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4.四葉の君と王子様
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「俺がこれ取っても意味なかったね」
希望が手にしていた濃紺の装丁の本を棚へ戻しながら口を尖らせた。
割と厚さがある大きなサイズのハードカバーの本だが、片手で難なくヒョイッと元の場所に置いている。
思っていたよりも希望の指は長く大きな手をしていた。
「いや、でも下から見るとこの本黒く見えるから、あの子は取ろうとしてたんだと思うよ」
背表紙は栞を挟んでた本に似てるし、としゃがんで本棚を下から眺めると、上から不服そうな顔が覗き込んできた。
「だって結局光が手渡すことになった」
その相手の様子にはっとする。
「あ、ごめん、邪魔して」
「…どういう意味?」
「えっ、可愛い子だったし…」
小柄で眉はキリッとしていて目が大きく、ちょっと前にみたCGアニメ映画の女の子に似ていた。
ゲームの世界の中で小さな女の子たちがカーレースをするやつだ。
「可愛いねぇ……光って小柄な子好きだよね」
今までになく低い声を出されて身構えてしまった。
本当に邪魔をしてしまったのかもしれない。
希望はしまったという顔をして、顔を俯かせ私の指先をそっと握った。
「……とれなかった本取ってもらって手渡されてたら、あの子が光のこと好きになっちゃったらどうするの」
「……はあぁ?」
今度はこちらが脱力して聞き返した。
「何言ってるの」
「だって光、中学のとき女の子から十回以上告白されてたし、去年も二回そういうことあったでしょ」
「いやまあ、そうだけど…」
「今だってあんな風に王子様みたいな人に優しく探しもの手渡されたら、好きになっちゃうよ」
「でも初対面だし、そんな簡単に」
「一瞬で恋に落ちるから一目惚れって言うんだよ」
告白されることはそこそこあるので、それなりに自分は好かれやすいんだろうとは思っていた。
それでも自分の行動がそこまで強く人に影響を与えてるとまでは自覚がなかった。
少し行動を改めなければいけないかもしれない。
「うーん…そっか、気をつける」
「俺はその度、断る毎に相手の子が泣いちゃったりして光が傷ついてるの、やだから」
そう言う希望の様子はなんだかぎごちない。
どこか繕った様な態度は、本当に私を心配しての事もあるだろうが、私が聞いたことが図星だったからかもしれない。
それでももうあまり触れてくれるなといった雰囲気に、心配してくれてありがとねとその握る手を握り返して帰ろうと促した。
図書室の静けさが妙に居心地悪く感じ、いつもより埃《ほこり》っぽい匂いが鼻についた。
***
バンっという肉体にボールが当たっただけとは思えないような暴力的な音が体育館に響く。
四限の体育は女子は体育館でバレー、男子は秋口とはいえまだ熱い運動場でサッカーをしている。
希望の白い肌が焼けてまた赤くなってしまっては可哀想だと考えて、ああまただと首を振る。
あれからなんとも言えない寂しさが胸のすみに留まっている。
(希望の恋の始まりを邪魔してしまったかもしれない。好みの女子くらいいるよねそりゃもう十七だしさ)
図書室で小柄な女子生徒と並んだ姿を思い返す。
そう、まるで王子様が愛らしい町娘と出会うおとぎ話冒頭のワンシーンのような姿で――
「おーじ!おい光!!」
「え」
呼ばれた名前に反応すれば頭上にボールが落ちて来ていた。
とっさにオーバーハンドを構えたはいいが、そのままボールを受け止めてしまい、慌てて上げなおす。
ピーと試合終了の笛が鳴り、辺りが爆笑で包まれた。
「最高だわ…いやほんと、取っちゃってるのになんで何食わぬ顔で上げんの」
「もうやだ倒れそう恥ずかしさが死因になる」
涙を浮かべて笑いながら、梅が私の背中を叩いてコートを共に出た。
入れ替わりに入ってくる同じクラスのこたちが笑いながらハイタッチを求めてくるのに応じ、苦笑いを浮かべる。
そのまま次のグループの試合を見るため、コートと平行にある舞台の渕に腰掛けた。
「イケメンがドジッてんのスタイルと面がいい分めちゃおもろいな」
「やめてよぉ、今本当に恥ずかしいんだよぉ」
「ハシビロコウぐらい無で立ってたなまじで。で?どした最近」
「どしたって……私もよくわかんないんだけど」
図書室の出来事と希望の恋の始まりを邪魔してしまったかもしれないこと、長く一緒にいて見たことの無い一面に少し戸惑っているしさみしく思ってしまっていることなど話せば、梅は半目でこちらをみた。
「は?何結局、白咲の成長と変化に今更戸惑ってんの?」
「いや、まあ今までそういうの感じたこと無かったっていうか。希望だってもう十七だしそりゃ恋をしたっておかしくないよ。わかってるけど慣れないっていうか、そもそも私の存在が結構邪魔になったりしないか?とかも思うと…」
「思うと?」
「なんか、さみしくて」
隣で梅がわざとらしく大きなため息を吐いた。
目頭を抑え、組んだ足を小刻みに揺らしている。
「まじか……まじか、なんの自覚もないのか」
「だから、希望の邪魔になっても悪いし、自分の振る舞いには今後気をつけようと思ってるよ」
「うわ、違う、根本的に、違いすぎる、ええこわ…まっすぐきれいに育ちすぎてこじらせちゃってる」
梅が元の目頭を抑えた格好のまま状態を反らせた。
後ろに倒れそうで背中を支えれば、低い猫の威嚇のような声を上げた後反動をつけて起き上がりずいっと顔をこちらに寄せた。
「え、なに可愛い」
「うるせぇ面食いイケメン、いいから聞きな」
「ハイ」
梅はふん、と鼻を鳴らすと口を開いた。
「その姫へのさみしい感情、親戚感覚とか思ってる?」
「どうだろ、近い気もするけど」
「そこはちゃんとどんな感情がもとでさみしくなったのか考えな」
真剣な声に、こちらもきゅっと唇を引き締めた。
「どんなって…」
梅がすっとこちらを指差す。
「少なくとも、人間関係にほぼ興味のない人間である私からみても、白咲が一番好意を抱いてるのはあんたに見えるよ」
「それは、小さい頃から一番仲がいいし」
「だから、この情報を聞いておーじはどう思うかって話だよってかもうめんどくさいわ!そんなに気になるなら直接白咲に好みの女子についてきけ!!爆発するぞあいつ」
話の途中から荒れた様子で梅は、はっと息を吐いた。
指差していた手でそのまま鼻を摘まれ、左右に揺さぶられる。
「いたた、痛いて!短気!」
「短気の人間に望みの答えを言わない方が悪い、はい解散!」
丁度昼休みを告げるチャイムが鳴った。
鼻を摩りながらジト目で見れば、容赦なく写真を撮られた。
体育の授業までスマホを持って来るなんて、本当に良い神経をしている。
それでも梅に話したおかげで、心は随分軽くなっていた。
希望が手にしていた濃紺の装丁の本を棚へ戻しながら口を尖らせた。
割と厚さがある大きなサイズのハードカバーの本だが、片手で難なくヒョイッと元の場所に置いている。
思っていたよりも希望の指は長く大きな手をしていた。
「いや、でも下から見るとこの本黒く見えるから、あの子は取ろうとしてたんだと思うよ」
背表紙は栞を挟んでた本に似てるし、としゃがんで本棚を下から眺めると、上から不服そうな顔が覗き込んできた。
「だって結局光が手渡すことになった」
その相手の様子にはっとする。
「あ、ごめん、邪魔して」
「…どういう意味?」
「えっ、可愛い子だったし…」
小柄で眉はキリッとしていて目が大きく、ちょっと前にみたCGアニメ映画の女の子に似ていた。
ゲームの世界の中で小さな女の子たちがカーレースをするやつだ。
「可愛いねぇ……光って小柄な子好きだよね」
今までになく低い声を出されて身構えてしまった。
本当に邪魔をしてしまったのかもしれない。
希望はしまったという顔をして、顔を俯かせ私の指先をそっと握った。
「……とれなかった本取ってもらって手渡されてたら、あの子が光のこと好きになっちゃったらどうするの」
「……はあぁ?」
今度はこちらが脱力して聞き返した。
「何言ってるの」
「だって光、中学のとき女の子から十回以上告白されてたし、去年も二回そういうことあったでしょ」
「いやまあ、そうだけど…」
「今だってあんな風に王子様みたいな人に優しく探しもの手渡されたら、好きになっちゃうよ」
「でも初対面だし、そんな簡単に」
「一瞬で恋に落ちるから一目惚れって言うんだよ」
告白されることはそこそこあるので、それなりに自分は好かれやすいんだろうとは思っていた。
それでも自分の行動がそこまで強く人に影響を与えてるとまでは自覚がなかった。
少し行動を改めなければいけないかもしれない。
「うーん…そっか、気をつける」
「俺はその度、断る毎に相手の子が泣いちゃったりして光が傷ついてるの、やだから」
そう言う希望の様子はなんだかぎごちない。
どこか繕った様な態度は、本当に私を心配しての事もあるだろうが、私が聞いたことが図星だったからかもしれない。
それでももうあまり触れてくれるなといった雰囲気に、心配してくれてありがとねとその握る手を握り返して帰ろうと促した。
図書室の静けさが妙に居心地悪く感じ、いつもより埃《ほこり》っぽい匂いが鼻についた。
***
バンっという肉体にボールが当たっただけとは思えないような暴力的な音が体育館に響く。
四限の体育は女子は体育館でバレー、男子は秋口とはいえまだ熱い運動場でサッカーをしている。
希望の白い肌が焼けてまた赤くなってしまっては可哀想だと考えて、ああまただと首を振る。
あれからなんとも言えない寂しさが胸のすみに留まっている。
(希望の恋の始まりを邪魔してしまったかもしれない。好みの女子くらいいるよねそりゃもう十七だしさ)
図書室で小柄な女子生徒と並んだ姿を思い返す。
そう、まるで王子様が愛らしい町娘と出会うおとぎ話冒頭のワンシーンのような姿で――
「おーじ!おい光!!」
「え」
呼ばれた名前に反応すれば頭上にボールが落ちて来ていた。
とっさにオーバーハンドを構えたはいいが、そのままボールを受け止めてしまい、慌てて上げなおす。
ピーと試合終了の笛が鳴り、辺りが爆笑で包まれた。
「最高だわ…いやほんと、取っちゃってるのになんで何食わぬ顔で上げんの」
「もうやだ倒れそう恥ずかしさが死因になる」
涙を浮かべて笑いながら、梅が私の背中を叩いてコートを共に出た。
入れ替わりに入ってくる同じクラスのこたちが笑いながらハイタッチを求めてくるのに応じ、苦笑いを浮かべる。
そのまま次のグループの試合を見るため、コートと平行にある舞台の渕に腰掛けた。
「イケメンがドジッてんのスタイルと面がいい分めちゃおもろいな」
「やめてよぉ、今本当に恥ずかしいんだよぉ」
「ハシビロコウぐらい無で立ってたなまじで。で?どした最近」
「どしたって……私もよくわかんないんだけど」
図書室の出来事と希望の恋の始まりを邪魔してしまったかもしれないこと、長く一緒にいて見たことの無い一面に少し戸惑っているしさみしく思ってしまっていることなど話せば、梅は半目でこちらをみた。
「は?何結局、白咲の成長と変化に今更戸惑ってんの?」
「いや、まあ今までそういうの感じたこと無かったっていうか。希望だってもう十七だしそりゃ恋をしたっておかしくないよ。わかってるけど慣れないっていうか、そもそも私の存在が結構邪魔になったりしないか?とかも思うと…」
「思うと?」
「なんか、さみしくて」
隣で梅がわざとらしく大きなため息を吐いた。
目頭を抑え、組んだ足を小刻みに揺らしている。
「まじか……まじか、なんの自覚もないのか」
「だから、希望の邪魔になっても悪いし、自分の振る舞いには今後気をつけようと思ってるよ」
「うわ、違う、根本的に、違いすぎる、ええこわ…まっすぐきれいに育ちすぎてこじらせちゃってる」
梅が元の目頭を抑えた格好のまま状態を反らせた。
後ろに倒れそうで背中を支えれば、低い猫の威嚇のような声を上げた後反動をつけて起き上がりずいっと顔をこちらに寄せた。
「え、なに可愛い」
「うるせぇ面食いイケメン、いいから聞きな」
「ハイ」
梅はふん、と鼻を鳴らすと口を開いた。
「その姫へのさみしい感情、親戚感覚とか思ってる?」
「どうだろ、近い気もするけど」
「そこはちゃんとどんな感情がもとでさみしくなったのか考えな」
真剣な声に、こちらもきゅっと唇を引き締めた。
「どんなって…」
梅がすっとこちらを指差す。
「少なくとも、人間関係にほぼ興味のない人間である私からみても、白咲が一番好意を抱いてるのはあんたに見えるよ」
「それは、小さい頃から一番仲がいいし」
「だから、この情報を聞いておーじはどう思うかって話だよってかもうめんどくさいわ!そんなに気になるなら直接白咲に好みの女子についてきけ!!爆発するぞあいつ」
話の途中から荒れた様子で梅は、はっと息を吐いた。
指差していた手でそのまま鼻を摘まれ、左右に揺さぶられる。
「いたた、痛いて!短気!」
「短気の人間に望みの答えを言わない方が悪い、はい解散!」
丁度昼休みを告げるチャイムが鳴った。
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