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第2章
第48話 プリムラ
しおりを挟む「私は【この世】に行ったら菜都達と直接会って話が出来るのかと思ってました。例え菜都が私のことを・・・以前は美癒として過ごしていたことを覚えていないとしても・・・。そんな甘い話さすがにないですよね。」
美癒は両手を握りしめて俯いた。
ジンは「ごめんねー」と手を合わせながら苦笑いをしていた。
「そうだ!ずっと聞きたくてタイミングが無かったんですけど、何でジン様・・・いえ、【この世】の琉緒は菜都と琉偉に近付いたんですか?最近2人の邪魔ばかりしてますよね?」
パッと顔を上げてジンに問いかける。
少しの沈黙が続いたあと、ジンは落ち着いた様子で答える。
「邪魔だなんてひどいなぁ。菜都ちゃんが僕と話したそうにしてるからさ、弟の琉偉はなかなか菜都ちゃんと2人きりにしてくれないけどね・・・。」
(菜都に限ってそんなわけない・・・ジン様の思い込みじゃないの?)」
「菜都は琉偉の彼女です。なのに琉緒とわざわざ話したいだなんて不自然じゃないですか?お兄さんだから仲良くなりたいと思っているなら分かりますが・・・。」
つい興奮しそうな感情を抑えるために少し落ち着こうと、握りしめた両手の力を抜く。
「あぁ、そっか・・・美癒ちゃんは知らないんだね。」
先程 美癒が菜都のことを”以前は美癒として過ごしていたことを覚えていないとしても”と言っていたことを思い出す。
「なにを・・・?」
「菜都ちゃんは思い出してること。自分が美癒ちゃんだったってことをさ。」
美癒の身体がビクッと揺れた。
慌ててジンに聞き返す。
「思い出してる・・・?」
顔を上げてジンの方を見ると、ニヤリと勝ち誇ったような笑顔を向けられる。
その一方で、美癒は頭が真っ白になっていた。
「生まれる前から今までのこと。美癒ちゃんがそれを知らなかったってことは看視実習のタイミングが悪かったみたいだね。」
「そんな・・・!いつ思い出したんですか!?」
「僕が【この世】の琉緒と菜都ちゃんを初めて会わせたすぐ後だよ。」
「・・・嘘・・・そんなわけ・・・。」
ジンは、目を見開いて固まる美癒の肩を寄せてポンポンと優しく叩く。
「落ち着いて。美癒ちゃんが心配してるのは『今まで菜都として過ごした事への罪悪感』だよね?」
美癒はゆっくりと頷く。
「菜都ちゃんはまだ【この世】の琉緒の正体が僕だと知らない。記憶が戻ったからこそ、なぜ琉緒がそこにいるのか気になってるところだろうね。
菜都ちゃんが僕と話したそうにしてるのは分かるんだけど、冗談抜きで琉偉が2人きりにしてくれないから話せてないんだ。」
「本当に、菜都が話をしたいと思って近づいてるだけですか?菜都に何か変な事したら・・・琉偉との邪魔をしたら怒りますよ・・・。」
「はははっ大丈夫だよ。怖い番犬の弟がいるからね・・・ほら、美癒ちゃんの番犬も
来たよ。」
ジンの視線を辿って正面を見ると琉緒が飛んで来ていた。
「琉緒、お疲れ。楽しそうだったね。」
「まぁな。」
息を切らせて美癒の隣にドカンと座り込む。
離れた所にいた子供たちも遊び疲れて座り込んでいた。
「ねぇ、琉緒は本当に【この世】に行かないの・・・?」
「あぁ!行かねぇ!」
何度もしつこく聞いているため、美癒はこれ以上何も言えなかった。
「美癒ちゃん、また行く日を決めたら教えてね。」
「はい、忙しいのにありがとうございました。」
「こっちも何か進展あったら言うよ。」
そう言ってジンは手を振って去って行った。
美癒は頭を下げたあと、ジンが見えなくなるまで手を振り続けた。
「・・・琉緒のバカ。」
一言つぶやいて、美癒も自分の部屋に戻るため歩き出す。
後ろから琉緒の「はぁ!?」という声が聞こえたが知らん顔した。
菜都の記憶が戻っているという衝撃の事実を聞かされ、美癒は気が気でなかった。
後になって考えてみると
近藤君が異界の山に来た時には、既に菜都の記憶は戻っていたということだ。
近藤君が言い残した”菜都が今の入れ替わりを望んでいない”と言っていたのは、
菜都本人が言っていた事なのだろうか?
近藤君は菜都と何を話したのだろうか?
菜都は琉緒と一体何を話すつもりなのか?
次から次へと疑問が浮かび、とても苦しくなった。
せめて何も思い出さずに、菜都として幸せに過ごしてくれてたら良かったのに・・・ーーー。
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