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第3章
第67話 直面
しおりを挟む「ジン・・・って、あのジン様!?」
ジンは【水の世界】で有名だった。
「知っててくれて良かった・・・最初から話すと長くなってしまうから簡単に言うと、僕は【水の世界】を生きていながら【この世】で琉緒として存在している。」
混乱はしているが意外と驚かない菜都。
普通の人が聞くと信じ難い話だが、
菜都が”ジン”と”【水の世界】”の存在を知っているからこそ話は伝わりやすい。
「ちょっと頭がこんがらがる・・・琉緒が【水の世界】と【この世】の両方で生きているのかと思ってたけど、ジン様が琉緒に・・・?
まさか、【この世】にはそういう存在がごまんといるの?・・・いるんですか?」
菜都は頭の回転が早いため、ある程度理解が早かった。
「そんなまさか。琉緒だけだよ・・・って言いたいけど実はもう1人いる。」
「誰・・・ですか?」
「うーん・・・ゼロっていう、菜都ちゃんより少し年上の男の人だよ。
昔は琉緒と同じように僕が操ってたんだけど暴走しちゃって今は行方知らず。・・・ちなみに近藤君を刺した犯人でもある。」
菜都はハッとした表情で目を見開いた。
「そう・・・!ずっと聞きたかったんです。近藤君を刺した犯人をあなたなら知ってるのかもしれないと思って・・・!でも何故ゼロって人は近藤君を刺したんですか?」
「それが僕にも分からないんだよね。だから僕は、この琉緒の身体を使ってゼロを探してるんだ。」
「どうやって?心当たりはあるんですか?」
「・・・心当たりは・・・ある。けど、今は菜都ちゃんに言えない。」
詳しく話を聞きたかったし、他にも沢山気になることはある。
だが予想外な情報量に、菜都の頭の中もいっぱいいっぱいだった。
なのでジンが言いたくないことであれば、今日のところは聞くのを辞めようと思った。
「分かりました。でもゼロは近藤君を刺した人・・・だからジン様も気を付けて下さい。」
「ありがとう。それにしても男子トイレに入って来るなんて意外と大胆だなぁ。」
はははっと笑いながらジンはトイレの鍵を開けようとしたため、菜都はそれを阻止する。
「待って下さい。もう少しだけ・・・。」
ジンは腕時計を見て「大丈夫かなぁ?」と言いながら、鍵を開けるのを辞めた。
「菜都・・・いや、今の美癒は・・・どうしてますか?」
「どうしてるって聞かれてもなぁ・・・明るい良い子だね。
もしかして美癒ちゃんが魔法を使えるって知ってた?」
「・・・はい。私は生まれる直前に魂を入れ替えられるのを目の前で見ていたので・・・。そして菜都が命を落とすって分かった時、なんとかしたいって気持ち以外に何も考えられなくて会いに行ったら私が菜都になってました・・・。入れ替わって暫くは覚えてなかったんですけど、だんだん記憶が戻って来て・・・。」
時折言葉に詰まりながらも
涙が溢れるなか、必死に説明する。
「でも良かったんじゃない?キミは本当の自分に戻ることが出来たんだし。
美癒ちゃんは『今まで菜都の人生を奪って生きていたんだ』って辛そうにしてから。」
「え!?そんなわけないです!!例え入れ替わりが自分の意志ではないとしても、私は美癒として【空の世界】に生まれたんだから”私は美癒”で・・・【この世】に生まれた時点で”菜都は菜都”です。だから今の方が逆で・・・私が今、菜都の人生を奪ってると思います・・・。」
菜都は、自分の思いを誤解されたくない一心で必死に訴える。
ジンはキョトンと驚いた顔をしたが、少し嬉しそうにしながら言う。
「2人とも同じ事を言って、本当そっくりだねぇ~。じゃあ菜都ちゃんは【水の世界】に戻りたいの?」
意地悪な質問だと分かっていた。
菜都も俯き、暗い表情をしながら申し訳なさそうに答える。
「【水の世界】の美癒に戻りたい・・・その気持ちは本当です・・・。
でも・・・でもね・・・本当に琉偉のことが好きになってしまった・・・。
本当は私の彼氏じゃないのに。琉偉と・・・離れたくないよぉー・・・。」
胸が苦しい。
涙が止まらず、辛そうに話し続ける。
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