44 / 77
それぞれの二人
6.莉子の輝き
しおりを挟む
「実は好きな子が出来た」
真顔の今野、その声色(こわいろ)は声変わりして間もない物だったが口調も重厚でそれなりに重要な秘め事を打ち明けられた様な気がしないでもなかったが凜は思わず爆笑してしまった。
「……冷てぇ奴だな」
そう言って再び顔を背ける今野に慌てて誤る凜だったが、爆笑してしまった事実は彼に対するアドバンテージを大幅に増やしてしまった。
「ご、ごめん、そんな意味じゃ」
「じゃぁどんな意味なんだよ」
「いや、その……え~~~」
「まぁいいよ凛、俺みたいのが恋バナなんて滑稽なことは分かってるさ」
「こ、滑稽だなんて」
「分かってんだよ小太りで運動苦手で頭もそれほど良くなくてオタクっぽくて……」
実際問題彼の着眼はあながち間違いではない。頭が悪いと、オタクっぽいと言うのは完全に否定する事項ではあるが、小太りと言う事に対しては正直完全に否定して払拭出来る人物はこの世にそれほど多くは無い筈だ。
「そんなふうに思わなくても」
「いや、そんなふうだろ、そんな俺が好きになったのが女子バスケ部のエースだなんてな」
「女子バスケ部のエース……エースって…え?」
「そう、お前と同じクラスの莉子さんだよ」
沈黙……そして今野が何を言ったのか理解した時、凜は背中を滝の様な汗が流れ落ちるのを感じた。
「……は、い?」
そして今野の熱い期待と困惑が入り混じった視線が凜に突き刺さる。切々と何かを訴えている様な彼の視線はその思いが本気で有る事を思が立っている様に感じられた。
「凛、その、頼みって言うのはだな……」
もぞもぞと話し出そうとした今野を制して凜はゆっくりと立ち上がると彼の言葉を遮る様にぽつりと一言。
「いや、言わなくても分かるよ、何が言いたいか……」
はあっと小さく溜息をつくと徐に立ち上がり、肩を落としぎみに凜はのろのろと楽器倉庫に向かう。そして愛用のユーホニアムのケースと譜面台を持ち出すと部室に戻り今野にちらっと視線を送る。そしてもう一度これ見よがしの溜息を一つ。
「……あ、のさ、凄く言いにくいんだけど」
「なんだよ凜」
「あんまり期待しないでくれよな」
「ああ、分かってるさ。男は当たって砕けるものだ」
だったら自分で告白しろよとポロリと口走りそうになったその言葉をぐっと飲み込むと、のたのたと部室を後にした。吹奏楽部の部室と言うのは少し妙なところに有って、その場所と言うのが体育館のステージ脇二階の小部屋で本来は何かの行開催時、放送機材を持ち込む場合に使う事を想定したらしいのだが全く使われる事は無く、その部分を部室として拝領したという事らしかった。
しかし、部員にはかなり不評な場所である。なにしろ簡易的に使うことを想定した空間だから暖房施設が無く、夏暑く冬は底冷えの寒に晒されることになる。全体ミーティング位にしか使用しないからまぁいいかと部員は割り切っていたりする。
★★★
いつも練習に使っている自分の教室に戻り、椅子を持ち出してそこに座って楽器をケースから取り出そうとして見た物の妙な疲労感に襲われて何だか闘気が沸いて来ない。そのままぼんやりと窓の外を眺めていたらあっという間に時間が過ぎ去り何もする事なく夕日が教室に差し込み始めてしまった。しょうがないから今日は引き上げようかと立ち上がって椅子を元に戻そうとしたその瞬間、がらりと教室のドアが開く。
「おやおや凜君、今日も練習ご苦労様だね」
首にタオルを巻いてユニホームのタンクトップのトップスに膝丈の長さの短パン姿の莉子が体を思い切り動かした後の爽快感を振りまきながら輝く様な元気と共に教室に入って来た。
「うわぁ!!」
思わず悲鳴を上げる凜の姿を莉子はスポーツドリンクの入ったボトルのストローを銜えながら不思議そうな表情で視線を送る。
「何?」
「え、あ、いやその……」
「いやその?」
「う、うん、何でもないよ、急に声かけられたからちょっと驚いただけ」
「ちょっとにしては大袈裟だったぞ」
莉子はにやにや笑いを浮かべながら汗ばんだ体で凜にペトリと抱き着くと、薄手のユニホームからじんわり伝わる彼女の体温に凜は何故か狼狽する。女の子同士にしか見えないが、まだほんの少し男の子が残っている凜の心にほんのちょっとだけ炎が灯る。しかし、体は完全に女の子だから身体的な変化はそれ以上盛り上がる事は無かった。そして、今野の頼みが頭を過り、凜は勇気を振り絞って口を開く。
「あ、あのさ、莉子……」
その改まった態度を不審に思ったのか莉子は抱き着いた腕を少し緩めて凜の瞳の奥を覗き込む。
「……ん、なぁに?私の唇が欲しいの」
相変わらず大胆な莉子の発言に凜は頬を染め、莉子の頬に当たるのも構わずにぶんぶんと首を振って見せる。
「そ、そうじゃなくて」
「じゃあなぁに?」
「え、いや、その……」
凜の言葉に何か期待を膨らませる彼女の心情を冷静に分析しはじき出された結論は、今野の事を打ち明けるタイミングではないと判断して凜はそのまま莉子のされるがままになる事にした。そして気のすむまで抱き人形にされた後、二人は玄関で待ち合わせて校門を出るまでの短い二人きりのデートとなった。
「じゃぁ、また明日」
「うん、朝迎えに行くからそれまでしばしのお別れね」
「あ、あぁ……そ、そうだね」
「浮気しちゃダメよダーリン」
莉子はウィンクと同時に投げキッスを飛ばすとくるりと踵(きびす)を返し、夕暮れの帰り道を反対方向に向かって駆けて行く。その彼女の姿はまるで悪戯な妖精が魔法を使って目の前から姿を消したいな錯覚に襲われて凜は思わずはっとする、そして思うのと同時に今野に深く謝罪する。
「今野……僕、話せないかも知れない…」
そう呟くと同時にカラスの鳴き声が聞こえた様に感じたのは単なる錯覚でそれは今野に対する罪悪感から来るものかも知れなかった。
真顔の今野、その声色(こわいろ)は声変わりして間もない物だったが口調も重厚でそれなりに重要な秘め事を打ち明けられた様な気がしないでもなかったが凜は思わず爆笑してしまった。
「……冷てぇ奴だな」
そう言って再び顔を背ける今野に慌てて誤る凜だったが、爆笑してしまった事実は彼に対するアドバンテージを大幅に増やしてしまった。
「ご、ごめん、そんな意味じゃ」
「じゃぁどんな意味なんだよ」
「いや、その……え~~~」
「まぁいいよ凛、俺みたいのが恋バナなんて滑稽なことは分かってるさ」
「こ、滑稽だなんて」
「分かってんだよ小太りで運動苦手で頭もそれほど良くなくてオタクっぽくて……」
実際問題彼の着眼はあながち間違いではない。頭が悪いと、オタクっぽいと言うのは完全に否定する事項ではあるが、小太りと言う事に対しては正直完全に否定して払拭出来る人物はこの世にそれほど多くは無い筈だ。
「そんなふうに思わなくても」
「いや、そんなふうだろ、そんな俺が好きになったのが女子バスケ部のエースだなんてな」
「女子バスケ部のエース……エースって…え?」
「そう、お前と同じクラスの莉子さんだよ」
沈黙……そして今野が何を言ったのか理解した時、凜は背中を滝の様な汗が流れ落ちるのを感じた。
「……は、い?」
そして今野の熱い期待と困惑が入り混じった視線が凜に突き刺さる。切々と何かを訴えている様な彼の視線はその思いが本気で有る事を思が立っている様に感じられた。
「凛、その、頼みって言うのはだな……」
もぞもぞと話し出そうとした今野を制して凜はゆっくりと立ち上がると彼の言葉を遮る様にぽつりと一言。
「いや、言わなくても分かるよ、何が言いたいか……」
はあっと小さく溜息をつくと徐に立ち上がり、肩を落としぎみに凜はのろのろと楽器倉庫に向かう。そして愛用のユーホニアムのケースと譜面台を持ち出すと部室に戻り今野にちらっと視線を送る。そしてもう一度これ見よがしの溜息を一つ。
「……あ、のさ、凄く言いにくいんだけど」
「なんだよ凜」
「あんまり期待しないでくれよな」
「ああ、分かってるさ。男は当たって砕けるものだ」
だったら自分で告白しろよとポロリと口走りそうになったその言葉をぐっと飲み込むと、のたのたと部室を後にした。吹奏楽部の部室と言うのは少し妙なところに有って、その場所と言うのが体育館のステージ脇二階の小部屋で本来は何かの行開催時、放送機材を持ち込む場合に使う事を想定したらしいのだが全く使われる事は無く、その部分を部室として拝領したという事らしかった。
しかし、部員にはかなり不評な場所である。なにしろ簡易的に使うことを想定した空間だから暖房施設が無く、夏暑く冬は底冷えの寒に晒されることになる。全体ミーティング位にしか使用しないからまぁいいかと部員は割り切っていたりする。
★★★
いつも練習に使っている自分の教室に戻り、椅子を持ち出してそこに座って楽器をケースから取り出そうとして見た物の妙な疲労感に襲われて何だか闘気が沸いて来ない。そのままぼんやりと窓の外を眺めていたらあっという間に時間が過ぎ去り何もする事なく夕日が教室に差し込み始めてしまった。しょうがないから今日は引き上げようかと立ち上がって椅子を元に戻そうとしたその瞬間、がらりと教室のドアが開く。
「おやおや凜君、今日も練習ご苦労様だね」
首にタオルを巻いてユニホームのタンクトップのトップスに膝丈の長さの短パン姿の莉子が体を思い切り動かした後の爽快感を振りまきながら輝く様な元気と共に教室に入って来た。
「うわぁ!!」
思わず悲鳴を上げる凜の姿を莉子はスポーツドリンクの入ったボトルのストローを銜えながら不思議そうな表情で視線を送る。
「何?」
「え、あ、いやその……」
「いやその?」
「う、うん、何でもないよ、急に声かけられたからちょっと驚いただけ」
「ちょっとにしては大袈裟だったぞ」
莉子はにやにや笑いを浮かべながら汗ばんだ体で凜にペトリと抱き着くと、薄手のユニホームからじんわり伝わる彼女の体温に凜は何故か狼狽する。女の子同士にしか見えないが、まだほんの少し男の子が残っている凜の心にほんのちょっとだけ炎が灯る。しかし、体は完全に女の子だから身体的な変化はそれ以上盛り上がる事は無かった。そして、今野の頼みが頭を過り、凜は勇気を振り絞って口を開く。
「あ、あのさ、莉子……」
その改まった態度を不審に思ったのか莉子は抱き着いた腕を少し緩めて凜の瞳の奥を覗き込む。
「……ん、なぁに?私の唇が欲しいの」
相変わらず大胆な莉子の発言に凜は頬を染め、莉子の頬に当たるのも構わずにぶんぶんと首を振って見せる。
「そ、そうじゃなくて」
「じゃあなぁに?」
「え、いや、その……」
凜の言葉に何か期待を膨らませる彼女の心情を冷静に分析しはじき出された結論は、今野の事を打ち明けるタイミングではないと判断して凜はそのまま莉子のされるがままになる事にした。そして気のすむまで抱き人形にされた後、二人は玄関で待ち合わせて校門を出るまでの短い二人きりのデートとなった。
「じゃぁ、また明日」
「うん、朝迎えに行くからそれまでしばしのお別れね」
「あ、あぁ……そ、そうだね」
「浮気しちゃダメよダーリン」
莉子はウィンクと同時に投げキッスを飛ばすとくるりと踵(きびす)を返し、夕暮れの帰り道を反対方向に向かって駆けて行く。その彼女の姿はまるで悪戯な妖精が魔法を使って目の前から姿を消したいな錯覚に襲われて凜は思わずはっとする、そして思うのと同時に今野に深く謝罪する。
「今野……僕、話せないかも知れない…」
そう呟くと同時にカラスの鳴き声が聞こえた様に感じたのは単なる錯覚でそれは今野に対する罪悪感から来るものかも知れなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる