・これだけは忘れないで。僕達は神様によって生み出された魂。神様は人類の母みたいのものだよ。それじゃ、ゆっくり休んで。」
そう言ってジンは姿を消した。
美癒は困惑しながらも、一気に襲い掛かる眠気に負けて考えるのを辞めた。
琉緒も美癒の部屋へ一緒に入り、お互い倒れ込むように眠りについていた。
その後、美癒は丸三日、琉緒は丸一日眠りについていた。
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