夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

文字の大きさ
68 / 121
第3章

第68話 直面

しおりを挟む

「はははっ、美癒ちゃんなら【水の世界】で琉緒と慕い合ってるから心配しなくて良いよ。」

「え・・・?琉偉じゃなくて琉緒を・・・?そっか・・・琉緒の恋は実ったんだ。
そもそもジン様と琉緒は一体どんな関係なんですか?」

「琉緒は僕の弟みたいなものかな。
因みに少し前、美癒ちゃんが【この世】に来てたんだ。その話はまた今度教えてあげるよ。」

「【この世】に来てた・・・?私が琉偉を好きになったって気付いたかな・・・怒って・・・ないのかな・・・?」

「今まで見てきてた君が、彼女の事を一番よく知ってるでしょ?
美癒ちゃんが菜都ちゃんに怒ってるなんて有り得ない。」

「で・・・でも・・・。」

「どっちにしても琉偉への気持ちは抑えられないでしょ?気にしなくて良いんじゃない。」

少しだけ重い沈黙が流れた。

菜都がどれだけ気にしても、美癒は手出しも口出しもできない。


「ジン様に聞きたいことはまだ色々あるけど・・・でも・・・やっぱり身体は返さないと・・・。私がもう一度死んだら再び入れ替わる事ができるんじゃないですか?もうそれしか方法は無いんじゃないですか?」

菜都の言う通り、確かに命を落とせば異界の山へ行くことはできる。

だがジンとしては万一を考えると簡単に肯定はできない。

命を落とすということは菜都の身体にも負担がかかる。

もし間に合わずに【あの世】に行ってしまったら?

もし何らかの理由で魔法が使えず入れ替わりに失敗したら?

そもそも美癒と菜都、本当はどちらが菜都の身体に入るのが正しいのか?

ジンは菜都を見つめたまま、考えを巡らせた。


「美癒ちゃん と 菜都ちゃん、2人にとって・・・2人分の大切な身体なんだ。簡単に”死ぬ”なんて言ったらいけない。そもそも入れ替わりの保証だってない。美癒ちゃんの魔法だって不安定だ。」

ジンは菜都から目を逸らさず、強い口調で言った。

普段穏やかな人が強い口調で言うと余計に心に突き刺さる。

「す、すみません・・・。」

”でも身体を返す方法は他にないの?”と続けたかったが、ジンの表情を見ると何も言えなかった。

ジンは、あまり納得していない菜都を見て、なんて頑固なんだろうと思った。

そして一呼吸おくと再び優しい口調に戻り話しかける。

「僕こそ冷たい言い方をしてごめんね。・・・流石に教室戻らないと怪しまれるよ・・・って言ってもこんなに目が腫れてたら皆に会えないよね。家まで送るよ、カバンは後で琉偉に任せるからさ。」

パンパンに腫れ上がったこの顔で琉偉に会いたくなかったので、ジンの提案にのりそのまま帰る事にした。

ジンが先にトイレから出て、周囲に誰もいないことを確認して菜都もトイレから出た。

「男子トイレにいるの見つからなくて良かったねぇ~。」

「・・・部活動をしてる人達が来る可能性はありましたけど、琉偉達はバイト探しに夢中になってたから大丈夫かなと・・・。まさかこんなに話せるとは思いませんでしたけど。」

思ったより話は出来たが、疑問も山ほど残っていた。

「はははっだよね~。せっかくだから帰りながら”琉緒の今後”について説明しとくよ---ーーー。」


ジンは、この琉緒の魂がゼロのように暴走する危険性を考慮して、本物の琉緒の魂を戻す予定である事を説明した。

このような話をしたら、菜都が余計に自分の入れ替わりに期待を持ってしまうと分かりつつも話したのだった。

「さあ、家まで着いちゃったし、美癒ちゃんが【この世】に来てた話はまた今度。確か、菜都ちゃんは明後日の土曜日にお父さんと携帯を買いに行くんだよね?僕の携帯番号とアドレスを教えておくからいつでも連絡してよ。琉偉の邪魔も入らないし。」

子供のようにニヤリと笑ってポケットから取り出したティッシュの広告用紙に連絡先を記入する。

「ありがとうございます・・・携帯電話を買ったら、必ず連絡します。」

「じゃあ、また琉偉がカバンを持ってくるから。お腹が痛くて帰ったってことで話を合わせておいてね。あ!それと、くれぐれも皆の前で”ジン”って呼ばないで。」

そう言ってジンは学校へと戻って行った。


その後、菜都のカバンを持ってきてくれたのは琉偉ではなく、陽太と香織だった。

2人から聞いた話では、琉偉も調子が悪くなったようで先に帰ってしまったそうだ。

琉偉の具合が気になって家に電話してみたがタイミングが合わなかった。

次の日も学校を休んでいたし、兄の琉緒ともタイミングが合わず、琉偉の様子を聞くことができなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...