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4.四葉の君と王子様
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昔から可愛いもの、きれいなものが好きだった。
自分がそうなりたい憧れがあるわけではない。
ビーズやぬいぐるみ、小動物に可愛いこ。
そういったものを慈しむことにこの上ない喜びを感じる。
通勤ラッシュの電車の中、左半身にのしかかる重みに愛おしさを感じるのはそういった気持がずっと昔からあるからだ。
さらさらと滑らかな絹のような感触が私の首元に触れる。
朝焼けの空のような淡いピンクに染められた髪から覗く肌は白く抜けて、長い│睫毛《まつげ》が│縁《ふち》取る│目蓋《まぶた》を開けば美しいヘーゼルが│覗《のぞ》く。
まだ眠たそうに潤んだ目をゆっくりと瞬かせる様は、まるでおとぎ話に出てくるエルフのお姫様のようだ。
(まあ想定外にビッグサイズお姫さまではある)
私は駅からずっと肩口にもたれている相手の頭をぽんぽんと叩く。
「ほら、│希望《のぞみ》もう起きな、学校つく」
「…もちょっと待って│光《ひかり》」
首元にぐりぐりと頭をすり寄せる相手は昔は愛らしいお姫様のようだったが、今や百八十を超える長身の男子高校生だ。
女としてはかなり長身の自分も似たような背の高さだが、未だに彼の背は伸び続けているのだから最近は抜かれつつある。
肩口の大きなお姫様、│白咲希望《しろさきのぞみ》はその愛らしさと元来のぽやぽやとした性格から、幼少の頃は回りの男子にちょっかいをだされては泣いていた。
当時から同学年内でかなり背が高かった私は、よく希望を背に庇って相手の男子を文字通りはり倒していた。
それから希望は私から離れなくなり、こちらとしてもお姫様のように愛らしい希望に懐かれるのはまんざらでもなかった。
以来、愛らしさを残しつつも美しく大きく成長した希望を未だに甘やかしてしまっている。
「階段はさすがに支えらんないから、下駄箱着いたらちゃんとして」
「ん~」
私の腰に腕を回して抱き込む形でバランスをとる相手は、曖昧に返事をした。
いくら身長は近くとも、このビッグプリンセスは細い割に最近やたらと重くなった。
希望を起こしてなんとか教室に辿り着くと、席に着くなりまた寝始めた。
ため息を吐いてその前にある自席へと腰をおろした。
「おーじおつ。朝から顔疲れてんねぇ」
「おはよ、│梅《うめ》」
隣席の友人に声をかけられ、そのまま挨拶を返す。
『おーじ』とは私の名字である│若王子《わかおうじ》からのあだ名だ。
「廊下のざわめきすごいと思ったら、今日の姫はいつも以上におーじにべったりだったじゃん」
「もうおーじ呼びはきついよ……最近の姫重くなってきて支えらんないもん」
「眠り姫だもんね、寝る子は育つから」
後ろの席をちらりと振り返れば、机が小さく感じるくらいに大きく育った大事な姫がすやすやと眠っている。
その頭をふわふわと撫でると無意識にか、頭をこちらの手に擦り寄せてきた。
毛並みの良いラグドールやメインクーンのような大型猫みたいで可愛い。
「昔はほんとに│華奢《きゃしゃ》で可愛かったんだけど、こんなに大きくなっちゃって……今も可愛いけど」
「まあでもその目の保養を喜んでる層は多いから」
シャッター音が聞こえ、スマホをいじる友人の手元を見てため息を吐いた。
そこに表示されたSNS画面には、今しがた私が希望の頭をなでている姿が写っていた。
いいね数がものの数秒ですでに三桁になっていた。
「いいかげん肖像権を主張したいのと、盗撮を本人目の前にして行えるメンタルについて話し合いたい」
「ほんと受けがいいんだよね。『姫とおーじ』タグがそのままあだ名になっちゃったからね。光って男性アイドル系の顔してるし、麗しい男子二人の絡みはワールドワイドに推す│嗜好家《しこうか》達が存在する」
「私は生物学上女ですが」
「そうだとしてもこの数十万人のフォロワーには王子なわけ。男性アイドル同士の戯れに癒されたい的な感情わかる?」
白に近い金と毛先をこげ茶のグラデにしたツインテールを揺らしながら、梅はにんまりと笑った。
くっきりとしたアーモンドアイが愛らしいシャム猫のようで、かなりの迷惑行為なのに結局許せてしまう。
なぜなら可愛いからだ。
自分がルッキズムの│権化《ごんげ》過ぎる。
「論点をずらす世界大会あったらいいとこまでいけると思う」
そのまま目頭をぐっと押さえる。
希望を支えて階段を登り、梅に盗撮写真をSNSにアップされて抗議をしたら心身共に朝から相当疲れてしまった。
