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第4章
第80話 アネモネ
しおりを挟むそんな美癒にも神様は気付いている。
(気にしないで。あなたの思っている通りで間違いありません。)
変わらず優しい口調の声が心に染み込んでいく。
(す、すみません!!なぜか急に昔聞いた会話を思い出してしまって・・・。)
(・・・私は強い心を持っていないといけないのに、ジンという存在が現れ甘えてしまったのです。ゼロだけが悪いのではありません・・・私が一番悪かったのです。
それなのに私は解決に尽力できず、恥ずかしいばかり。結局あなたに一番迷惑と苦労をかけてしまったわ・・・。)
(迷惑だなんて・・・!言い方が悪いかもしれませんが、そのおかげで最後に琉偉と話すことが出来ました。本来であれば”最後の会話”と知って相手と話すことはできませんので、別れの挨拶ができた私は幸せ者です。)
(あなたは本当に優しい・・・でも誰にでも本音と建前があります。私には、あなたが強がっていると全てお見通しなのです。心の奥底に秘めた思いも全て・・・。
本来であれば、美癒・・・あなたはたった数年で私に取り込まれ消えてしまうでしょう・・・でも、ゼロの件を解決した褒美として取り込まないことを約束するわ。)
一瞬美癒の呼吸が止まった。
鈍器で頭を殴られたような眩暈がする。
(・・・神使任務に就く限り最期まで精一杯務めます。しかしそのような特別扱いは必要ありません。・・・できることなら今すぐにでも消えたっていいくらいです。)
(あなたには酷ですが、そう思っていることも分かっての私の決断です。)
もちろん美癒の頭の中は、”なぜ?”と疑問でいっぱいになった。
(そんな・・・!私は・・・私は・・・琉緒のいないこの世界に、この日々に・・・慣れることができません。何かで気を紛らわせないと苦しい日々なのです。それに神様だって私の魔力を取り込まないと・・・!)
涙ながら必死に訴える。
(話は以上です。)
神様は美癒から目を逸らした。
カーテンがゆっくりと閉まっていく。
「ま、待ってーーーー!」
引き留めようと咄嗟に声に出したが、カーテンはそのまま閉じてしまった。
神様と対面していると、時の流れが一気に進む。
その場から離れられなかった美癒。
ジンに引きずられるように建物から出ると、外は明け方だった。
美癒は部屋に送ってもらうと、疲労と眠気によりすぐ意識を失った。
【水の世界】で生き続けることは美癒にとってとても辛いことなのに、なぜ神様が頑なに耳を貸さないのか・・・?
初めて神様に対する不信感が生まれてきていた。
だが深い眠りについた美癒は、とても幸せな夢の中にいた。
ベッドの中、隣には琉緒がいる。
美癒の視線に気付くと琉緒は優しく微笑んだ。
「なんだ・・・全部夢だったんだ。」
しっくりくる。
・・・そうだ、これが自分の日常だ。
「どした?」
「琉緒がいなくなる夢見ちゃって・・・。」
「ばかだなー、俺がいなくなるわけないだろ?」
からかわれると思ったが、優しい口調だった。
「夢で良かった。本当にそんなことになったら耐えられない。」
「俺も同じ、耐えられねぇ。俺は・・・きっとお前が”菜都”だった時から好きだったんだ。モニター越しだけど弟の琉偉と同じ景色を・・・菜都を見てきたんだから・・・そりゃあ好きになるよな。お前全部が可愛すぎるんだよ・・・。」
「なっ・・・!?ツンデレ琉緒のデレには慣れないよぉ・・・。」
真っ赤になった美癒は布団で顔を隠す。
「ふっ・・・少し離れただけで心配になるんだ。最近はテル先輩がお前のことをチラチラ見てるだけで腹が立つしなぁ。」
琉緒がテルの話題を出すと、美癒は思い出したように笑った。
「あははっ!違ったの。今日の神使任務でね、テル先輩と話す機会があったんだけどーーー。」
ちょうど今日、ジンから”テルを頼るように”言われたため、きちんと話しが出来たのだ。
テルの言葉を琉緒に伝える。
『この前は急に腕を掴んでごめん。驚かせちゃったね・・・ただ相談したかったんだんだ。
実は・・・琉緒君と仲良くなりたくて・・・でもいつも美癒ちゃんと一緒にいるし、琉緒君と視線が合っても睨まれるし・・・。』
「ーーーってテル先輩が!本当笑っちゃった~っ!!私の自意識過剰で誤解してたよ。」
「なんだ・・・てっきり美癒を見てるのかと思って睨んじまってた。」
「ほんっと、琉緒と仲良くなりたいだなんて物好きだよね~・・・あれ?何で今日私は琉緒と一緒にいなかったんだっけ・・・?何でテル先輩を頼るように言われたんだっけ・・・?・・・え?・・・あれ・・・?」
テルの言葉の続きを思い出す。
『でも琉緒君が【この世】に戻ってしまうなんて信じられない・・・美癒さんヒドイよ~。』
テルの続きの言葉が繰り返し頭の中に流れ続ける。
気付いてしまったーーー。
「・・・そうだね・・・琉緒は”いなくなるわけない”。私がしたんだ・・・。
・・・はあ・・・どっちが夢なんだか・・・。」
できることならこのまま琉緒と一緒にいたかった。
夢だと気付きたくなかった・・・だが、夢だと気付いてしまった美癒は現実で目を覚ます。
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