29 / 77
硝子の心たち
12.凪の日……
しおりを挟む
体育の授業で世代を超えて嫌われるのが『持久走』。球技や器械体操は動きに変化が有ったりスピード感が有ったりでそれなりに素人でも楽しむことは出来るのだが、この、ただひたすら長距離を走るという競技はその最中、苦しさに紛れて自分の内面を掘り下げてしまう事が有って、あとで自己嫌悪に陥る事が有ったりするからそういう面でも嫌われるのではないだろうか。
ただ、その教義の向こう側に確固たる目的が有ればそれも苦にならない。凜の場合、ユーホニアム演奏に必要な肺活量を増強するという目標が有るからそれもあまり苦にならないから、今日の授業は持久走と言われてもそれ程文句をぶーたれる事も無い。
その持久走のタイムアタックが行われた授業後の教室で女子達に混じって体操着から制服に着替えていた凜にクラスメートの一人が訪ねた。
「ねぇ、凜君って、マラソン好きなの?」
「う~~~ん、そんな事は無いけど」
「でも、授業中かなり真面目に走ってたわよね」
「ああ、楽器演奏するのに肺活量入るから必要に迫られてっていう感じが有るんだよね」
「ふ~~~ん、大変なのね、吹奏楽部って」
吹奏楽部は分類上は文化部に入れられるがその内容は意外と運動部に近い。息を吹き込む楽器が多いからその担当者は練習中にかなりの体力を使う。それを補う為に体力をつけるのも練習の一つ、その内容の中にはマラソンも含まれるのだ。
「……それにしても凜君」
話しかけた同級生は凜の胸をじっと見て、わざとらしく鼻の下を伸ばして見せる。
「それなりになって来たね」
その発言を聞いた凜は顔を真っ赤にして瞬間的に体操服の上着でブラで包まれた胸をぱっと胸を隠す。
「な、何言ってるのさ」
「ふふふ、これでもちゃんと心配してたんだよ、ぺったんこのまんまだったらどうしようって」
「ぺ、ぺったんこって」
その子は凜の顔に自分の顔を思い切り近づけるとにっこりと笑って見せた。その態度は凜をからかっている様に見えなくもないのだが実際には本気で心配しているらしく、その笑顔に裏は無い様だった。
しかし……
「うふふ~~~ん」
その子の背後から肩越しにだらんとぶら下がったのは莉子だった。そして、うなだれた頭を重そうに持ち上げると、むふっと鼻息を吹いてからその子の頬に自分の頬をずりずり擦り付けブラックな笑顔を浮かべて彼女の耳元でぼそぼそと呟く。
「あらぁ、凜君の柔らかなバストは私の物なんだからねぇ。駄目よ、横からてぇ出しちゃぁ」
そのぬめっとした声色にクラスメイトはかなり引いた表情を見せる。そしてそっと莉子を肩から引き剝がすと、するすると教室の奥の方にフェードアウトして行った。それを見ながら苦笑いの凜は思う、彼女、当分自分に近づいて来てくれないだろうなと。
★★★
昼休み、紗久良と莉子の三人でお弁当を囲む凜はスカートのポケットの中に入れて有ったスマホが振動したのに気が付いてそれを取り出し画面を確認する。その様子を見ながら莉子が羨ましそうな表情を見せる。
「凜君良いなぁ、スマホ持たせて貰えて……」
その物欲しそうな声を聞いて凜は困った様な笑顔を見せる。
「ああ、これ?これは何というかこう、母子家庭で働くおかぁさんとの連絡用ツールにしかなってないから遊びではあんまり楽しくないよ」
「でも、SNSを見られるのはそれだけで楽しいと思うけど」
「実はこれ、アプリが殆ど入ってなくて」
「そうなの?」
凜はスマホの待ち受け画面を莉子に見せる。そこに表示されているアプリは通話とメール、それにブラウザだけだった。
「これの使用目的はもっぱら通話とメールだけ。高校生になったら入れて良いよっておかぁさんは言ってるんだけど……機種も僕が欲しかった奴じゃ無いし」
「ふ~~~ん、中学生はまだ子供……かぁ…」
溜息交じりの莉子の言葉に紗久良が返す。
「辛いところね」
「ホントよねぇ、これでも体を持て余したりするのにさぁ」
「……え?」
「あら、紗久良は時々来ない」
「来ないって……何が」
「こう、むらむらっとした物が」
紗久良と凜は一瞬顔を見合わせてから頬を赤らめ無言で俯く。
「あら、何よ……」
二人の行動に莉子は動じる事は無く、お弁当のおかずの玉子焼きを一齧り。そして不思議そうに交互に視線を送る。それは彼女にとっては当たり前のことで特に隠す事でもなく恥じる事でもない様で、人間なんだからと言う割り切りが有った。
「そうだ、凜君、それで、お母様から何の連絡?」
莉子の言葉に凜はタイムアウトしてしまったスマートフォンにログインし直して着信したメールの内容を確認する。
「……ん?」
そして極めて怪訝そうな表情。その表情から何か悪い知らせでも有ったのかと心配し、紗久良が遠慮がちに声を掛ける。
「どうか……したの…」
「え、う、ああ、ううん、何でもない!!」
その凜の慌てぶりを見て今度は紗久良が不審そうな表情で凜のスマホの画面を覗き込もうとしたのだが彼女は慌てててアプリを閉じてスマホをスカートのポケットの中にしまい込む。そして取り繕うような笑顔を作って必死で話題を反らそうとする。
「なによ、悪い事じゃ無いんなら教えてくれたって良いじゃない」
「だ、だから、ホントに何でもないから、ね……」
