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愛・響き合う
21.愛する人達に贈る言葉
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警察官の後ろから現れたのは莉子と今野だった。
「それにしてもみんな冷たいね、小さい女の子二人が絡まれてるのに誰も助けてくれないなんてさ」
莉子は威圧的な視線で周りをぐるりと見渡すと、遠巻きに様子を伺っていた数人の大人がこそこそと退散する姿が見えた。
「ったく」
苦々しく舌打ちでもしそうな表情を浮かべる莉子の目に映る大人たちの姿はさっきの少年とあまり変わりなく映ったかもしれない。ひとまず事態は収束したと判断した警察官二人は四人に向けて敬礼するとその場を立ち去って行った。そして彼等が向かったのは少年達が立ち去った方向で、彼らが再び何か騒ぎを起こすと踏んだ上での行動だった。
「莉子が警察の人呼んでくれたの?」
「うん、そうよ。なんかヤバそうだったからさ」
「なんかここ最近、お世話になってばかりだね」
「あらあら、お礼は出世払いで良いわよ」
凛と莉子の間に発生する一瞬の沈黙……
「お、お金取るの?」
「あったりまえじゃない、私は無償の愛なんて持ち合わせてないからさ」
「え~~~!!」
困り顔の凛をしり目に何かを突然思い出した様に突然莉子は凛の左手を取りその手の甲を凛に向ける。そして、彼女に目に光り輝いて映るのはクリスマスコンサートの後に麻耶が紗久良に渡した紗久良とお揃いの婚約指輪。
「勿論、この指輪の代金もね」
「へ?」
「これまさかタダだと思ったりしてないわよね」
「ち、違うの……かな…」
引き攣る凛の顔を覗き込む様にして莉子はぼそぼそと呟き始める。
「これね、麻耶が親戚のジュエリーデザイナーさんに無理やり頼み込んで作って貰った一点物なのよ。しかもそのデザイナーさんって言う人が業界で結構有名な人らしくてねぇ……」
そこまで聞いて凛は背筋がバキバキと音を立てて凍って行く感覚に襲われた。そこに莉子がにやりと氷のような笑みを湛えてとどめの一言を見舞う。
「二百五十万円だって。これでもかなり値引きしてくれたらしいわよ」
その呟きに凛の気はふんわりと貧血でも起こした様に遠のいて行く。しかし、その後に続いたのは莉子のくすくす笑いだった。
「噓噓、冗談よ。凛君てばホントに分かり易い性格してるんだから」
凛はその場に倒れ込みそうになるのをすんでのところで持ち応えることが出来た。
★★★
初詣を済ませた四人はその後の行き場を探して近所の商店街まで出て来た。正月の商店街は初売りで盛り上がっているお店も有る事は有ったのだが三箇日(さんがにち)は休みと言うところが多く、長居出来そうなのは結局ファストフードのチェーン店だった。
「しかし……ほんっとに可愛くなっちまったな、凛」
「な、なんだよ急に」
正面に座り、ストロベリーシェイクを右手に持ったまましみじみとした今野の呟きに凛は思わず頬を染める。
「だってよ、子供の頃一緒に釣り禁止の池でこそこそ魚釣りしてた友達が振り袖姿で目の前に現れると思うか?」
「……い、いや、絶対に無いとは」
「まぁ、そうでは有るが……なぁ凛」
「ん?」
突然かなり改まった表情と少し心配そうな口調で話し始める今野に凛は穏やかな眉と軽く開いた口元を見せる。
「お前の選択って、かなりつらい選択じゃないのか?」
「え、どうして……」
「俺なぁ、ちょっと後悔してるんだ」
「後悔って、何を?」
「今回の計画を実行しちまった事をさ」
「え……」
穏やかな眉が『後悔』と言う言葉に固さを帯びて行く。それを見ながら今野はクリスマスコンサートで行われた凛のプロポーズが全て自分の作り上げたシナリオで、莉子と麻耶も、そして吹奏楽部全員ひっくるめての計画で有る事を告げた。