すると、梅はちらりと希望を│一瞥《いちべつ》してから私の耳もとに顔を寄せ囁いた。
「大丈夫なわけ?」
「……何が」
そう聞き返せば、梅は少しむっとした様子だった。
「白咲はそりゃおーじからしたら未だ可愛いお姫様かもしんないけどさ。年頃の男にあんなに好きに触らせてお姉さん心配なわけ」
「いや確かにでかいけどね?でも、中身は変わらず純粋に甘えたな昔のままなんだよ」
「おいこら、この面食いお花畑過保護こっち向け」
不機嫌そうな梅に片手で頬を下から掴まれ、目を合わされる。
それにしても酷い言われようだ。
「こっちはけっこうマジに心配して言ってんの」
「え、え、ちっか」
「そうだ、君の好きな私の顔が気を付けろって言ってんだから言う事ききな」
「ウゥッ……顔がいいなくそぅ……」
自分好みの顔にやられつつ大丈夫だと言おうとすれば、梅との間に手が割って入り私の首にまきついた。
「何?俺の悪口?」
「あ、起きた?」
ふんわりとした口調の希望の言葉に、その手をぽんぽんと叩いて返事をする。
希望が寝起きの半眼で梅の方を見た。
「光に何吹き込んだの│宰川《あずさがわ》、囁き女将なの?」
「頭が真っ白に…」
梅と希望がローテンションで互いに指を指しあった。
それそれ、とお互いに頷いている。
「えなになに今のやり取り?」
意味のわからなさに困惑するが、この二人の間では共通の話題のようだ。
「知らない?古からの伝説の記者会見」
「逆になんで知ってるのそんなの??」
「俺ら生まれる前か幼児だから知らなくてもしょうがないね」
「おーじにも動画を送ってあげよう、基本のキだぞ」
ネットミームや不謹慎ネタなど変なところでこの二人は気が合うそうだ。
仲が良いという感じがないのにダチ感がある不思議な関係性だ。
同じクラスで毎日会うのにお互い「ネット友達」というのでより一層わからない。
「宰川、光に変なこと言うのやめて」
「はいはいごめんて、つるかめつるかめ」
「梅のそれ、おばあちゃんとかが使う謎の厄よけ呪文すぎる」
「用法としてはあってるって。眠れる姫の怒りはおさめないと」
その言葉におや、と思い
「え、希望怒ってるの?」
「怒ってないよ」
「梅、希望怒ってないって」
「なにこの会話、かわいいから動画取っときゃよかったわ」
またSNSの肥やしにされそうになったので抗議しようとすれば、まあまあと梅に受け流された。
「今日の日にち的に光は一限あたるかもよ」との梅の言葉に自分の出席番号と同じ黒板の日付に気づいて、私は慌てて教科書の準備をした。
自分がそうなりたい憧れがあるわけではない。
ビーズやぬいぐるみ、小動物に可愛いこ。
そういったものを慈しむことにこの上ない喜びを感じる。
通勤ラッシュの電車の中、左半身にのしかかる重みに愛おしさを感じるのはそういった気持がずっと昔からあるからだ。
さらさらと滑らかな絹のような感触が私の首元に触れる。
朝焼けの空のような淡いピンクに染められた髪から覗く肌は白く抜けて、長い│睫毛《まつげ》が│縁《ふち》取る│目蓋《まぶた》を開けば美しいヘーゼルが│覗《のぞ》く。
まだ眠たそうに潤んだ目をゆっくりと瞬かせる様は、まるでおとぎ話に出てくるエルフのお姫様のようだ。
(まあ想定外にビッグサイズお姫さまではある)
私は駅からずっと肩口にもたれている相手の頭をぽんぽんと叩く。
「ほら、│希望《のぞみ》もう起きな、学校つく」
「…もちょっと待って│光《ひかり》」
首元にぐりぐりと頭をすり寄せる相手は昔は愛らしいお姫様のようだったが、今や百八十を超える長身の男子高校生だ。
女としてはかなり長身の自分も似たような背の高さだが、未だに彼の背は伸び続けているのだから最近は抜かれつつある。
肩口の大きなお姫様、│白咲希望《しろさきのぞみ》はその愛らしさと元来のぽやぽやとした性格から、幼少の頃は回りの男子にちょっかいをだされては泣いていた。
当時から同学年内でかなり背が高かった私は、よく希望を背に庇って相手の男子を文字通りはり倒していた。
それから希望は私から離れなくなり、こちらとしてもお姫様のように愛らしい希望に懐かれるのはまんざらでもなかった。
以来、愛らしさを残しつつも美しく大きく成長した希望を未だに甘やかしてしまっている。
「階段はさすがに支えらんないから、下駄箱着いたらちゃんとして」
「ん~」
私の腰に腕を回して抱き込む形でバランスをとる相手は、曖昧に返事をした。
いくら身長は近くとも、このビッグプリンセスは細い割に最近やたらと重くなった。
希望を起こしてなんとか教室に辿り着くと、席に着くなりまた寝始めた。
ため息を吐いてその前にある自席へと腰をおろした。
「おーじおつ。朝から顔疲れてんねぇ」
「おはよ、│梅《うめ》」
隣席の友人に声をかけられ、そのまま挨拶を返す。
『おーじ』とは私の名字である│若王子《わかおうじ》からのあだ名だ。
「廊下のざわめきすごいと思ったら、今日の姫はいつも以上におーじにべったりだったじゃん」
「もうおーじ呼びはきついよ……最近の姫重くなってきて支えらんないもん」
「眠り姫だもんね、寝る子は育つから」
後ろの席をちらりと振り返れば、机が小さく感じるくらいに大きく育った大事な姫がすやすやと眠っている。
その頭をふわふわと撫でると無意識にか、頭をこちらの手に擦り寄せてきた。
毛並みの良いラグドールやメインクーンのような大型猫みたいで可愛い。
「昔はほんとに│華奢《きゃしゃ》で可愛かったんだけど、こんなに大きくなっちゃって……今も可愛いけど」
「まあでもその目の保養を喜んでる層は多いから」
シャッター音が聞こえ、スマホをいじる友人の手元を見てため息を吐いた。
そこに表示されたSNS画面には、今しがた私が希望の頭をなでている姿が写っていた。
いいね数がものの数秒ですでに三桁になっていた。
「いいかげん肖像権を主張したいのと、盗撮を本人目の前にして行えるメンタルについて話し合いたい」
「ほんと受けがいいんだよね。『姫とおーじ』タグがそのままあだ名になっちゃったからね。光って男性アイドル系の顔してるし、麗しい男子二人の絡みはワールドワイドに推す│嗜好家《しこうか》達が存在する」
「私は生物学上女ですが」
「そうだとしてもこの数十万人のフォロワーには王子なわけ。男性アイドル同士の戯れに癒されたい的な感情わかる?」
白に近い金と毛先をこげ茶のグラデにしたツインテールを揺らしながら、梅はにんまりと笑った。
くっきりとしたアーモンドアイが愛らしいシャム猫のようで、かなりの迷惑行為なのに結局許せてしまう。
なぜなら可愛いからだ。
自分がルッキズムの│権化《ごんげ》過ぎる。
「論点をずらす世界大会あったらいいとこまでいけると思う」
そのまま目頭をぐっと押さえる。
希望を支えて階段を登り、梅に盗撮写真をSNSにアップされて抗議をしたら心身共に朝から相当疲れてしまった。
すると、梅はちらりと希望を│一瞥《いちべつ》してから私の耳もとに顔を寄せ囁いた。
「大丈夫なわけ?」
「……何が」
そう聞き返せば、梅は少しむっとした様子だった。
「白咲はそりゃおーじからしたら未だ可愛いお姫様かもしんないけどさ。年頃の男にあんなに好きに触らせてお姉さん心配なわけ」
「いや確かにでかいけどね?でも、中身は変わらず純粋に甘えたな昔のままなんだよ」
「おいこら、この面食いお花畑過保護こっち向け」
不機嫌そうな梅に片手で頬を下から掴まれ、目を合わされる。
それにしても酷い言われようだ。
「こっちはけっこうマジに心配して言ってんの」
「え、え、ちっか」
「そうだ、君の好きな私の顔が気を付けろって言ってんだから言う事ききな」
「ウゥッ……顔がいいなくそぅ……」
自分好みの顔にやられつつ大丈夫だと言おうとすれば、梅との間に手が割って入り私の首にまきついた。
「何?俺の悪口?」
「あ、起きた?」
ふんわりとした口調の希望の言葉に、その手をぽんぽんと叩いて返事をする。
希望が寝起きの半眼で梅の方を見た。
「光に何吹き込んだの│宰川《あずさがわ》、囁き女将なの?」
「頭が真っ白に…」
梅と希望がローテンションで互いに指を指しあった。
それそれ、とお互いに頷いている。
「えなになに今のやり取り?」
意味のわからなさに困惑するが、この二人の間では共通の話題のようだ。
「知らない?古からの伝説の記者会見」
「逆になんで知ってるのそんなの??」
「俺ら生まれる前か幼児だから知らなくてもしょうがないね」
「おーじにも動画を送ってあげよう、基本のキだぞ」
ネットミームや不謹慎ネタなど変なところでこの二人は気が合うそうだ。
仲が良いという感じがないのにダチ感がある不思議な関係性だ。
同じクラスで毎日会うのにお互い「ネット友達」というのでより一層わからない。
「宰川、光に変なこと言うのやめて」
「はいはいごめんて、つるかめつるかめ」
「梅のそれ、おばあちゃんとかが使う謎の厄よけ呪文すぎる」
「用法としてはあってるって。眠れる姫の怒りはおさめないと」
その言葉におや、と思い
「え、希望怒ってるの?」
「怒ってないよ」
「梅、希望怒ってないって」
「なにこの会話、かわいいから動画取っときゃよかったわ」
またSNSの肥やしにされそうになったので抗議しようとすれば、まあまあと梅に受け流された。
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