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第4章
第83話 アネモネ
しおりを挟む「良かった・・・【この世】に生まれたあともこんな能力を持ったままかと思うと本当に怖かった。」
自分が持つ不思議な能力に、今までよほど不安だったのだろう。
皆と同じように、後に心の声は聞こえなくなると知って初めて笑顔を見せた。
心の声が聞こえる恐ろしさを既に知ってしまっていたのかもしれない。
「わたし、心花・・・の妖精たちに・・・会ってみたいです。」
黄色の魂は希望に満ち溢れるような明るい声で言った。
だがこの願いを叶えることは誰にもできない。
「心花については・・・残念だけど行くことはできない。【空の世界】にいる魂たちが行けるような場所じゃないんだ。」
「そうなの・・・あなたに心花のことを教えておきながら申し訳ないんだけど、異界の山・・・そこに咲いてるから・・・さ、行けないんだ。」
黄色い魂が心花のところへ行きたがることを想定できていなかった美癒は申し訳なさそうに言った。
「異界の山って・・・?美癒さんたちのように、生まれることが出来なかった人たちなら行けるの・・・?」
「私たちなら行くことが出来るけど・・・異界の山は死んだ人が【あの世】へ行く時に通るところ。」
黄色い魂は、「へー」と考えながら何か方法はないか考える。
「それなら・・・私が死ぬまで待つなんて先が長すぎるし・・・。
私も美癒さんたちのように、【この世】に生まれずに【水の世界】に行きたい。そうすれば心花を見に行けますよね?」
「え!?」
驚く美癒の横で、ジンの眉がピクリと動いた。
美癒はジンが言葉を発する前に慌てて止めに入った。
「だ、駄目だよ!そんなことを言ったら!生まれることが一番なんだから!!そもそも私達は”生まれるはずだったのに生まれることができなかった”んだよ。これは予測できないの!」
「あー・・・そうですよねぇ・・・どうしようもないのか・・・。」
ジンが口出すより先に、黄色い魂に納得してもらおうと必死だった。
黄色い魂に、美癒の必死さは十分伝わっていて意外とすんなり受け入れてくれた。
「分かってくれてありががとう。」
「いえ、私こそつい我を忘れてしまって・・・【空の世界】の人達に対して失礼なことを言いましたね・・・すみません。」
美癒は横目でジンを見る。
そして、いつもの柔らかい表情に戻っていて安堵した。
もちろんジンは黄色い魂に一言いってやりたい気持ちを我慢して飲み込んでいた。
美癒の慌てっぷりを見て、美癒のために控えたのだ。
「話は戻るんだけど、その・・・”必ず守る”って言ってた時のことを教えて欲しいんだけど・・・。」
「あぁ・・・美癒さんと琉緒さんに初めて会った時のことです。
美癒さんの心の中は、私達姉妹のことをずっと考えてました。
”何か力になりたい”とか、そんな感じの声が聞こえてたんですけど。
琉緒さんの心の中は美癒さんだけで・・・私達もいたのに本当に美癒さんのことしか考えてなかったですね。」
琉緒がどれだけ自分を愛してくれていたのかがよく分かる。
そして美癒は、こんなに言葉を話す黄色い魂を初めて見て更に驚いていた。
そんな美癒の心の中も黄色い魂にはお見通しだったが、本当は人と話すのが好きだった彼女は言葉を続ける。
「琉緒さんからは、美癒さんを守りたい気持ちや離れたくないという不安が読み取れました。
そして琉緒さんがいなくなってから、美癒さんはすごく寂しい心をしていたから、琉緒さんの心をつい呟いてしまったんです。全てを覚えているわけではありませんが・・・。」
改めて琉緒の優しさを痛感する。
「心花が”あなたのもとへ戻って来る”って言ってたのは覚えてるんだけど・・・多分あなたの言った”お前の元へ”っていうのと同じ意味だよね?どういうことなんだろう・・・?」
「人の心の中は、きちんとした文章になってないんです。だから勝手に私達なりの文章にしてるだけ・・・琉緒さんの場合はきっと”あなたの元へ戻る=どこにいてもあなたの側にいる”・・・とかかもしれませんね?」
「へ・・・へぇ~!?」
美癒は赤面してしまい、恥ずかしくて下を向いた。
しかし一瞬にして切ない表情に変わったのをジンは見逃さなかった。
「ねぇ美癒ちゃん・・・琉緒の箱がどこにあるか知らない?」
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