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第4章
第81話 アネモネ
しおりを挟む真っ暗な部屋で目が覚めて、隣を見る。
当たり前だが、そこには誰もいない。
自分以外の温もりもない。
それを分かっていながらつい期待して確認してしまう。
(・・・琉緒が隣にいた・・・こんな夢・・・見たくなかった。)
幸せな夢は、現実で切なさを倍増させた。
美癒が眠りについてから既に2日経過していたーーー。
***
「美癒ちゃんは神様と何の話をしたの?
僕はゼロの件について、お咎めなしで済んだよ。神様に取り込まれる覚悟はあったんだけどね。
・・・それと、美癒ちゃんが魂の入れ替えを練習する必要もなくなったから、もう僕の補佐役に就けばいいってさ。」
窓から日差しが差し込む。
朝からやってきたのはジンだった。
忙しいはずのジンは、任務に行くことなく美癒の部屋に居座った。
この様子だと、きっと眠り続けていた昨日も様子を見に来てくれていたのだろう。
美癒の頭の中は琉緒でいっぱいだったが、ジンの話に口をポカンと開いた。
(そうだった。すっかり忘れてたけどジン様の補佐役に任命されてたんだった・・・琉緒と一緒に。)
「美癒ちゃん?」
何の返事もしない美癒を心配して、顔を覗き込む。
「私は・・・神様がよく分からないです。
私のこと・・・”取り込まない”らしいです。琉緒のいないこの世界で生き続けろってことですよね。残酷じゃないですか?」
表情を変えずに淡々と、独り言のように呟く。
言葉のなかに微かな憎しみが感じられる。
「まさかそんな・・・でもそれは・・・きっと神様にも理由があるんだよ。」
ジンにとっては、神様がそんな残酷なことをするわけがないと信じて疑わなかった。
ここにきて初めて美癒とジンの目が合う。
美癒の視線がずっと下がったままだったからだ。
「理由?」
「補佐役になれば神様に取り込まれる日が普通より伸びるんだ。美癒ちゃんの場合は僕にある程度の決定権が持たされる。
でも魂を操る力は神様にとって大きな力になる。それを取り込まずに美癒ちゃんの生涯で終わらそうとしてるのは・・・きっと何か理由あるんじゃないかな?」
「補佐役になれば伸びるなんて、初めて知りました。」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「・・・神様にとってはただの罪悪感からじゃないですか?ゼロの件の褒美だと言ってましたし。」
「ゼロの件は僕の不始末だから、神様が罪悪感を感じるのはおかしい。関係ないはずだよ。」
ジンと話していても神様の本心は分かるわけがない、そう思いながら美癒は何も返事をしなかった。
また人形のように動かず、表情も変えず、ベッドに座ったまま窓の外を見る美癒に
ジンは違う話題を振る。
「ところで琉緒が【この世】に帰されるって気付いてた件なんだけどーーー」
美癒の身体がピクリと反応する。
「神様を除いたら、僕と美癒ちゃんだけの秘密だったんだ。
だから誰かから漏れるなんて心配はしていなかった・・・のに、琉緒は知っていた。」
美癒は自分が疑われているのかと思いながら、変わらず遠くの空を見ていた。
「琉緒に聞かれたときは惚けておいたんだけどさ、気になって調べていたんだ。それでやっと分かったんだ。」
「・・・どうしてか分かったんですか?」
「すごく意外な所でバレてた。」
ジンは苦笑いしながら続ける。
「美癒ちゃん、この図鑑知ってるかな?」
眺めていた空から視線を移すのすら面倒に思いながらも、ゆっくりジンの方に顔を向ける。
「それは・・・琉緒が持ってた・・・。」
いつだったか、図書館から借りてきたと言っていた図鑑だった。
「そう、琉緒が借りてた履歴があってね・・・。美癒ちゃんは見たことある?」
「私は見てないです。・・・琉緒が開いてたページだけは見えましたけど。」
見えたといってもチラッと見ただけだった。
「”心花(ミハナ)”のページかな?」
「ミハナ?いえ、琉緒は名前がつけられていない花だと言っていました・・・この花です。」
話の最中にジンがページを捲っていき、見覚えのある花が見えたので指をさして伝える。
「・・・やっぱり心花か。琉緒と見に行ったでしょう?」
「異界の山にある崖の反対側ですよね?蝶々みたいなお花。」
「そうそう。ひょっとして心花については何も知らない?」
「何も・・・図鑑も少し覗き込んだくらいですし、心花って名前すら知らなかったです・・・。そもそも何で琉緒は”名前がない”って言ったんだろう・・・。」
ジンは琉緒を思い浮かべながらフッと笑って、図鑑を美癒の目の前に持っていく。
「これを読んでみて。」
美癒は文章に焦点を合わすと、棒読みで口に出しながら読んだ。
「・・・”心花には妖精が宿っており、妖精によって生かされている花だ。そのため摘んでしまうと妖精は消えていき30分程で枯れてしまう。
ーーー近付く人々の心の声を妖精達が言葉にする。発見された当時は連絡手段として用いられることもあった。決して嘘をつかず真意のみを述べるが、秘密を守れない花とも言われ、人々は次第にその花から離れて行った。”・・・!?」
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