夢で出逢う - meet in a dream -

LikuHa

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第4章

第99話 月明り

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「久しぶりに会った琉緒と最後にゆっくり話をしたいし、今夜は遅くまでお邪魔してもいい?」

「あ、あぁ俺はいいけど。」

「じゃあ俺は琉偉先輩の部屋に寄って帰りますー。」

「何で俺の部屋?」

「土田先輩に助けられた話、聞きたいんじゃなかったんスか?」

琉偉は思い出したかのように好奇心混じりの表情で、自分の部屋に案内していく。


「あ。」

琉偉の部屋に入る前に、近藤君は立ち止まって振り向いた。

菜都に視線を合わせてまっすぐ見つめる。

「おれハッキリした性格なんで、今まですみませんでした。でも本当に土田先輩に身体を返してくれるなんて、見直しましたよ。土田先輩じゃなくて別人として生きてたら仲良くしてあげたのに。」

そう言って笑顔を向けると、近藤君は琉偉の部屋へと入っていった。

パタンッと扉が閉まる音がするまで菜都は固まっていた。

「え・・・あれ本当に謝る態度なの?」

「ははは・・・。」

琉緒は苦笑いをしながら曖昧に笑って誤魔化す。

だが、菜都の口角がピクピクと動いていることに気付いていた。

近藤君が初めて笑顔を向けてくれて、なんだかんだ嬉しかったのだろう。


その晩、琉緒と菜都は積もり積もった話をたくさんした。

昔の思い出や、入れ替わったあとのお互いについて。

気が付くと明け方になろうとしていた。

近藤君は日が回る前には既に帰っていて、菜都は琉緒に自宅まで送ってもらった。


「こんなに話が止まらないと思わなかった!ありがとう!!最後に家族にも会いたいから一旦帰るね。」

「あぁ、じゃあ昼飯後にあの川で・・・。」

「また後でね。」

次に琉緒と会うのが、本当に最後となる。

菜都は皆が寝静まっている真っ暗な家へと入っていった。

そして静かに両親の部屋に入っていく。

(お父さん、お母さん・・・。)

心の中で何度も呼びかけて2人の寝顔を見つめた。

本来であれば二度と会うことはなかった。

話すこともできなかった。

触れることもできなかった。

「みゆ・・・。」

「・・・み・・ゆ・・・。」

ーーーー目の前で名前を呼んでもらえることもなかった・・・はずだった。

どれも本当ならば、二度と叶うはずのなかった願い。

「お・・・お母さん?お父さん?」

両親は返事をすることなく寝息をたてた。

(こんなタイミングよく寝言で”美癒”って言う・・・?そんなまさかね・・・。)

自分が望んだから都合の良い言葉に聞き取っただけかもしれない。

それでも嬉しかった。

暫く経つと菜都は自分の部屋に戻り、勉強机に座って作業をしたあと布団に入った。

時間が惜しい気持ちはあったが、睡魔には勝てなかったのだ。



ーーーーーなんだか幸せな夢を見た気がする。

こんなに穏やかな気持ちになれたのは久しぶりだった。

”この夢だけは絶対に忘れたくない”

そう思えるほど。

だけど・・・


目が覚めたら全て忘れてしまうーーーーー



「いい匂い・・・。」

目が覚めると時計は10時の針を過ぎていた。

空腹でお腹がグーッと鳴る。

(この匂いはグラタンかな・・・?ドリアかな・・・?)

机の上に置いていた物を手に取り、リビングへと向かう。

「おはよぉ~。」

台所に立つ母。

本を読んでいる父。

テレビを見ている兄。

ヘッドホンをつけたまま宿題をしている大翔。

珍しく家族全員がリビングに揃った。

「あら、いつの間に帰ってたの?昨日は香織ちゃんの家に泊まるって言ってたのに。」

「4時頃に帰ってきたの。」

「危ないじゃない。今度からは明るくなってから帰って来なさい、じゃないとお泊り許せないわよ。」

「ごめんなさい。」

素直に謝る菜都を見て、母は手に持っていた食器をうっかり落としてしまった。

幸いプラスチック製の食器で割れていない。

父は本から菜都に視線を移して目を見開いていた。

「どうしたの?調子悪い?」

母が心配そうに駆け寄ってくる。

おでこや頬っぺたに手を当てられると、温もりが心に染み渡った。

「え・・・?」

「食欲はある?」

菜都は、美癒だった頃にモニター越しで菜都達家族を見ていた頃のことを思い出した。

母はしょっちゅう菜都に小言を言ってたし、
菜都は反抗期というわけではないが母の小言は右から左だった。

「ご飯・・・食べれるかしら?お粥を作ろうか?」

(やっぱり菜都は菜都だ。私じゃない・・・みんな私を通じて本物の菜都を見てるんだもの。)

別に嫌な気持ちはしなかった、むしろ自分とは正反対な菜都に少し憧れた。

「いや、なんともないよ。」

菜都は笑いながら答える。

「そう・・・?確かに熱もなさそうだし、顔色は良いわね。」

父も2人の様子を伺いながら呟く。

「久しぶりにお母さんの小言を聞いた。そういえばここのところ平和・・・聞かなくなってたな。」

両親は口を大きく開けて笑っていた。

「今日は菜都の好きなグラタンよ~。」

そう言いながら台所へと戻っていく。

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