必死でこの話題から逃げようとする凜の態度が気にくわない紗久良の表情が見る見る曇って行く。その様子をあっけらかんと眺める莉子。三者三様の表情を見せながら昼休みの淡く穏やかな時間は過ぎて行く。それはまるで嵐の前の静けさの様だった。
ただ、その教義の向こう側に確固たる目的が有ればそれも苦にならない。凜の場合、ユーホニアム演奏に必要な肺活量を増強するという目標が有るからそれもあまり苦にならないから、今日の授業は持久走と言われてもそれ程文句をぶーたれる事も無い。
その持久走のタイムアタックが行われた授業後の教室で女子達に混じって体操着から制服に着替えていた凜にクラスメートの一人が訪ねた。
「ねぇ、凜君って、マラソン好きなの?」
「う~~~ん、そんな事は無いけど」
「でも、授業中かなり真面目に走ってたわよね」
「ああ、楽器演奏するのに肺活量入るから必要に迫られてっていう感じが有るんだよね」
「ふ~~~ん、大変なのね、吹奏楽部って」
吹奏楽部は分類上は文化部に入れられるがその内容は意外と運動部に近い。息を吹き込む楽器が多いからその担当者は練習中にかなりの体力を使う。それを補う為に体力をつけるのも練習の一つ、その内容の中にはマラソンも含まれるのだ。
「……それにしても凜君」
話しかけた同級生は凜の胸をじっと見て、わざとらしく鼻の下を伸ばして見せる。
「それなりになって来たね」
その発言を聞いた凜は顔を真っ赤にして瞬間的に体操服の上着でブラで包まれた胸をぱっと胸を隠す。
「な、何言ってるのさ」
「ふふふ、これでもちゃんと心配してたんだよ、ぺったんこのまんまだったらどうしようって」
「ぺ、ぺったんこって」
その子は凜の顔に自分の顔を思い切り近づけるとにっこりと笑って見せた。その態度は凜をからかっている様に見えなくもないのだが実際には本気で心配しているらしく、その笑顔に裏は無い様だった。
しかし……
「うふふ~~~ん」
その子の背後から肩越しにだらんとぶら下がったのは莉子だった。そして、うなだれた頭を重そうに持ち上げると、むふっと鼻息を吹いてからその子の頬に自分の頬をずりずり擦り付けブラックな笑顔を浮かべて彼女の耳元でぼそぼそと呟く。
「あらぁ、凜君の柔らかなバストは私の物なんだからねぇ。駄目よ、横からてぇ出しちゃぁ」
そのぬめっとした声色にクラスメイトはかなり引いた表情を見せる。そしてそっと莉子を肩から引き剝がすと、するすると教室の奥の方にフェードアウトして行った。それを見ながら苦笑いの凜は思う、彼女、当分自分に近づいて来てくれないだろうなと。
★★★
昼休み、紗久良と莉子の三人でお弁当を囲む凜はスカートのポケットの中に入れて有ったスマホが振動したのに気が付いてそれを取り出し画面を確認する。その様子を見ながら莉子が羨ましそうな表情を見せる。
「凜君良いなぁ、スマホ持たせて貰えて……」
その物欲しそうな声を聞いて凜は困った様な笑顔を見せる。
「ああ、これ?これは何というかこう、母子家庭で働くおかぁさんとの連絡用ツールにしかなってないから遊びではあんまり楽しくないよ」
「でも、SNSを見られるのはそれだけで楽しいと思うけど」
「実はこれ、アプリが殆ど入ってなくて」
「そうなの?」
凜はスマホの待ち受け画面を莉子に見せる。そこに表示されているアプリは通話とメール、それにブラウザだけだった。
「これの使用目的はもっぱら通話とメールだけ。高校生になったら入れて良いよっておかぁさんは言ってるんだけど……機種も僕が欲しかった奴じゃ無いし」
「ふ~~~ん、中学生はまだ子供……かぁ…」
溜息交じりの莉子の言葉に紗久良が返す。
「辛いところね」
「ホントよねぇ、これでも体を持て余したりするのにさぁ」
「……え?」
「あら、紗久良は時々来ない」
「来ないって……何が」
「こう、むらむらっとした物が」
紗久良と凜は一瞬顔を見合わせてから頬を赤らめ無言で俯く。
「あら、何よ……」
二人の行動に莉子は動じる事は無く、お弁当のおかずの玉子焼きを一齧り。そして不思議そうに交互に視線を送る。それは彼女にとっては当たり前のことで特に隠す事でもなく恥じる事でもない様で、人間なんだからと言う割り切りが有った。
「そうだ、凜君、それで、お母様から何の連絡?」
莉子の言葉に凜はタイムアウトしてしまったスマートフォンにログインし直して着信したメールの内容を確認する。
「……ん?」
そして極めて怪訝そうな表情。その表情から何か悪い知らせでも有ったのかと心配し、紗久良が遠慮がちに声を掛ける。
「どうか……したの…」
「え、う、ああ、ううん、何でもない!!」
その凜の慌てぶりを見て今度は紗久良が不審そうな表情で凜のスマホの画面を覗き込もうとしたのだが彼女は慌てててアプリを閉じてスマホをスカートのポケットの中にしまい込む。そして取り繕うような笑顔を作って必死で話題を反らそうとする。
「なによ、悪い事じゃ無いんなら教えてくれたって良いじゃない」
「だ、だから、ホントに何でもないから、ね……」
必死でこの話題から逃げようとする凜の態度が気にくわない紗久良の表情が見る見る曇って行く。その様子をあっけらかんと眺める莉子。三者三様の表情を見せながら昼休みの淡く穏やかな時間は過ぎて行く。それはまるで嵐の前の静けさの様だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる