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4.四葉の君と王子様
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好意はありがたいが、こちらから好意がないから断っていた。
可愛いものが好きでも、レースのスカートを履きたいとは思わなかった。
どちらかといえばジェンダーレスな格好が好きだし、自分でも似合っていると思う。
かといって自分は女の自覚はあるしそれは苦痛でもない。
ただ性別を理由に好きになる人の範囲が決まるという感覚は無い。
「光は結構自分のそういったところに無頓着だけど、傾向として可愛い女子のが好きだよね。好きな芸能人とか、梓川もそうだし」
「梅は普通に友達として好きだし、別にそういうのじゃ」
「でも梓川の顔好きでしょ、小柄で可愛い系の猫顔」
「顔は……まあ……」
好みの顔ではあるし、その系統まで言い当てられるとぐうの音もでない。
なんだかドラマで見る浮気を責められている旦那のような状況だ。
別に浮気もしていなければ旦那でもない。
でも今めちゃくちゃ希望に詰められている。
希望がさらに思い詰めた顔をするのでおろおろしてしまう。
夕日が傾いて、オレンジの空から紫を経て薄っすらと暗い青に変わってゆく。
「俺は昔みたいに可愛くもないし、こんなデカくなっちゃったし、どんどんゴツくなってきてて」
「希望、そんなこと」
言葉を継ごうとしたら指の長い大きな手がそっと私の口を塞いだ。
意図を汲み取ってじっと相手の言葉を待つ。
「別に俺女子になりたいわけじゃないし、光のこと守れるくらい強くなりたいって昔から思ってたから嬉しいけど。でも、俺のいたところに他の人がいるとすごい嫌だし、光が優しくしてるのみると嫉妬する。そのくらい俺は狭量で重いけど昔からずっと光が好きだよ」
相手の口から紡がれる言葉は、尻窄みに小さくなっていった。
口元の手が震えている。
うつむいて目を合わせてくれない。
かわいそうに、どんなに今希望は不安だろう。
自分の見てきた誰の告白も受け入れたことのない人間に、自分の弱みも心の内もすべてさらけ出して。
震える手を握って口元から離し、希望の髪をそっと梳いた。
「希望に告白されちゃった」
目の前のしっかりとした肩がぴくりと震えた。
「ごめん、ここまで言うつもりなかったのに」
「なんで、嬉しかったのに」
そう伝えると希望が顔を上げた。
綺麗な瞳が零れ落ちそうなほど目を見開いている。
「そんなに驚かなくても」
「だって、俺今好きって言ったんだよ?」
「え?うん」
「光に他の人と仲良くしないでほしいとか、俺だけ特別でいたいとか、抱きしめたいとかキスしたいとか思ってるってことだよ?」
「うれしいよ」
一際にっこりと微笑めば、希望が脱力した様子でよろけた。
「……なんか、なんでそんな普通に嬉しそうなの」
「普通、大好きな人に好きって言われたら嬉しいものでは」
時が止まったかのように固まる相手におーいと声をかける。
自分でだってその気持を最近じわじわと自覚しはじめたばかりだ。
日が落ちて涼しくなった風に、少し冷静になろうと頭の中を整理しながら話す。
「希望は私にとって昔から特別だし、見た目が変わったって可愛いなと思うし、一番大好きな人だよ。同じ様に特別でいたいし抱きしめてキスしたいとかも思ってる。」
希望が顔を赤くするので、こちらまで恥ずかしくなってきてしまった。
「図書室で会った子と希望が並んでるの見て、こういうのを王子様とお姫様って言うんだろうなって思ったり、もし希望に好きな子ができたら、私は邪魔になっちゃうんだなって思ったらさみしくなって」
「そんなことありえないから」
苦虫を噛み潰したような顔をした希望につい笑ってしまった。
そこまで嫌そうな顔をすると思わなかった。
「でも、希望のことそういう風に好きなんだなって思うきっかけになったから」
「ずるいなぁ」
こちらを上目遣いに見て私が口元から離して掴んでいた手に指を絡め、もう一方の空いた手の人差し指もきゅっとゆっくり握られる。
「じゃあキスしていーの?」
どっちがずるいんだ。
自覚があるのか無いのか、希望こそあざとい振る舞いがものすごく巧みだ。
友人や先生など処世術として使っている場面も見かけるが、加減は違えどすべてうまくいっている。
姫の名は伊達ではなく人として可愛がられる才能があるのだ。
今も例にもれず全く不快ではなく、ちゃんと可愛くものすごくきゅんとさせられる。
「姫がそうおっしゃるなら」
「言ったね」
希望は不敵に笑むと、片膝をついた騎士の様な格好で花冠を手にした。
恭しい手つきでそれを私の頭上に乗せる。
「なるほど、王子に対して騎士になってくれるの?」
なかなかシャレの効いたことをするなと微笑めば、騎士になりたての彼もニコリと笑んだ。
そのまま花冠を離れた手はこめかみあたりへと触れて、額に柔らかな唇を寄せた。
その感触と温かな吐息を感じてくすぐったい。
本当に戴冠への祝福のキスのようで可愛らしい。
すると次は瞼に目尻、鼻先、頬、顎と続いて唇の端に触れた瞬間、思わず手を挟み込んで止めてしまった。
「どうして止めるの」
「だってこんなにすると思わなかったし!」
その会話の間にも手をとられ、指先、掌に手の甲、腕から肩へと唇は徐々に上がっていった。
ついには耳元に温かさを感じ、手が塞がっているため恥ずかしさに首をそらせば顔がその分迫ってきた。
耳介の上の方から耳孔の外側の軟骨を通り耳たぶを優しく食んでやっと離れていった。
「ちょっと……」
「こんな真っ赤な光初めて見たかも」
「いや、こっちだって頭追いつかないから」
ここまでのことを希望がするとは思ってもいなくて、赤面と驚く他にない。
「光が俺を特別に大切にしてくれてるってわかってるよ。でも欲張りで嫉妬深いからそれだけじゃ足りなくなっちゃったんだ。ごめんね」
言葉とは裏腹に幸せそうに笑う姿に、文句より可愛いの気持ちが勝ってしまう。
「王子と騎士でも、王子同士でもなんでもいいよ。希望と一緒ならどんな形だっていい」
「ずるいってほんと」
「なんで、そうじゃない?」
「これ以上格好良くなんないでよ、追いつけないから」
ものすごい惚気た会話だなとおかしくなって笑ってしまった。
自分でもかなり気障な言い回しをしたとも思う。
希望は恥ずかしそうに文句を言っている。
そんな姿も愛らしい。
「あ、希望、そこ」
「え?あ!四葉だ!」
この小さな空間に立っている、自動点灯の白熱灯の明かりに照らされた四葉のクローバーが宵の風に揺れていた。
希望はそれを摘んで嬉しそうにこちらに差し出した。
それを受取りあ、と思いつきを口にした。
「これ、せっかくだし栞にしよっか」
「ええっなんかあんま栞は縁起良くないよ」
図書室のことを思い出して、苦い顔をする相手にそうでもないよ、と返す。
あの栞がきっかけで、自分の気持がはっきりとして今の状況へとたどり着いたのだ。
やはり四葉のクローバーは希望をもたらす幸運のシンボルに違いなかった。
可愛いものが好きでも、レースのスカートを履きたいとは思わなかった。
どちらかといえばジェンダーレスな格好が好きだし、自分でも似合っていると思う。
かといって自分は女の自覚はあるしそれは苦痛でもない。
ただ性別を理由に好きになる人の範囲が決まるという感覚は無い。
「光は結構自分のそういったところに無頓着だけど、傾向として可愛い女子のが好きだよね。好きな芸能人とか、梓川もそうだし」
「梅は普通に友達として好きだし、別にそういうのじゃ」
「でも梓川の顔好きでしょ、小柄で可愛い系の猫顔」
「顔は……まあ……」
好みの顔ではあるし、その系統まで言い当てられるとぐうの音もでない。
なんだかドラマで見る浮気を責められている旦那のような状況だ。
別に浮気もしていなければ旦那でもない。
でも今めちゃくちゃ希望に詰められている。
希望がさらに思い詰めた顔をするのでおろおろしてしまう。
夕日が傾いて、オレンジの空から紫を経て薄っすらと暗い青に変わってゆく。
「俺は昔みたいに可愛くもないし、こんなデカくなっちゃったし、どんどんゴツくなってきてて」
「希望、そんなこと」
言葉を継ごうとしたら指の長い大きな手がそっと私の口を塞いだ。
意図を汲み取ってじっと相手の言葉を待つ。
「別に俺女子になりたいわけじゃないし、光のこと守れるくらい強くなりたいって昔から思ってたから嬉しいけど。でも、俺のいたところに他の人がいるとすごい嫌だし、光が優しくしてるのみると嫉妬する。そのくらい俺は狭量で重いけど昔からずっと光が好きだよ」
相手の口から紡がれる言葉は、尻窄みに小さくなっていった。
口元の手が震えている。
うつむいて目を合わせてくれない。
かわいそうに、どんなに今希望は不安だろう。
自分の見てきた誰の告白も受け入れたことのない人間に、自分の弱みも心の内もすべてさらけ出して。
震える手を握って口元から離し、希望の髪をそっと梳いた。
「希望に告白されちゃった」
目の前のしっかりとした肩がぴくりと震えた。
「ごめん、ここまで言うつもりなかったのに」
「なんで、嬉しかったのに」
そう伝えると希望が顔を上げた。
綺麗な瞳が零れ落ちそうなほど目を見開いている。
「そんなに驚かなくても」
「だって、俺今好きって言ったんだよ?」
「え?うん」
「光に他の人と仲良くしないでほしいとか、俺だけ特別でいたいとか、抱きしめたいとかキスしたいとか思ってるってことだよ?」
「うれしいよ」
一際にっこりと微笑めば、希望が脱力した様子でよろけた。
「……なんか、なんでそんな普通に嬉しそうなの」
「普通、大好きな人に好きって言われたら嬉しいものでは」
時が止まったかのように固まる相手におーいと声をかける。
自分でだってその気持を最近じわじわと自覚しはじめたばかりだ。
日が落ちて涼しくなった風に、少し冷静になろうと頭の中を整理しながら話す。
「希望は私にとって昔から特別だし、見た目が変わったって可愛いなと思うし、一番大好きな人だよ。同じ様に特別でいたいし抱きしめてキスしたいとかも思ってる。」
希望が顔を赤くするので、こちらまで恥ずかしくなってきてしまった。
「図書室で会った子と希望が並んでるの見て、こういうのを王子様とお姫様って言うんだろうなって思ったり、もし希望に好きな子ができたら、私は邪魔になっちゃうんだなって思ったらさみしくなって」
「そんなことありえないから」
苦虫を噛み潰したような顔をした希望につい笑ってしまった。
そこまで嫌そうな顔をすると思わなかった。
「でも、希望のことそういう風に好きなんだなって思うきっかけになったから」
「ずるいなぁ」
こちらを上目遣いに見て私が口元から離して掴んでいた手に指を絡め、もう一方の空いた手の人差し指もきゅっとゆっくり握られる。
「じゃあキスしていーの?」
どっちがずるいんだ。
自覚があるのか無いのか、希望こそあざとい振る舞いがものすごく巧みだ。
友人や先生など処世術として使っている場面も見かけるが、加減は違えどすべてうまくいっている。
姫の名は伊達ではなく人として可愛がられる才能があるのだ。
今も例にもれず全く不快ではなく、ちゃんと可愛くものすごくきゅんとさせられる。
「姫がそうおっしゃるなら」
「言ったね」
希望は不敵に笑むと、片膝をついた騎士の様な格好で花冠を手にした。
恭しい手つきでそれを私の頭上に乗せる。
「なるほど、王子に対して騎士になってくれるの?」
なかなかシャレの効いたことをするなと微笑めば、騎士になりたての彼もニコリと笑んだ。
そのまま花冠を離れた手はこめかみあたりへと触れて、額に柔らかな唇を寄せた。
その感触と温かな吐息を感じてくすぐったい。
本当に戴冠への祝福のキスのようで可愛らしい。
すると次は瞼に目尻、鼻先、頬、顎と続いて唇の端に触れた瞬間、思わず手を挟み込んで止めてしまった。
「どうして止めるの」
「だってこんなにすると思わなかったし!」
その会話の間にも手をとられ、指先、掌に手の甲、腕から肩へと唇は徐々に上がっていった。
ついには耳元に温かさを感じ、手が塞がっているため恥ずかしさに首をそらせば顔がその分迫ってきた。
耳介の上の方から耳孔の外側の軟骨を通り耳たぶを優しく食んでやっと離れていった。
「ちょっと……」
「こんな真っ赤な光初めて見たかも」
「いや、こっちだって頭追いつかないから」
ここまでのことを希望がするとは思ってもいなくて、赤面と驚く他にない。
「光が俺を特別に大切にしてくれてるってわかってるよ。でも欲張りで嫉妬深いからそれだけじゃ足りなくなっちゃったんだ。ごめんね」
言葉とは裏腹に幸せそうに笑う姿に、文句より可愛いの気持ちが勝ってしまう。
「王子と騎士でも、王子同士でもなんでもいいよ。希望と一緒ならどんな形だっていい」
「ずるいってほんと」
「なんで、そうじゃない?」
「これ以上格好良くなんないでよ、追いつけないから」
ものすごい惚気た会話だなとおかしくなって笑ってしまった。
自分でもかなり気障な言い回しをしたとも思う。
希望は恥ずかしそうに文句を言っている。
そんな姿も愛らしい。
「あ、希望、そこ」
「え?あ!四葉だ!」
この小さな空間に立っている、自動点灯の白熱灯の明かりに照らされた四葉のクローバーが宵の風に揺れていた。
希望はそれを摘んで嬉しそうにこちらに差し出した。
それを受取りあ、と思いつきを口にした。
「これ、せっかくだし栞にしよっか」
「ええっなんかあんま栞は縁起良くないよ」
図書室のことを思い出して、苦い顔をする相手にそうでもないよ、と返す。
あの栞がきっかけで、自分の気持がはっきりとして今の状況へとたどり着いたのだ。
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