「俺と莉子さんの事とか、麻耶と佐藤先輩の事とか、有ったから……そんで、紗久良さんが外国に行っちまうって言う事も聞いて、このままで終わらせちゃいけないんじゃないかって持ったんだが」
そこまで聞いて凛の眉尻がピクリと動く。
「……だが?」
「ん、ああ、やっぱりこんな無理矢理なやり方じゃなくて余計な事はしないで自然の流れに任せた方が良かったんじゃないかって思ってな」
テーブルに置かれたチョコレートシェイクのカップを凛は持ち上げて伏し目がちの面差しで刺さっているストローに口をつけて少しだけ啜ってから再び今野に視線を向け小さく口を開く。
「どうして、そう思うの?」
「だってよぉ、凛と紗久良さんって、ちゃんと考えれば、その、女の子同士……だろ…」
凛は黙ったままだった。そしてその視線は一直線に今野を見詰める
「今のところだけど、それってあんまり一般的じゃぁ……ないだろ、だからその、やっぱ、余計な事したのかなって……思って…」
言葉の語尾がごにょごにょと消えそれに合わせるかのようにすまなそうに肩を竦め背中が丸まって行く。しかしそれとは逆に凛の表情は輝き始める。
「今野、やっぱりお前、最高の友達だよ」
「え?」
「それに、僕はまだ戸籍上は男子だから紗久良との関係は普通の事なんだよ。だから男同士の友情も継続中」
凛はそう言ってからにかっと笑って見せた。それから横に座っている紗久良と視線を絡ませてから二人で柔らかな笑顔を見せる。
「僕ね、みんなの事が大好きだよ。紗久良に叱られるかもしれないけど、それってひょっとしたら愛してるって言う思いに近いのかも知れない」
凛の言葉に今野は惚けて少し間抜けな表情を晒し、隣の莉子はそれを横目でちらちらと見ながら大笑いしたいのを必死で耐えて何とかくすくす笑いに留めた。
「……凛」
「今野……ううん、僕が大好きなみんなにあらためて言うよ……ホントに、ありがとう」
今野の瞳がじんわりと潤み大きな雫がぽとりと零れた。それは彼が初めて体験する男泣きだった。そして心の底から願う、この二人が一生涯、病める時も健やかなる時も途切れる事無く幸せでありますようにと。
「それにしてもみんな冷たいね、小さい女の子二人が絡まれてるのに誰も助けてくれないなんてさ」
莉子は威圧的な視線で周りをぐるりと見渡すと、遠巻きに様子を伺っていた数人の大人がこそこそと退散する姿が見えた。
「ったく」
苦々しく舌打ちでもしそうな表情を浮かべる莉子の目に映る大人たちの姿はさっきの少年とあまり変わりなく映ったかもしれない。ひとまず事態は収束したと判断した警察官二人は四人に向けて敬礼するとその場を立ち去って行った。そして彼等が向かったのは少年達が立ち去った方向で、彼らが再び何か騒ぎを起こすと踏んだ上での行動だった。
「莉子が警察の人呼んでくれたの?」
「うん、そうよ。なんかヤバそうだったからさ」
「なんかここ最近、お世話になってばかりだね」
「あらあら、お礼は出世払いで良いわよ」
凛と莉子の間に発生する一瞬の沈黙……
「お、お金取るの?」
「あったりまえじゃない、私は無償の愛なんて持ち合わせてないからさ」
「え~~~!!」
困り顔の凛をしり目に何かを突然思い出した様に突然莉子は凛の左手を取りその手の甲を凛に向ける。そして、彼女に目に光り輝いて映るのはクリスマスコンサートの後に麻耶が紗久良に渡した紗久良とお揃いの婚約指輪。
「勿論、この指輪の代金もね」
「へ?」
「これまさかタダだと思ったりしてないわよね」
「ち、違うの……かな…」
引き攣る凛の顔を覗き込む様にして莉子はぼそぼそと呟き始める。
「これね、麻耶が親戚のジュエリーデザイナーさんに無理やり頼み込んで作って貰った一点物なのよ。しかもそのデザイナーさんって言う人が業界で結構有名な人らしくてねぇ……」
そこまで聞いて凛は背筋がバキバキと音を立てて凍って行く感覚に襲われた。そこに莉子がにやりと氷のような笑みを湛えてとどめの一言を見舞う。
「二百五十万円だって。これでもかなり値引きしてくれたらしいわよ」
その呟きに凛の気はふんわりと貧血でも起こした様に遠のいて行く。しかし、その後に続いたのは莉子のくすくす笑いだった。
「噓噓、冗談よ。凛君てばホントに分かり易い性格してるんだから」
凛はその場に倒れ込みそうになるのをすんでのところで持ち応えることが出来た。
★★★
初詣を済ませた四人はその後の行き場を探して近所の商店街まで出て来た。正月の商店街は初売りで盛り上がっているお店も有る事は有ったのだが三箇日(さんがにち)は休みと言うところが多く、長居出来そうなのは結局ファストフードのチェーン店だった。
「しかし……ほんっとに可愛くなっちまったな、凛」
「な、なんだよ急に」
正面に座り、ストロベリーシェイクを右手に持ったまましみじみとした今野の呟きに凛は思わず頬を染める。
「だってよ、子供の頃一緒に釣り禁止の池でこそこそ魚釣りしてた友達が振り袖姿で目の前に現れると思うか?」
「……い、いや、絶対に無いとは」
「まぁ、そうでは有るが……なぁ凛」
「ん?」
突然かなり改まった表情と少し心配そうな口調で話し始める今野に凛は穏やかな眉と軽く開いた口元を見せる。
「お前の選択って、かなりつらい選択じゃないのか?」
「え、どうして……」
「俺なぁ、ちょっと後悔してるんだ」
「後悔って、何を?」
「今回の計画を実行しちまった事をさ」
「え……」
穏やかな眉が『後悔』と言う言葉に固さを帯びて行く。それを見ながら今野はクリスマスコンサートで行われた凛のプロポーズが全て自分の作り上げたシナリオで、莉子と麻耶も、そして吹奏楽部全員ひっくるめての計画で有る事を告げた。
「俺と莉子さんの事とか、麻耶と佐藤先輩の事とか、有ったから……そんで、紗久良さんが外国に行っちまうって言う事も聞いて、このままで終わらせちゃいけないんじゃないかって持ったんだが」
そこまで聞いて凛の眉尻がピクリと動く。
「……だが?」
「ん、ああ、やっぱりこんな無理矢理なやり方じゃなくて余計な事はしないで自然の流れに任せた方が良かったんじゃないかって思ってな」
テーブルに置かれたチョコレートシェイクのカップを凛は持ち上げて伏し目がちの面差しで刺さっているストローに口をつけて少しだけ啜ってから再び今野に視線を向け小さく口を開く。
「どうして、そう思うの?」
「だってよぉ、凛と紗久良さんって、ちゃんと考えれば、その、女の子同士……だろ…」
凛は黙ったままだった。そしてその視線は一直線に今野を見詰める
「今のところだけど、それってあんまり一般的じゃぁ……ないだろ、だからその、やっぱ、余計な事したのかなって……思って…」
言葉の語尾がごにょごにょと消えそれに合わせるかのようにすまなそうに肩を竦め背中が丸まって行く。しかしそれとは逆に凛の表情は輝き始める。
「今野、やっぱりお前、最高の友達だよ」
「え?」
「それに、僕はまだ戸籍上は男子だから紗久良との関係は普通の事なんだよ。だから男同士の友情も継続中」
凛はそう言ってからにかっと笑って見せた。それから横に座っている紗久良と視線を絡ませてから二人で柔らかな笑顔を見せる。
「僕ね、みんなの事が大好きだよ。紗久良に叱られるかもしれないけど、それってひょっとしたら愛してるって言う思いに近いのかも知れない」
凛の言葉に今野は惚けて少し間抜けな表情を晒し、隣の莉子はそれを横目でちらちらと見ながら大笑いしたいのを必死で耐えて何とかくすくす笑いに留めた。
「……凛」
「今野……ううん、僕が大好きなみんなにあらためて言うよ……ホントに、ありがとう」
今野の瞳がじんわりと潤み大きな雫がぽとりと零れた。それは彼が初めて体験する男泣きだった。そして心の底から願う、この二人が一生涯、病める時も健やかなる時も途切れる事無く幸せでありますようにと。
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