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第5章
第104話 彩る
しおりを挟む任務の最中
美癒は遠くの空を眺めていた。
いい天気だ。
「美癒ちゃん、おつかいよろしく。これを持って神様の所に行ってきて欲しい。」
ゆっくり視線を落としてジンの方を向くと、大きな鞄を渡された。
見た目通り、その鞄は結構重たい。
美癒はジンに一言返事をすると、再び走り出した。
神使任務に就いて以来、ジンの使いで神様には何度も会っている。
神様に不信感を持って以来、必要以上の会話もしなくなっていた。
慣れてきたおかげで、今では神様に会っても寝込むことはなくなった。
神様の元へ到着すると、天使達が賑わっていた。
神様も今日は優しい瞳をしている。
美癒の不信感が伝わっているからか、最近の神様は”少し怖い”と思わせるほど素っ気なかった。
美癒はいつも通り挨拶を済ませて、鞄を差し出すと神様の近くにいた天使が近付いてきて、鞄を受け取った。
用事が終わり帰ろうとしたところ、珍しく神様が美癒を引き留めた。
(美癒、任務とは別の用件でちょうどあなたを呼ぼうと思っていたところなの。
・・・今まであなたがどれだけ辛かったことか。)
(・・・え?とんでもないです。用件とは?)
(今のあなたは人形みたいね。顔だけじゃない、心も止まってる。)
(そ・・・それは・・・。)
美癒は心の底から笑える日なんて、もう二度と来ないと思っていた。
なぜなら・・・
(私のせいね。)
そう、神様が
(私があなたをここで生かし続けてるから。)
琉緒のいない世界に美癒を一人ぼっちにしたから。
神様に”今すぐ消えたい”と懇願したあの日・・・あのとき神様は美癒から目を逸らした。
美癒の話を最後まで聞かずにカーテンで遮った。
あのとき言えなかった続きを今なら言えると確信した美癒は
「神様・・・」と声に出して呼びかけた。
だが、言うまでもなく神様には全てお見通しだ。
(えぇ。分かってるから言わなくてもいいわ・・・。今まで苦しみ続けていたことも・・・なにもしてあげられなくてごめんなさい。)
(それでしたら・・・単刀直入に言います。私の魔力を取り込んで消えさせてください。)
(・・・それはできそうにないわ。)
賑わっていた天使たちも静かになり、辺りが静まり返った。
美癒の眉がピクリと動いた。
期待したところで菜都の希望は打ち砕かれる。
”じゃあなぜこの話題を出したのか?”と訊ねる前に神様は話を続けた。
当然、菜都が訊ねる前に神様には伝わっているから。
(私はこの日をずっと待っていたのです。ただ・・・事前に話すことが出来なかった私の気持ちは理解して欲しい。全てはあなたたち次第だったから私にとっても大きな賭けだったのです。)
(なんのことですか?)
(菜都が・・・いえ、”本物の美癒”が異界の山に来てるわ。)
「は!!!!??」
美癒は咄嗟に大声で反応してしまった。
最近は無表情ばかりで、こんなに驚きの表情を浮かべたのは久しぶりだった。
何段か上に立っていた神様が、一段、一段と降りてきて美癒に近付く。
神様の周りを飛んでいた天使たちが一斉に神様から離れて、高い位置から2人の様子を見守っていた。
驚きのあまり固まってしまった美癒を、神様がそっと抱きしめる。
「か・・・みさま。」
(私の羽は・・・ちょうどこれが最後でしょうね。いってらっしゃい。)
「え、でも・・・。」
(急いで!!!)
菜都は瞬きを数回して神様を見たあと、返事をするように深く頷き立ち上がる。
そして神様に背を向けて歩きだした。
菜都の姿が見えなくなると、神様は目を瞑って天使たちを抱きしめた。
(・・・菜都、いえ美癒。私が生み出した魂よ・・・しっかり生きてーーー。)
離れたところでもその声は菜都の心に届いていた。
菜都は建物から出ると、神様の翼を取り出して異界の山へ飛ぶように念じた。
状況も分からない、でもとにかく進むしかなかった。
あっという間に異界の山が見えきて、美癒は菜都の姿を探す。
「どこにいるんだろう・・・?」
翼は菜都の居場所を知っているかのように進み続ける。
「あ、いた!菜都ー!!!」
美癒は大きな声で呼んだ。
菜都は小さな川のそばに座っていた。
美癒を地上に降ろすと、翼は消えていく。
(本当に、神様の翼は最後だったんだ。)
琉偉と【あの世】へ行きかけた時にかなり消耗した翼。
飛べない美癒は、消えた翼に向かって心の中で御礼を言った。
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