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第3章
第71話 直面
しおりを挟む背後から聞こえた低い声に背筋が凍り、慌てて走り出す。
振り向く余裕もなく、ただただ前に進んで一目散に逃げた。
ーーーカラン!!
走る菜都の真横を、背後から何かが通り過ぎ・・・足元へ落ちた。
「は・・・?」
菜都は言葉を失った。
背後から刃物が飛んで来たのだ。
あと少しでもズレていたら菜都に刺さっていたかもしれない、そう思った途端に膝がガクッと落ちその場に転んだ。
(ま、マズいーーー!)
追いかける男性にとって菜都の転倒は、またとないチャンスであり簡単に逃がしてはくれなかった。
転がった菜都の元へ、あっという間に近付き覆いかぶさってきた。
肩を掴まれて仰向きにさせられると、男性の顔がハッキリ見える。
刃物は先ほど投げつけたものだけで、もう手元には持っていないようだ。
「お前らのせいで・・・!」
憎しみの籠った声をぶつけてくる男性の表情は、怒りで満ち溢れていた。
抵抗する菜都を抑え込んだあと、両手で首を絞めはじめる。
「や、やめ・・・。」
(息ができない・・・。)
男の人の力がこんなに強いなんて知らなかった。
もう駄目だ、と思った。
全身の力が抜けてぐったりしたその時、突然男性が吹き飛ばされて菜都から離れる。
琉緒が来てくれたのだ。
「菜都ちゃん!もう大丈夫だから!!!」
目を開くことは出来なかったが、琉緒の声は菜都に届いた。
(ジンさ・・・ま・・・。)
「予定通りだ。・・・いや、菜都ちゃんが危ない目に合うのは予想外だったけど、ここからは任せて!
・・・探したぞ、ゼロ!!!お前はここまでだ!!」
ジンの声が少しずつ遠のいていき、菜都はそのまま意識を失った。
***
ーーー異界の山。
美癒は困惑した表情で、何度も琉偉をチラチラ見ながらジンに訊ねた。
「ジン様・・・?”予定通り”って・・・言って・・・ましたよね・・・?
なのに、何で琉偉がここにいるの・・・?答えて・・・答えてよぉっ・・・!!!」
泣きながらジンの胸を両手で叩く。
そんな美癒をジンは両手で強く抱きしめた。
とても、とても悔しそうな顔をしながら・・・。
「ごめん・・・さっきまでは本当に予定通りだったんだ。
異界の山にくるのは琉緒とゼロだけのはずだった。
・・・でも、とどめを刺したはずのゼロが最後の力を振り絞り、菜都ちゃん目掛けて襲い掛かったんだ。
ゼロは瀕死の状態でふらついていたけど、菜都ちゃんは気絶してしまってたから避けられず・・・駆けつけてきた琉偉が間一髪で庇って刺された。」
菜都を守るために琉偉が犠牲になったというのだ。
「そんなっ・・・!」
「最後まで聞いて・・・琉偉はまだ生きてる。美癒ちゃんの力で琉偉の魂を帰してあげて欲しい・・・お願いして良いよね?」
「生きてる・・・?」
美癒はジンの顔を見上げる。
冷静さを失っている美癒は気付いていないが、いま琉偉を助けることができるのは美癒だけだった。
ジンが魂を操れるのは”1回のみの入れ替え”であり、”魂を身体に戻す”ことはできなかった。
それに引き換え、美癒はカンナの父親の魂を身体に戻した実績がある。
「あぁ、ゼロが琉偉の魂を道連れにしたようだが、琉偉はまだ生きている・・・。」
「でも・・・それなら何で動かないの・・・!?」
「それは心配しなくても良い。引き留めておくためにトオルさんが動けないようにしてくれてるだけだ。」
ジンは美癒の手を取って3人の元へ歩いていく。
「琉緒と琉偉・・・それならこの人が・・・ゼロ?」
残りの知らない人を指さしながら訊ねる。
「そう・・・ゼロだ・・・!」
「初めて見る人。なぜ近藤君や菜都を狙ったの?」
「そればかりは本人に聞いてみないと分からないね。・・・っと、その前に琉緒と琉偉のことを先にしよう。ゼロと話すのはその後だ。」
そう言ってジンは【この世】から来た琉緒に触れる。
すると彼はゆっくりと瞳を開けて動き出した。
本物の琉緒が目の前に立っているように錯覚してしまうが、本物の琉緒は背後にある煙の中にいる。
「お帰り・・・今まで琉緒として生きてくれたのに、このような最後になって申し訳ない。苦労をかけたね・・・本当に長い間ありがとう。」
目の前に立つ琉緒はジンに向かって深々と頭を下げる。
「こちらこそ、僕を生み出してくれて有り難うございました。あなたと共存できたこと・・・とても幸せな時間でした。」
作られた魂であり操られながら生きてきた彼は、自分の最後を素直に受け入れている。
「じゃあ美癒ちゃん・・・頼むよ。」
遂に琉緒の魂を入れ替える時が来てしまった。
少しでも気の迷いがあると美癒は力を発揮できない。
決して失敗は許されない。
美癒は気持ちを強く持ち、大きく深呼吸をした。
「はい、やります。」
ジンが頷くと、煙が徐々に消えていき本物の琉緒が姿を現した。
「くっそ・・・頭が痛てぇ・・・。」
本物の琉緒は目を覚ましていた。
頭を抑えて目を細めながら辺りを見渡すと、異界の山であることに気付く。
「何で琉偉と・・・俺が?それにコイツは誰だ?いや、何なんだこの状況・・・。」
琉緒はゼロについて何も知らないし、この異様な光景に驚くのは当然だった。
だが頭の回転は早い。
目の前に自分と同じ姿をした人物がいることで、最悪な状況にいることに気付く。
「・・・まさか・・・そういうことかよ・・・。」
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