81 / 121
第4章
第81話 アネモネ
しおりを挟む真っ暗な部屋で目が覚めて、隣を見る。
当たり前だが、そこには誰もいない。
自分以外の温もりもない。
それを分かっていながらつい期待して確認してしまう。
(・・・琉緒が隣にいた・・・こんな夢・・・見たくなかった。)
幸せな夢は、現実で切なさを倍増させた。
美癒が眠りについてから既に2日経過していたーーー。
***
「美癒ちゃんは神様と何の話をしたの?
僕はゼロの件について、お咎めなしで済んだよ。神様に取り込まれる覚悟はあったんだけどね。
・・・それと、美癒ちゃんが魂の入れ替えを練習する必要もなくなったから、もう僕の補佐役に就けばいいってさ。」
窓から日差しが差し込む。
朝からやってきたのはジンだった。
忙しいはずのジンは、任務に行くことなく美癒の部屋に居座った。
この様子だと、きっと眠り続けていた昨日も様子を見に来てくれていたのだろう。
美癒の頭の中は琉緒でいっぱいだったが、ジンの話に口をポカンと開いた。
(そうだった。すっかり忘れてたけどジン様の補佐役に任命されてたんだった・・・琉緒と一緒に。)
「美癒ちゃん?」
何の返事もしない美癒を心配して、顔を覗き込む。
「私は・・・神様がよく分からないです。
私のこと・・・”取り込まない”らしいです。琉緒のいないこの世界で生き続けろってことですよね。残酷じゃないですか?」
表情を変えずに淡々と、独り言のように呟く。
言葉のなかに微かな憎しみが感じられる。
「まさかそんな・・・でもそれは・・・きっと神様にも理由があるんだよ。」
ジンにとっては、神様がそんな残酷なことをするわけがないと信じて疑わなかった。
ここにきて初めて美癒とジンの目が合う。
美癒の視線がずっと下がったままだったからだ。
「理由?」
「補佐役になれば神様に取り込まれる日が普通より伸びるんだ。美癒ちゃんの場合は僕にある程度の決定権が持たされる。
でも魂を操る力は神様にとって大きな力になる。それを取り込まずに美癒ちゃんの生涯で終わらそうとしてるのは・・・きっと何か理由あるんじゃないかな?」
「補佐役になれば伸びるなんて、初めて知りました。」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「・・・神様にとってはただの罪悪感からじゃないですか?ゼロの件の褒美だと言ってましたし。」
「ゼロの件は僕の不始末だから、神様が罪悪感を感じるのはおかしい。関係ないはずだよ。」
ジンと話していても神様の本心は分かるわけがない、そう思いながら美癒は何も返事をしなかった。
また人形のように動かず、表情も変えず、ベッドに座ったまま窓の外を見る美癒に
ジンは違う話題を振る。
「ところで琉緒が【この世】に帰されるって気付いてた件なんだけどーーー」
美癒の身体がピクリと反応する。
「神様を除いたら、僕と美癒ちゃんだけの秘密だったんだ。
だから誰かから漏れるなんて心配はしていなかった・・・のに、琉緒は知っていた。」
美癒は自分が疑われているのかと思いながら、変わらず遠くの空を見ていた。
「琉緒に聞かれたときは惚けておいたんだけどさ、気になって調べていたんだ。それでやっと分かったんだ。」
「・・・どうしてか分かったんですか?」
「すごく意外な所でバレてた。」
ジンは苦笑いしながら続ける。
「美癒ちゃん、この図鑑知ってるかな?」
眺めていた空から視線を移すのすら面倒に思いながらも、ゆっくりジンの方に顔を向ける。
「それは・・・琉緒が持ってた・・・。」
いつだったか、図書館から借りてきたと言っていた図鑑だった。
「そう、琉緒が借りてた履歴があってね・・・。美癒ちゃんは見たことある?」
「私は見てないです。・・・琉緒が開いてたページだけは見えましたけど。」
見えたといってもチラッと見ただけだった。
「”心花(ミハナ)”のページかな?」
「ミハナ?いえ、琉緒は名前がつけられていない花だと言っていました・・・この花です。」
話の最中にジンがページを捲っていき、見覚えのある花が見えたので指をさして伝える。
「・・・やっぱり心花か。琉緒と見に行ったでしょう?」
「異界の山にある崖の反対側ですよね?蝶々みたいなお花。」
「そうそう。ひょっとして心花については何も知らない?」
「何も・・・図鑑も少し覗き込んだくらいですし、心花って名前すら知らなかったです・・・。そもそも何で琉緒は”名前がない”って言ったんだろう・・・。」
ジンは琉緒を思い浮かべながらフッと笑って、図鑑を美癒の目の前に持っていく。
「これを読んでみて。」
美癒は文章に焦点を合わすと、棒読みで口に出しながら読んだ。
「・・・”心花には妖精が宿っており、妖精によって生かされている花だ。そのため摘んでしまうと妖精は消えていき30分程で枯れてしまう。
ーーー近付く人々の心の声を妖精達が言葉にする。発見された当時は連絡手段として用いられることもあった。決して嘘をつかず真意のみを述べるが、秘密を守れない花とも言われ、人々は次第にその花から離れて行った。”・・・!?」
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる