1 / 28
1話 婚約者の浮気
しおりを挟む
「ラブメア……君との時間が本当に愛おしいよ」
「私もよ!! マゼンと一緒で嬉しいわ!!」
庭園で仲良くイチャイチャする男女の姿。
互いに高貴な立場であり、容姿も服装も整えられた光景。
知らない人から見れば尊さを感じていただろう。
けど、ここは私の家で私の庭。
更に言えばマゼンと言う男が私の婚約者だと知ったら、どう思うかしら?
「ねぇねぇ、ノエルの事はいいの?」
「別に構わないよ。あんな傷アリ令嬢の相手をするくらいなら、ラブメアのような素晴らしい女性とお話していたいね」
「あははっ!! マゼンってば嬉しいこと言ってくれるー!! ありがとうー!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で湧き上がったのは怒りとか悲しみとかでは無い。
貴方も私をそう扱うのね……という失望。
彼女達の目に触れないよう、足音を忍ばせてその場を去る。
「……痛い」
錯覚かもしれないが、とっくの昔に塞がったハズの傷跡が痛む。
昔、不慮の事故で傷ついてしまった私の右目。
眼帯で隠してはいるものの、今でも痛々しい傷跡がそこに残っている。
ノエル・ヴァーレイン。
右目の傷が原因で周りから傷アリ令嬢だと言われている辺境伯の娘だ。
今日は久しぶりの旅行で家を空け、帰ってきたらこのザマ。
最悪。
本当に最悪よ。
「はぁ……」
今までの思い出が全部偽りの物だったと自覚してしまう。
マゼンと私は婚約関係だ。
ヴァーレイン家は辺境伯としてこの地を納めてはいたものの、主人として優秀だったお母様の死や自然災害の増加により領地の経営が悪化。
国王様から地位と領地を剥奪される一歩手前まで追い詰められた時、オルクス家が長男であるマゼンとの結婚を条件に支援してくれると約束してくれた。
資金は潤って経営は安定。
ヴァーレイン家を潰しかけたお父様も首の皮が繋がって一安心。
私も契約結婚とはいえ、マゼンは右目の傷を気にせず接してくれて少し幸せな気分を味わえた。
けど、損をしたのは私だけだったのね。
『げ、ノエル様もう帰ってきたの……』
『ダメだろ、聞こえてるかもしんないし』
『あーあ、私も綺麗なお嬢様の元に仕えたかったなぁ』
従者達も小言を吐くなら隠れてやればいいのに。
執事長を除けば、ここの従者達は私の事が嫌いみたい。
まぁ、吐かれて当然の顔だしどうでもいいけど。
聞きなれた陰口を受け止めながら、私はとある場所へと向かう。
マゼンの愚かな行為も
従者達の敬意の感じない態度も
今の私にはそれよりやらなければいけない事がある。
「失礼します……お父様」
父親がいるであろう書室の扉をノックする。
婚約関係とはいえ、流石のお父様もマゼンの態度は見過ごせないハズ。
詳細に、
分かりやすく、
正確に伝えてしかるべき対応をとってもらわないと。
「はぁ……」
なんで私がこんな思いをしないといけないのかしらね。
重い身体と心を引きずったまま、私は目の前の扉を開けるのだった。
「終わらせましょう、こんな廃れた人生は」
「私もよ!! マゼンと一緒で嬉しいわ!!」
庭園で仲良くイチャイチャする男女の姿。
互いに高貴な立場であり、容姿も服装も整えられた光景。
知らない人から見れば尊さを感じていただろう。
けど、ここは私の家で私の庭。
更に言えばマゼンと言う男が私の婚約者だと知ったら、どう思うかしら?
「ねぇねぇ、ノエルの事はいいの?」
「別に構わないよ。あんな傷アリ令嬢の相手をするくらいなら、ラブメアのような素晴らしい女性とお話していたいね」
「あははっ!! マゼンってば嬉しいこと言ってくれるー!! ありがとうー!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で湧き上がったのは怒りとか悲しみとかでは無い。
貴方も私をそう扱うのね……という失望。
彼女達の目に触れないよう、足音を忍ばせてその場を去る。
「……痛い」
錯覚かもしれないが、とっくの昔に塞がったハズの傷跡が痛む。
昔、不慮の事故で傷ついてしまった私の右目。
眼帯で隠してはいるものの、今でも痛々しい傷跡がそこに残っている。
ノエル・ヴァーレイン。
右目の傷が原因で周りから傷アリ令嬢だと言われている辺境伯の娘だ。
今日は久しぶりの旅行で家を空け、帰ってきたらこのザマ。
最悪。
本当に最悪よ。
「はぁ……」
今までの思い出が全部偽りの物だったと自覚してしまう。
マゼンと私は婚約関係だ。
ヴァーレイン家は辺境伯としてこの地を納めてはいたものの、主人として優秀だったお母様の死や自然災害の増加により領地の経営が悪化。
国王様から地位と領地を剥奪される一歩手前まで追い詰められた時、オルクス家が長男であるマゼンとの結婚を条件に支援してくれると約束してくれた。
資金は潤って経営は安定。
ヴァーレイン家を潰しかけたお父様も首の皮が繋がって一安心。
私も契約結婚とはいえ、マゼンは右目の傷を気にせず接してくれて少し幸せな気分を味わえた。
けど、損をしたのは私だけだったのね。
『げ、ノエル様もう帰ってきたの……』
『ダメだろ、聞こえてるかもしんないし』
『あーあ、私も綺麗なお嬢様の元に仕えたかったなぁ』
従者達も小言を吐くなら隠れてやればいいのに。
執事長を除けば、ここの従者達は私の事が嫌いみたい。
まぁ、吐かれて当然の顔だしどうでもいいけど。
聞きなれた陰口を受け止めながら、私はとある場所へと向かう。
マゼンの愚かな行為も
従者達の敬意の感じない態度も
今の私にはそれよりやらなければいけない事がある。
「失礼します……お父様」
父親がいるであろう書室の扉をノックする。
婚約関係とはいえ、流石のお父様もマゼンの態度は見過ごせないハズ。
詳細に、
分かりやすく、
正確に伝えてしかるべき対応をとってもらわないと。
「はぁ……」
なんで私がこんな思いをしないといけないのかしらね。
重い身体と心を引きずったまま、私は目の前の扉を開けるのだった。
「終わらせましょう、こんな廃れた人生は」
25
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
悪役令嬢、辞めます。——全ての才能を捨てた私が最強だった件
ニャーゴ
恋愛
「婚約破棄だ、リリアナ!」
王太子エドワードがそう宣言すると、貴族たちは歓声を上げた。 公爵令嬢リリアナ・フォン・クラウスは、乙女ゲームの悪役令嬢として転生したことを理解していた。 だが、彼女は「悪役令嬢らしく生きる」ことに飽きていた。
「そうですか。では、私は悪役令嬢を辞めます」
そして、リリアナは一切の才能を捨てることを決意する。 魔法、剣術、政治力——全てを手放し、田舎へ引きこもる……はずだった。 だが、何故か才能を捨てたはずの彼女が、最強の存在として覚醒してしまう。
「どうして私、こんなに強いの?」
無自覚のままチート能力を発揮するリリアナのもとに、かつて彼女を陥れた者たちがひれ伏しにくる。
元婚約者エドワードは涙ながらに許しを請い、ヒロインのはずの少女は黒幕だったことが判明し、処刑。
だが、そんなことよりリリアナは思う。
「平穏に暮らしたいんだけどなぁ……」
果たして、彼女の望む静かな生活は訪れるのか? それとも、新たな陰謀と戦乱が待ち受けているのか——!?
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
reva
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
能ある妃は身分を隠す
赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。
言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。
全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる