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第4章
第78話 アネモネ
しおりを挟む【空の世界】で任務に励む美癒を見つけ、ジンが駆け寄ってきた。
「美癒ちゃん、本当に大丈夫?もう少し休んだら良いのに・・・心配だなぁ。」
「何日も休んだので大丈夫です。それに・・・任務中の方が気がまぎれると思うので。」
「大丈夫かなぁ・・・僕達は助かるけど、そういうことなら・・・うん、分かった!
じゃあ早速で申し訳ないけど、魂の入れ替え依頼が溜まってるから順次対応を頼むよ。」
早速リストを取り出し、美癒に手渡す。
あまりの多さに目を見開く。
「魂の入れ替え・・・今までは全然無かったのに、こんなに溜まってるんですか?」
「そうなんだよ、タイミング悪いよね。」
ごめんね、と苦笑いしながら手を合わせる。
入れ替えの練習をすべき時には全く依頼が無かったというのに、本当に皮肉なものだ。
結果としては琉緒の魂の入れ替えに成功しているから問題ないのだが、美癒は無意識のうちに何の罪もないリストを睨みつけてしまっていた。
「まだ生まれる予定も先の案件だから急ぎじゃないし、無理はしないでね。何かあったらテルを呼んで。それじゃあ後で話そう!」
ジンは、少し離れた場所にいたテルにアイコンタクトを取り、去っていく。
ーーーー琉緒がいなくなって、あっという間に数日が経過していた。
ジンは、美癒と琉偉が扉から脱出して異界の山に戻ってきた時から一部始終を見ていた。
【あの世】へ繋がる扉に入ると最後、後戻りはできない。
ジンですら、どうすることも出来ないのだ。
そんな扉から、まさか2人が無事戻ってくるとは思わなかったので夢でも見ているようだった。
(一体どうやってーーー・・・?)
ジンは信じられない光景に啞然とした。
そして琉偉が【この世】に帰ったあと、しゃがみ込んで泣いている美癒を見て、何て声をかけたら良いのか分からなかった。
ジンの抱えていた問題であるゼロ、そして琉緒と琉偉の帰還・・・美癒のおかげで全てがあっという間に解決したのだ。
美癒に対して感謝の気持ちを伝えるべきだが、そのたった一言すら言える雰囲気ではなかった。
悲しみから解放してあげることはできないが
とりあえず落ち着かせてあげたい、そう思いながら
ジンはそっと美癒の頭に触れて眠りにつかせた。
涙で溢れた美癒の顔を拭うと、美癒の部屋に連れて帰り
数日間は起きないように魔法をかけておいた。
身体も心も休ませてあげたいと思った。
そんな美癒は、きっと目が覚めてからすぐ任務に復帰してきたのであろう。
以前までの明るい表情とは違い、淡々と仕事をこなしていた。
上手く笑えてなかったし、少しやつれていた。
まるで感情がない人形のようだ。
美癒はジンから受け取った魂の入れ替えリストと睨めっこしながら、着々と入れ替えを進めていた。
(時間がかかると思ったけど、あと少しで終わりそう。)
もう【空の世界】にいる魂を入れ替えるのはお手の物だった。
失敗もなくこなしている。
美癒はひと段落ついたので少し休憩しようと、近くの花畑にあるベンチに座った。
風に揺れる花を見ながら、何も考えずただただボーっとしていた。
ずっと心が泣いていた美癒が、”何も考えない”時間を得たのはとても貴重だった。
「美癒さ~ん!」
背後から深紅色の魂が駆け寄って来る。
以前 美癒に相談を持ち掛けた三姉妹の長女だ。
我に返った美癒は急いで作り笑いをする。
「あら、何してるの?妹ちゃんたちは??」
「妹を迎えに来たんです。」
「え?」
「ほら、そこ。」
辺りを見渡す・・・と、花畑の影から黄色い魂がヒョコッと出てきた。
「わぁ!びっくりしたぁ・・・いつからいたの?全然気付かなかったよ~。」
「・・・」
黄色い魂は、相変わらず反応が薄かった。
そんな妹に慣れている深紅色の魂は、気にすることなく美癒に話しかける。
「それより美癒さん、色々と大変だったんですね!?」
「ん~??」
「みんな噂してますよ。まあ・・・急に琉緒さんがいなくなったから騒がれるのは当然なんですけど。」
「へぇ・・・みんなよく知ってるねぇ。」
まるで近所のおばさんたちが噂するかのように、【空の世界】では琉緒の行方があっという間に知れ渡っていた。
「大丈夫ですか?」
「心配してくれてありがとう、大丈夫だよ。」
「美癒さん・・・。」
美癒が無理して笑いかけてくれている・・・それは誰が見ても一目瞭然だった。
「辛いなら無理して笑わなくてもーーー」
心配した深紅色の魂は言葉を続けたが、珍しく黄色い魂がそれを遮った。
「”お前の元へ”・・・”必ず守る”。
・・・・・・”何があっても必ず守る”。」
まるで俳句を詠んでいるかのように淡々と呟く。
(ひとり言・・・?それにしてもどこかで聞いたことがあるような・・・。)
「今度は何なの~?」
驚く様子もなく深紅色の魂はため息をつきながら妹に尋ねた。
黄色い魂は、無言で美癒を見つめる。
「あまり気にしないでやって下さい。なんか聞こえるんですよ、この子。」
「・・・なにが・・・?」
「さあ?」
黄色い魂が美癒に近付いていく。
「別に、今聞こえたわけじゃないけど・・・。」
漸く黄色い魂が返事をした。
「そ、そうなの?いつどこで聞こえたのか、詳しく聞いてみたいな。」
黄色い魂の視線が美癒から離れる。
「・・・ジン様が来たので・・・また今度ですね。」
美癒の隣にジンが降り立つ。
深紅色の魂と黄色い魂は一礼してあっという間に去って行った。
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