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第4章
第82話 アネモネ
しおりを挟む琉緒から、”聞こえてくる声は妖精の声”であることは聞いていたが
まさかお互いの心の声を聞き合っていたとはーーー・・・。
思い返すと、琉緒に『俺を【この世】に戻すつもりか?』と聞かれたのは、その花畑から帰ってすぐのことだった。
初めて知る花の正体に言葉を失う。
美癒の心の声を妖精たちはどのような言葉にして話していたのだろうか。
そして、妖精たちが話していた言葉が頭の中に蘇る。
”必ず守る”
”あなたの元へ戻る、何があっても”
当時は妖精たちの声があまりに賑やかだったため、途中からは聞き流していたことを後悔する。
(もっとしっかり聞いておけばよかった。”一緒に【この世】で生きていれば・・・”みたいなことも聞いた気がするけど・・・。)
どのくらいの間考え込んでいたのか分からないが、ジンの視線に気付いて我に返った。
「結局は私が情報を漏らしたようなものだったんですね・・・。」
「これは仕方ないよ、美癒ちゃんのせいじゃない。」
「でも私の不注意で・・・・・・っそうだ!思い出した・・・!!」
突然の大声に、ジンの肩はビクッと揺れた。
「ははっ、どうしたの?さっきまではとは違って急に百面相になったね。」
「す、すみません。それが・・・【空の世界】にいる黄色い魂のことなんですけど、その子の”呟き”が、妖精たちの会話(=琉緒の心の声)と一緒だったんです!これって・・・ッ!!」
偶然ではないはず。
ジンが真っ先に答えて2人の声が重なった。
「その魂・・・心の声が聞こえるんだね。」
「黄色の魂、本当は妖精ってことですよね!?」
キラキラと目を輝かせる美癒を見て、ジンはズッコケる。
「・・・天然だなぁ。これはその魂のもつ魔法だね。黄色い魂が【この世】に生まれたらそんな能力使えなくなるだろうし、逆に【空の世界】に来ることになったらそれを生かした任務に就けるだろうね。」
「あ・・・魔法の一種なんですか・・・。」
「きっとね。でも良い情報を教えてくれてありがとう。
ところで琉緒と花畑に行ったときや黄色い魂の呟きについて・・・一体どんな言葉を聞いたの?」
「そ、それは・・・。」
美癒が顔をりんごのように赤くしながらモジモジして言えずにいると、ジンが上着を羽織りだす。
「黄色い魂に会いに行こっか?」
「へ!?」
美癒としても黄色い魂に会って話を聞きたいと思っていたので、良い機会だった。
だが”今なのか!?”とジンの行動力に驚かされる。
「後回しにせず、今行こう!・・・あ、もちろん美癒ちゃんの体調が良ければだけど。」
ジンは美癒の体調について、ハッと思い出したかのように、申し訳なさそうに言う。
「身体は大丈夫です、行きましょう。」
美癒はベッドから降りて急ぎ支度を始めた。
***
「・・・なんですか?」
モニターの影に隠れていた黄色い魂は、
突然現れたジンと美癒に対して少し驚く素振りを見せた。
(この子、いつも分かりにくいところにいるなぁ・・・それを簡単に見つけるジン様もすごいけど・・・。)
「あなた、”私達とは聞こえ方が違う”って言ってたんだよね?それに・・・この前は私に”必ず守る”とか呟いてたこと・・・詳しく教えて欲しい。」
「聞いてどうするんですか?」
「・・・以前同じ言葉を聞いたことがあるの。」
「え!?誰からですか!?」
「心花っていう花に宿っている妖精たち。この妖精は人々の心の声を聞いて言葉にしているんだけど、あなたと同じ言葉を言ってたから・・・。」
「よう・・・せい?」
黄色い魂は少し落胆した様子で肩を落とす。
「えぇ。だからあなたも心の声を聞くことができるのだと思って来てみたの。」
「・・・そうです。皆と聞こえ方が違って、これが心の声だと気付いたのは少し前のことでした。他の人からすると、心の声を聞かれるだなんて気持ち悪いですよね・・・。
勿論私も嫌ですよ、こんなこと・・・。
でも、私と同じような人がいるのかと期待したら・・・なぁんだ・・・妖精ですか。」
落ち込んでいる理由に気付いて、今まで黙っていたジンがそれを否定する。
「気持ち悪いだなんて思わないで。それは立派な能力だよ。【水の世界】にきてほしいくらい惜しい能力だ。・・・あ、誤解しないでね。無事に生まれることを願ってる。
それに君は・・・妖精の生まれ変わりだったんだね。」
「「え?」」
美癒と黄色い魂の声は重なった。
「僕には前世が見えるって言っただろう?」
ジンが美癒に優しく耳打ちした。
「そっか・・・妖精の生まれ変わりだったから心の声が聞こえるんだ!」
「美癒ちゃんがさっき言ってた”本当は妖精ってことですよね”って言葉はあながち間違いじゃなかったね。」
「・・・もぅー・・・。」
ジンは意地悪そうに笑っていた。
「でも、妖精の生まれ変わりだからって皆がその能力を持ったままだとは限らない。どちらにしても君が【この世】に生まれたら、きっと心の声は聞こえなくなるから安心するといいよ。」
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