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第3章
第62話 直面
しおりを挟む美癒と琉緒が【空の世界】に異動となって数週間が経ち、だいぶ任務にも慣れてきた。
美癒たちに与えられた任務は、決められた範囲を担当して魂たちのお世話・見回りをすること。
それに加え、魂を入れ替える練習をすべきだが機会は未だやってきておらず、落ち着いた日常が続いた。
担当している魂たちの性格も少しずつ把握できてきて、まるで大家族のように良い関係を築いていけている・・・最中だ。
「魂を操る練習をするように言われて異動してきたのに、全く依頼者がいないねぇ。」
「まぁな、こればっかりは本人たち次第だから仕方ねぇだろ。」
「なんだか平和ボケしてきてる気がする・・・もう今日の任務は終わるしカンナがいる保育施設に遊びに行こうよ。明日休みだしさ?」
琉緒は、美癒からの誘いに少し考えるような素振りを見せて言った。
「カンナは一応新人なんだからもう少し先にした方が良いんじゃねぇか?」
「あ・・・そっか、そうだよね。」
(久しぶりにカンナや、小さい子供達に会いたかったなぁ。)
がっくりと肩を落としてため息をつく。
「看視任務に就いてる人で誰か仲良い人がいたら、菜都達の様子が少しでも見えるのに。琉緒、誰かいないの?」
「お前は何万回 俺に同じ事を聞いてきてるんだよ。」
「だってぇー・・・。」
「日常に刺激が足りねぇならジンに”ゴ●ブリ案内の任務に戻りたい”って申請する事だな。」
「もーイジワル。一緒に帰ってやんない!」
「いいのか?今日はふんわりと浮かせて帰らせてやろうと思ってたんだけどなー、ふんわりと。」
美癒は、琉緒の意地悪な笑顔を見て、自らの発言を悔いた。
「・・・うっ・・・。」
「まー美癒が言うんだから仕方ないよな。じゃ、お疲れさん。」
柄にもなく笑顔で手を振り美癒に背中を向ける。
そんな琉緒を見ながら美癒は悔しい表情を浮かべた。
(琉緒のバカ!そのまま帰らないでよ!振り返ってよ・・・お願い、振り返って!)
美癒の思いとは裏腹に右手を上げたままヒラヒラと振りながら去っていく琉緒。
そんな琉緒も天邪鬼である。
(呼び止めろよな・・・あー・・・まだか?早く呼び止めろよ。)
内心では引き留めて欲しい気持ちがあり、歩く歩幅は小さくゆっくりだった。
お互い素直になれず、結局それぞれ一人で帰る事になった。
「琉緒ったら本当において帰るなんて、ヒドイ!!」
ブツブツと文句を独り言を言っていると、先輩のテルが駆け寄ってきた。
慌てて来たのか息が切れている。
「お疲れ!一人だなんて珍しいね。」
「え?・・・お疲れ様です。」
あまり話したことのない先輩だったため、瞬きをしながら首を傾げる美癒。
「いや、いつも一緒にいるじゃん。琉緒君と。」
「あぁ~、別にいつもではないですけど・・・。」
任務の時以外は全く話した事がなかった先輩が、気さくに話しかけてくれたのは嬉しかったが、【この世】でいうナンパのように感じて曖昧な返事しかしなかった。
もちろん、テルにそのつもりがないことは分かっている。
「それでは、失礼します・・・。」
話すこともないので美癒が去ろうとしたら、テルは美癒の腕を掴んで引き留める。
(な、何!?)
美癒は驚いて目を見開き、咄嗟に腕を振り払ってしまった。
(まさか、本当に私と親しくなりたくてーー?いや自意識過剰すぎるよね。)
「実は・・・。」
「ご、ごめんなさい!ちょっと調子が悪くて!!!」
美癒は手を振りほどいてその場を去ろうとした。
(ここでは恋愛なんて無意味なものだから存在していないようなもの・・・もちろん皆が皆ではないけど・・・。)
後ろから呼び止める声が聞こえていたが、聞こえていないふりをして帰宅・・・の前に、琉緒の部屋へ急いで向かった。
ピンピンピンピンポーン
ドンドンドン・・・ガチャ
「琉緒!入るよ!!」
チャイムに加えてドアを叩いたが反応は無く、鍵が開いていたため勝手に入っていく。
目の前に広がる琉緒のオフィス。
だがその場には誰もいなかった。
(奥の部屋にいるのかな?)
美癒はオフィスの奥の扉を叩く。
「琉緒!!入るよ?」
(・・・って、いつも琉緒は私の部屋に勝手に入ってきてるわよね・・・。)
神使任務に就く前に引っ越してきた新しいオフィス兼部屋の合鍵も、相変わらず琉緒が持っている。
扉を開いて入っていくと、水が流れる音が聞こえてきた。
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