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第2章
第44話 プリムラ
しおりを挟むそれから数日の間に他の実習も次々と終わりを迎え、卒業パーティーの日がやってきた。
【この世】のように卒業式はなく、卒業パーティーが開催されるのみだった。
パーティには各任務に就くお偉方が来賓としてやってきて、その内の数人による演説が大半だった。
来賓の中にはジンもいて、演説をすると聞いている。
演説中も皆が静まることはなく、自由に動き回っている。
そんななか美癒と琉緒は神使任務の来賓に挨拶回りを済ませて一息ついていた。
2人はホールの隅に移動すると空いていたソファに座った。
周りが騒がしいなか、美癒はあたりを見まわした。
「あ、ドアの近くに異界の山のトオルさんがいる!」
卒業生に囲まれているトオルは子供になったり年寄りになったりと変身に忙しそうだった。
おそらく卒業生が変身見たさにお願いしたのだろう。
「忙しそうだ。トオルさんにはお世話になったなぁ。」
「本当ね。私が菜都として異界の山に来た時の担当もトオルさんだったんだぁ。」
「知ってる。年寄なんだから、入れ替わりで驚かすと心臓に悪いぜー。」
「ん?年寄?・・・オジイチャン??」
「俺はトオルさんが何歳か知ってる。」
「なんでよ。」
思わず吹き出す。
「実は・・・」
琉緒は美癒の耳元で囁く。
「えええ!!?91歳!!!?」
「シーっ!!!バカッ大声で言うな!」
慌てて美癒の口を抑えるが、周りが騒がしいため心配する必要はなかった。
「おっと、ごめん。びっくりして。」
「ふぅ・・・長いあいだ異界の山を守ってきてるんだ。
あー俺もトオルさんみてぇに、自分の容姿を好きな年齢に変えてみてぇなー。」
美癒は琉緒に「だねぇ」と同意しながら笑った。
(ふふっ琉緒が他の人の魔力を羨ましがるなんて初めて聞いた。)
知らない人の演説中にこれまた知らない人がやって来て、美癒と琉緒はジンに呼び出された。
ジンの所に向かうためホールの外に出ると雪が降っていた。
「キレイ・・・。私が住んでた地域は雪が降らなかったから憧れてたんだ。すごく冷たいね!」
美癒は手のひらに雪をのせようと必死だ。
「俺だって毎年見ても飽きねぇよ。積もるといいな。」
「積もったら雪だるま作るの手伝ってね。雪合戦でもいいなぁ~。」
「なんだよそれ。雪が大量に舞ってる中を飛ぶのがスッゲェ気持ちいいんだよ。もっと降り出したら飛ばしてやる。」
琉緒が目を輝かせながら、願うように空を見上げる。
「ふふっ子供みたーい。」
「うっせぇ。」
ジンが2人を見つけると手を振りながら駆け寄ってくれた。
「楽しいパーティ中に呼び出してごめんね。改めて卒業おめでとう。
これから暫くは休みが長く続くけど、任務が始まるまでしっかり休息しておくように。さぁ!さっそくだけど今から神様の所に挨拶に行くよ。」
「え?」
「は?」
美癒と琉緒の声が重なると同時に、ジンが指を鳴らしてあっという間に豪華な建物の前に立っていた。
「ジン様、突然すぎます・・・それにジン様には演説の予定もありますよね?」
「演説なんて誰も聞かないし気にしないんだからいいんだよ。」
(いいのかい・・・。)
美癒はジンの演説を少し楽しみにしていたのでガッカリした。
コンコン・・・
「ジンです。」
扉をノックすると扉がキイィィー・・・と音を鳴らせて開いた。
中は薄暗く、足元には真っ赤な絨毯が敷かれている。
その絨毯は先が見えないくらいとても長く、歩き進んで行くとカーテンで目の前が遮られたため立ち止まった。
ジンはそのカーテンの前で跪き視線を下げた。
そんな姿を見て美癒と琉緒も取り敢えず真似して同じ体勢をとる。
「神様にご挨拶申し上げます。琉緒と美癒を連れてまいりました。」
ジンの声が響き渡るとカーテンがゆっくり開いていく。
気になった美癒は少し顔を上げた。
するとそこには手のひらサイズの天使達が飛び交っており、中心に凛とした姿の女性が大きな羽を広げて立っていた。
「キレイ・・・。」
思わず口に出すほどだった。
神様が人前に登場する事は先ず無いため、美癒や琉緒たちも姿を見るのは初めてだった。
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