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第2章
第49話 プリムラ
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1週間が過ぎたが結局琉緒の気が変わる様子もなく、美癒は【この世】へ1人で行くことになった。
「行くだけなんだから、そんな頑なに拒否しなくてもいいじゃん・・・。」
美癒にとって行かないという選択肢はなかったし、何だかんだ琉緒ならついて来てくれると思っていたため困惑した表情で呟いていた。
【この世】に行く日程はジンと打ち合わせ済みで、遂に明日に迫っていた。
不満げな表情をしていた美癒に少しでも笑って欲しくて、琉緒はある提案をする。
「・・・花を見に行くか?」
美癒はごくりと唾を飲んだ。
「まさか花って、図鑑にのってた【水の世界】にだけ咲く蝶々みたいなお花?」
琉緒は頷く。
「いくいく!約束してからすごく楽しみにしてたんだ。天気も良いし早く行こう!」
水を得た魚のように目を輝かせて喜び、琉緒の腕を掴んでブンブンと振り回す。
そんな美癒を見ながら、掴まれている腕とは反対の腕を美癒の腰に回した。
「飛ぶからジッとしてて。」
「はーい。」
美癒の動きが止まると琉緒は異界の山に目掛けてゆっくりと飛んで行く。
「ふわっふわ~。私ね、菜都だった頃は高所恐怖症だったんだよ。でも今は高い所が大好き!」
飛んでるあいだ琉緒に包まれている感覚が心地よかった。
「昔の美癒も高い所が大好きだったんだぜ。」
「そっか、琉緒に飛ばしてもらってたら好きになるよね。私は子供の頃に高い所から落ちたことがあるからさ・・・昔は怪我ばっかりしてたよー。」
小学6年生の暑い夏、大型遊具の高い所から落ちたことを思い出した。
「落ちた?大丈夫だったのかよ・・・?」
「うん、頭から落ちて病院に運ばれたけど何ともなかった。でもそれ以来少し高い所も怖くなったし、遊園地でアトラクションも乗れなくなったよー。」
「よく怪我してたのは知ってたけど、昔っからだったんだな・・・。」
「そうそう、どう見ても弟の方が危なっかしいのに、私ばかり怪我してたの。」
懐かしい昔の記憶は、怖い思い出すらも美化されていて今となっては笑い話だ。
「あ、異界の山が見えてきた。」
「このまま崖の反対側まで飛ぶぞ。」
「トオルさんとか・・・誰かに声かけなくて良いの?」
勝手に入って良いのか気にしている美癒に対して琉緒は鼻で笑った。
「前に言わなかったか?俺たちは自由に出入りして良いってジンに言われているから大丈夫だろ。」
異界の山に近付くと、辺りはシーンと静まり返っていた。
今も誰かが【あの世】に導かれているのだろうと思いながら2人は崖に向かう。
そして崖の上の大きな扉を通り過ぎる。
(崖の向こうは初めて・・・。)
遠くにはまるで別世界のように色鮮やかな光景が広がっていた。
「琉緒、あそこかな?」
「そうみたいだ。」
虹色のようにカラフルで光り輝く花畑に近付き、琉緒は花を踏まないよう少し離れた位置へゆっくりと地上に降りた。
「本当に全部お花なの?信じられない・・・とても綺麗。」
雨は降っていないのに葉っぱは雫が反射して輝き、色とりどりの花もまるで蝶々が止まっているようだ。
花に興味のない琉緒ですらも目を見開いて眺めていた。
ザワッと風で花が揺れる。
”必ず守るわーーー”
美癒の耳元で囁く声が聞こえてきた。
その声は女性のような透き通った声だった。
「・・・琉緒、何か聞こえた?」
「いや、何も。」
辺りを見渡しても、美癒と琉緒以外誰もいない。
”あなたのもとへ戻って来るからーーー”
”なにがあってもーーー”
「ん!?やっぱり何か聞こえる!!」
「異界の山は許可がないと出入りできないんだ。誰もいない。」
「でも・・・今でも聞こえる。空耳じゃない!”必ずまもーー」
美癒が聞こえた言葉を口にしようとした途端に琉緒が遮った。
「あー言いたくなかったけど、それは妖精の声だから気にするな。」
「妖精?」
聞こえてくる声に驚き挙動不審になっていた美癒は、一瞬にして歓喜の声を上げた。
「図鑑に『たまに妖精の声が聞こえる可能性がある』って書いてあったんだよ。」
琉緒が図鑑をすぐ図書館に返してしまったため、自分も見ておけばよかったと後悔した。
「琉緒も聞こえるの?」
「あぁ、聞こえてきた。まさかこんなに騒がしいとはな・・・。」
「そうなんだ、会話は出来るのかな?」
「一方的に聞こえてくるだけで、会話はできない。だからこの声は気にしないでいい。」
あまりに騒がしかったのか、琉緒は耳を塞いでいた。
(私はこの騒がしさが心地いいんだけどなぁ・・・?)
美癒は妖精の声音と花がとても合っていると思いながら、少しの間花畑を眺めていた。
「行くだけなんだから、そんな頑なに拒否しなくてもいいじゃん・・・。」
美癒にとって行かないという選択肢はなかったし、何だかんだ琉緒ならついて来てくれると思っていたため困惑した表情で呟いていた。
【この世】に行く日程はジンと打ち合わせ済みで、遂に明日に迫っていた。
不満げな表情をしていた美癒に少しでも笑って欲しくて、琉緒はある提案をする。
「・・・花を見に行くか?」
美癒はごくりと唾を飲んだ。
「まさか花って、図鑑にのってた【水の世界】にだけ咲く蝶々みたいなお花?」
琉緒は頷く。
「いくいく!約束してからすごく楽しみにしてたんだ。天気も良いし早く行こう!」
水を得た魚のように目を輝かせて喜び、琉緒の腕を掴んでブンブンと振り回す。
そんな美癒を見ながら、掴まれている腕とは反対の腕を美癒の腰に回した。
「飛ぶからジッとしてて。」
「はーい。」
美癒の動きが止まると琉緒は異界の山に目掛けてゆっくりと飛んで行く。
「ふわっふわ~。私ね、菜都だった頃は高所恐怖症だったんだよ。でも今は高い所が大好き!」
飛んでるあいだ琉緒に包まれている感覚が心地よかった。
「昔の美癒も高い所が大好きだったんだぜ。」
「そっか、琉緒に飛ばしてもらってたら好きになるよね。私は子供の頃に高い所から落ちたことがあるからさ・・・昔は怪我ばっかりしてたよー。」
小学6年生の暑い夏、大型遊具の高い所から落ちたことを思い出した。
「落ちた?大丈夫だったのかよ・・・?」
「うん、頭から落ちて病院に運ばれたけど何ともなかった。でもそれ以来少し高い所も怖くなったし、遊園地でアトラクションも乗れなくなったよー。」
「よく怪我してたのは知ってたけど、昔っからだったんだな・・・。」
「そうそう、どう見ても弟の方が危なっかしいのに、私ばかり怪我してたの。」
懐かしい昔の記憶は、怖い思い出すらも美化されていて今となっては笑い話だ。
「あ、異界の山が見えてきた。」
「このまま崖の反対側まで飛ぶぞ。」
「トオルさんとか・・・誰かに声かけなくて良いの?」
勝手に入って良いのか気にしている美癒に対して琉緒は鼻で笑った。
「前に言わなかったか?俺たちは自由に出入りして良いってジンに言われているから大丈夫だろ。」
異界の山に近付くと、辺りはシーンと静まり返っていた。
今も誰かが【あの世】に導かれているのだろうと思いながら2人は崖に向かう。
そして崖の上の大きな扉を通り過ぎる。
(崖の向こうは初めて・・・。)
遠くにはまるで別世界のように色鮮やかな光景が広がっていた。
「琉緒、あそこかな?」
「そうみたいだ。」
虹色のようにカラフルで光り輝く花畑に近付き、琉緒は花を踏まないよう少し離れた位置へゆっくりと地上に降りた。
「本当に全部お花なの?信じられない・・・とても綺麗。」
雨は降っていないのに葉っぱは雫が反射して輝き、色とりどりの花もまるで蝶々が止まっているようだ。
花に興味のない琉緒ですらも目を見開いて眺めていた。
ザワッと風で花が揺れる。
”必ず守るわーーー”
美癒の耳元で囁く声が聞こえてきた。
その声は女性のような透き通った声だった。
「・・・琉緒、何か聞こえた?」
「いや、何も。」
辺りを見渡しても、美癒と琉緒以外誰もいない。
”あなたのもとへ戻って来るからーーー”
”なにがあってもーーー”
「ん!?やっぱり何か聞こえる!!」
「異界の山は許可がないと出入りできないんだ。誰もいない。」
「でも・・・今でも聞こえる。空耳じゃない!”必ずまもーー」
美癒が聞こえた言葉を口にしようとした途端に琉緒が遮った。
「あー言いたくなかったけど、それは妖精の声だから気にするな。」
「妖精?」
聞こえてくる声に驚き挙動不審になっていた美癒は、一瞬にして歓喜の声を上げた。
「図鑑に『たまに妖精の声が聞こえる可能性がある』って書いてあったんだよ。」
琉緒が図鑑をすぐ図書館に返してしまったため、自分も見ておけばよかったと後悔した。
「琉緒も聞こえるの?」
「あぁ、聞こえてきた。まさかこんなに騒がしいとはな・・・。」
「そうなんだ、会話は出来るのかな?」
「一方的に聞こえてくるだけで、会話はできない。だからこの声は気にしないでいい。」
あまりに騒がしかったのか、琉緒は耳を塞いでいた。
(私はこの騒がしさが心地いいんだけどなぁ・・・?)
美癒は妖精の声音と花がとても合っていると思いながら、少しの間花畑を眺めていた。
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