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第2章
第54話 プリムラ
しおりを挟む(もう大丈夫、琉偉にも心から感謝の気持ちでいっぱい。ひどいことを呟いちゃってごめんなさい。琉偉を好きになって本当に良かった。菜都を幸せにしてあげてね。)
走りながら心の中で謝り、祈った。
自分がこんなに最低な事を思っているなんて、本当に恐ろしかった。
ジンの助けがなかったらどうなっていたかゾッとする。
【この世】にきてからずっと泣き続けている美癒は、公園に寄って座り少し休んだ。
あの怖い思い出となった公園だった。
(変なおじさんに誘拐されそうになって以来、この公園には来れてなかった・・・来れなかった。まさか自分の足でここに来るなんて・・・でも、ここも思い出が沢山ある場所なんだよね。駐輪場がたまり場になる前はずっとこの公園だったし。)
目がパンパンに腫れあがっていたが、美癒は良い表情に戻っていた。
「さて・・・早く近藤君の所に行こう。そのあとおばあちゃんの所に行って、もし時間が余ってたらまた家に帰ろう。」
自分に気合を入れて立ち上がり、病院に向かって歩き出した。
交互に歩いたり走ったりして向かっていたが、再び疲れた美癒は、ちょうど通りがかったバスに乗り込んだ。
(バスに乗れてよかった。それにしてもお腹すいたよぉ。最初にお母さんが作ってるご飯の匂いした時からお腹すいてたんだよなぁ。食べたかった・・・けど、食べたら駄目だもんね!)
グーグーとなるお腹をさすりながら、美癒は自分が食いしん坊であることを初めて恨んだ。
病院が見えてくると、美癒はサッとバスから飛び降りた。
「おっとっと・・・、危ない危ない。」
着地に失敗してふらついたが、なんとか立て直した。
(残り6時間を切った。ペース配分はいい感じよ。)
病院に入ると、近藤君の部屋が分からないから手当たり次第に探した。
「あった!ここだ!」
やっと見つけた個室に入ると、近藤君は眠っていた。
(大丈夫・・・なんだよね?元気になっていってるんだよね?)
椅子に腰かけると、看護師が2人入ってきた。
「リハビリ後で疲れて寝てるみたいね。」
「新しい予定表はここに置いて、後で説明に来ましょう。」
すぐに部屋から出て行き、再び部屋は静まり返った。
「リハビリ・・・頑張ってるんだね。生きていてくれて本当に良かった。サッカーしてる姿、見たかったなぁ。」
「ん・・・っ。」
寝ている近藤君が突然寝返りを打って美癒の方を向いた。
「可愛いなぁ。姉みたいに慕ってくれてありがとね。」
すると、パチリと近藤君の目が開いた。
美癒の姿は見えないし声は聞こえないとはいえ、目が合った気がして一瞬ドキッとした。
「おはよー・・・って聞こえないよね。早く元気になって・・・。」
近藤君の頭に手を伸ばして軽く頭を撫でた。
「土田先輩・・・?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・へ!?」
美癒は目を見開き、とても阿呆っぽい声を出した。
するとその瞬間、美癒の目の前に光り輝く小さな箱が現れた。
「え?え?ちょっとまって!」
美癒は椅子から立ち上がり、箱を拒否するかのように両手を突き出す。
近藤君は、箱に向かって話しかける美癒をボーっと見つめたままだ。
美癒は腕時計を見て、箱に向かって必死に訴える。
「・・・あと5時間以上あるじゃん!これは何かの間違いだよ!」
その瞬間、箱の蓋が開き再び美癒の視界がグルりと反転して箱の中に吸い込まれていった。
「いーーーやーーーーー!!!!!」
美癒の声が遠くなっていく。
その場に残された近藤君はムクリと起き上がり、目を細めながら呟いた。
「・・・夢か?」
病室は再び静まり返った。
***
美癒はフローリングの上に転んだ。
「あれ?早かったね。お帰り。」
美癒の目の前にはジンがいて、椅子に座って足を組んだまま珈琲を飲んでいた。
美癒はジンの部屋に戻っていたのだ。
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