かしましくかがやいて

優蘭みこ

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はじまる恋

1.制服そして初登校

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新しい制服に袖を通した凜は姿見の前でくるりと一回りして、自分の姿を確認する。彼女の中学の制服は、男子が黒の学ランで女子は襟と袖口と胸当てに二本の白い線が入っていて全体が濃いグレー、ネクタイが赤銅色しゃくどういろのセーラー服だった。当然、凜の新しい制服と言うのはセーラー服で着てみた時の第一印象、その頼りなさにかなり狼狽してみたりする。

しかし、その姿を見詰める母の視線は暖かさと憧憬どうけいに溢れていた。母の中学時代はブレザーで、近所の学校のセーラー服の可愛らしさに憧れを抱いていたらしい。更に高校時代は制服そのものが存在しなかったから、セーラー服への憧れは時間が熟成し、自分の娘がそれを着ている姿を見て目頭が熱くなったりする。

「凜、どう、着心地は?」
「……うん、なんか、すかすかする」
「ふふふ、そうかも知れないわね。学ランと違って色々とひらひらしてるものね」
「これ、冬服なんでしょ?こんなんで寒くないのかな」
「ま、発熱シャツとか厚手のタイツとかは必需品ね。それに校舎の中って冬場は暖房入ってるから極端に寒い事は無いと思うけど」
「う、ん……なら良いんだけど」

凛の体も要約癒えて、女の子になってから初登校するスケジュールが決まった。初日は顔見せだけで終わって、その後一週間は授業は午前中のみ。本格的に学校に復帰するのは第二週からと言う事が担任教師から告げられた。

クラスと学校全体の生徒には十分な説明が行われたそうで、凜が女の子になったと言う事で虐めを受ける事が無い様、学校はかなり配慮してくれているらしい。だが、正直、凜は不安いっぱいでこのまま不登校になってしまったらどうしようなどと言ったりもしていたが、その度に母は彼女を抱きしめて彼女を只管に励まし、彼女の不安を取り除く事に注力する。

「凜の学校の先生もお友達もみんないい人ばっかしよ。何にも心配する事無い。堂々と学校に行けばいいわ」
「……う、ん」

日々はばたばたと過ぎて行き初冬のある日、凜の初登校の日が来た。初日は母も付き添って、担任と校長、教頭と面会し、それから凜は担任に連れられて教室に向かった。久しぶりの学校の廊下は暫く見ない間に陽の光が差し込む角度が変わり夏のきらめきは完全に消え去って、影が長く横たわる。凜の心臓は今極限まで脈打っていて、この激しい動悸どうきの性で倒れてしまうのではないかと思う程だった。

「凜君」
「……は、はい」

担任教師に突然話しかけられて心臓が飛び出すかと思ったが、顔を上げて教師の顔を見た瞬間、おそらく、今の心配は徒労に終わるだろうと凜は思った。その穏かな笑顔は彼女に溢れるほどの勇気を与えてくれたのだ。

★★★

「ねぇ紗久良は凜君と結構頻繁に会ってたんでしょ」
「……え、う、うん、まぁね」
「どんな感じになってるの?」
「うん、そうねぇ。印象はあまり変わんないかな。でも、ここ一ヶ月くらい会ってないから最近の様子は良く分かんないわ」
「うふふ、どんな風になってるのかな、可愛くなったのかな、楽しみ~~~」

教室では凜のうわさが飛び交い、ざわめきを通り越して騒がしい領域に達していた。その興味は男子より女子の方が新進な様であちこちにグループが出来てさざなみの様な会話が交わされる。そのうねりが頂点に達した時、教室の扉が開いて担任教師が入ってくる。

「みんなおはよう、はい、席に着きなさい」

担任教師は笑顔を崩すことなく生徒達に語り掛ける。その穏かな口調は何時もと変わる事は無く教室に中に響く。皆が席について静寂が戻ったところで担任教師は再び口を開く。

「さて、今日は以前から話していた友達が帰ってきました、なので、改めて紹介したいと思います。凜君、入りなさい」

その声を聞いて廊下で待機していた凜が教室に足を踏み入れる。そして、担任教師の横に進み、皆の方に体の向きを変える。その瞬間、教室に一瞬どよめきが起こる。紗久良はさっき、凜の印象は変わらないと言っていたが、紗久良が彼女と会っていなかった一ヶ月でかなり女性化が進んでいた。顔の輪郭は丸みを帯びて瞳が少し大きくなり、髪の毛の質がかなり柔らかくなって少なくとも男の子の面影は完全に影を潜めていた。

「うわぁ……」

紗久良も思わず声を上げてしまった。秋が始まる頃にはまだ男の子の面影の方が強くて凜はほんとにちゃんと女の子になれるのかと心配したものだがそれは全く無駄だった事を察すると、ほっと胸を撫でおろした。同時に湧き上がる良く分からないドキドキに頬を染める自分に気が付いて訳も分からず狼狽うろたえた。

紗久良の後ろの席の莉子りこが身を乗り出して来て耳元で囁いた。

「なによ、全然印象違うじゃない」
「え、ええ……そ、そうねぇ」

頬を染めながら引き攣った笑顔を張り付けて紗久良は声を絞り出す。

「でも、なんか凄く可愛くなったじゃない。私、惚れそうよ」

彼女の惚れそうという言葉にドキリとする。そして、訳の分からないドキドキの原因が分かった気がして更に動悸が激しくなる。

「……莉子って、そういう趣味なの?」
「うん、男の子より実は女の子の方が好きなんだ。紗久良って私の趣味だよ」
「え?」
「あはは、でも紗久良はその気は無いよね。でも、凜君なら有り得るんじゃない。幼馴染で知らない仲でもないんだし、元々は男の子だし」
「そ、そんなこと……」

紗久良は耳まで真っ赤になって一応否定はして見せたが、それが本心でない事に自分でも気付いていた。莉子の言う事はあながちち間違ってはいない。その思いを彼女に悟られないように只管ひたすら平静を装ったが無駄な行為だったらしく、莉子はにやりと笑って見せた。
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