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第4章
第79話 アネモネ
しおりを挟むジンは、美癒が魂の入れ替えをほとんど済ませていることを知って駆け付けたようだ。
かなり無理して体力が消耗しているのではないかと心配している。
「美癒ちゃん・・・だいぶ頑張ったみたいだね。ほとんどの入れ替えが完了している・・・。」
そっと美癒の頭を撫でながら微笑んだ。
「なんとなくコツを掴めたみたいで、そんなに時間もかからなかったです。」
「・・・ははっ・・・心配いらなかったね。・・・君は、全然笑ってくれなくなった。」
「え?」
「いや、なんでもないよ。今日の任務は終わりにしよう!」
そう言いかけた時、突然テルが現れてジンに耳打ちをする。
ジンが頷くとテルは再び姿を消した。
「ごめん美癒ちゃん・・・神様に呼ばれたから付いて来てほしいんだ。」
「あ、はい。キリも良いので大丈夫です。」
美癒はリストを片付けて一息つく。
「疲れてるのに申し訳ない。行くよ?」
「お願いします。」
ジンが指を鳴らすとあっという間に神様のもとへ着いた。
そんななか、美癒は黄色い魂のことが気になって仕方なかった。
(あれは、どこで聞いた言葉だっけ・・・?モヤモヤするなぁ。)
”美癒”と”菜都”の記憶が混在する今、考えれば考えるほど分からなくなっていた。
ジンは美癒の険しい表情を見て、控えめに話しかけてくる。
「せっかく復帰したばかりだけど、明日からまた休むことになりそうだね。」
「え?何でですか?」
「ほら・・・神様に会うからさ・・・。」
美癒が、理由を思い出すのには少し時間がかかった。
以前神様に会ったあと、体力・魔力の消耗により丸三日眠りについていたことを。
「そうだった・・・忘れてました。また三日かかるんですかね。」
「今の美癒ちゃんは万全な状態じゃないだろうからもっとかかるかもね。」
「そうですか。でも寝ているあいだに時間が過ぎていくって、今は有り難い・・・。」
「それは美癒ちゃんらしくない言い方だね。」
心配そうに言うジンを見て、うっかり心の声が出てしまったことに気付く。
「すみません!つ・・・つい口に出ちゃったけど心配させるつもりは無いんです。」
「ううん、びっくりしたけど思ったことを素直に話してくれた方が嬉しいよ。それに・・・」
ジンとしては”今しかない”と思いながら話を続ける。
「今更になってしまったけど、ゼロの件・・・琉偉と琉緒のことも本当にありがとう。僕が招いた事態なのに、美癒ちゃんに頼る以外なにも出来なかった。
美癒ちゃんが【空の世界】に来てくれてなかったら琉緒と琉偉は助からなかった。」
ジンの言葉で、
自分が【空の世界】へ来たことに、ちゃんと意味があったのだと初めて気付いた。
琉緒は生まれる前に作り物の魂と入れ替わっているため、ジンが再び魂を入れ替えることは不可能。
弟の琉偉は【あの世】への扉を通ってしまったため、ジンだけだったら助けることはできなかっただろう。
美癒にとって大切な琉緒と琉偉、この2人を助けることができたのは本当に美癒だけだったのだ。
自分の存在に意味があった、そう思うと目の奥が熱くなってきた。
「私こそ、ありがとうございます。そう言って頂けるだけで・・・少し心が軽くなった気がします。」
ジンは笑顔を向けて頷いたあと、コンコンッと扉をノックした。
キイィィー・・・
扉がゆっくりと開いていく。
相変わらず薄暗い室内。
真っ赤な絨毯の上を歩いていくジンに続いて、美癒も小走りでついていく。
大きなカーテンの前に到着すると、ジンと美癒は跪いて視線を下げた。
初めて来たときよりも早く着いた気がした。
「神様にご挨拶申し上げます。」
ゆっくりとカーテンが開いていくと、神様の声が聞こえてきた。
(美癒、待っていました・・・まだ体調はよくないみたいですね・・・。そんな時に呼び出してごめんなさい。でも早くあなたと話しておきたくて。)
(大丈夫です、お気になさらないでください。)
(・・・ゼロの件、あなたの活躍がなければ多くの犠牲者が出ていました。本当にありがとう。私の羽は・・・まだ使えそうね。)
(恐れ入ります。神様から頂いた羽がなければ、私も琉偉も助かりませんでした。今ここにいられる事に感謝しています。何もかも神様のおかげです。)
(いいえ、違うのです・・・今まで私は一人で沢山の命を生み出してきました。もちろん【水の世界】の皆に魔力を取り込ませてもらってこそ続けられる事なので”一人”と言うのは違うかもしれませんが・・・。
しかしジンが新しい魂を作ったことに私はとても喜びました。初めてだったからです・・・魂を作れる者が現れたのは。だからゼロの魂を作ることにも許可しました。)
何故だか分からないが 不意に、以前 琉緒がジンに対して言っていた他愛ない一言を思い出した。
”お前(ジン)の悪趣味に神様は興味津々”
もしかするとこの事なのかーーー?
そう頭を過った時、ハッと気付く。
心の中で思っていることは神様に丸見えだ・・・美癒は神様の目の前で取り返しのつかないことをしてしまった。
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