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一章 ソフト勧誘編
三回裏 全力投球
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「ストライーッ! バッターアウト! チェンジ!」
合同授業のソフトボール大会決勝戦。相手は普通科B組。このクラスは基本的に運動部が多いから、みんな運動神経は良いのだけれど……。
(やっぱりこのクラスにも目ぼしい子はいないわね……)
それでも、私の投げる球に当てることすら出来る生徒はいなかった。とは言っても私のいるC組も私とキャッチャーの田島結菜以外は話にならない。ここまでも私と結菜の二人で点を取り、私が0点に押さえるだけの単調な試合ばかりだった。
「つーらら、どっすか? 誰かいい人いたっすか?」
この子が田島結菜。私と同じ中学で幼なじみでもある。小柄な見た目に似合わず強肩で野球脳は高い……でも、普段はお馬鹿。
「いいえ。あなたも分かってるでしょ? 見ての通りよ」
「やっぱそうっすよねぇ。B組は運動神経いいんすけどねぇ。でもあのセンターの松本さんは少し面白いっすよ。元気で動き事態は悪くないっす。バッティングはめちゃくちゃっすけど……、――あ、打った」
結菜と話をしている時、私のクラスメイトが珍しくバットに当てた。
「おっ、面白い所に転がったっすね」
打球は地面に叩きつけられピッチャーの頭上を越える。
「さすがにこれは誰も取れないっすね。センター前確定っす」
「そうね……」
こんな試合早く終わらないかしら……、私はこんな事をするために来たんじゃないのに、一秒も無駄にはしたくないのに。そんな事を思いながら打球を目で追った。
しかし、そんな感情は一瞬で吹き飛ばされた。セカンドを守っていた子が、素早くボールにまわり込みショートバウンドでキャッチすると、そのまま流れるようにスナップスローを決めたのだ。
「つらら! 見たっすか?」
「ええ! 見たわ!」
今までソフトボールをしてきて、あそこまでなめらかにボールを捌く選手は数えるほどしか見たことがない。オリンピックや社会人など一線で活躍している選手にも引けをとらない、そんな動きだった。
「結菜! あの子! あの子の情報!」
私は興奮を押さえる事が出来なかった。
(見つけたわ! あの子ならチームの力になるかもしれない!)
結菜はバッグからファイルを取り出すとB組と書かれた資料を開いた。例の監督から借りたファイルだ。
「広瀬 るい。横浜出身で帰宅部っすね。中学までの情報は……、残念ながら載ってないっす」
「やっぱり県外だと情報はなのかしら? 今日の打席はどうだったか分かる?」
今日はたくさんの人に対して投げたけど、本当に目ぼしい子はいなかった。思い返しても、やはりピンとくる子は一人もいない。
「広瀬さんは……、これが初試合っすね。しかも試合でもまだ一回もバットは振ってないっす」
結菜の言葉に私は疑問を覚えた。
「振っていないですって?」
運動部集団のB組、どんなに下手な子でも一回はバットを振るはず。しかも今日は監督の言い付けどおり7割以下の力で、しかもワンステップ投法でストライクしか投げていない。
「やっぱおかしいっすよね。思い返してみると、広瀬さんは振れないっていうよりも振る気がないって感じだった気軽するっす」
「もしかしたらこの試合の意味を見抜かれているのかしら……」
いや、そんなはずはない。みんなを試しながら投げてはいるが、はたから見れば真剣にやってるようにしか見えない。そんな投げ方をしている。となると……、他に何か理由があるのかもしれない。
「結菜! あの子の次の打席は全力で行くわよ」
「りょーかい! そう言うと思ってたっすよ」
私の全力を見せれば嫌でも打ちたくなるはず。ソフトボールを真剣にやってきたならそうならない訳がない。
「アウト! チェンジ!」
審判の声で攻守が交代する。
力量もわからない未知の相手、私はこの授業で初めてワクワクしていた。
「さあ、行くわよ!」
私は結菜に声をかけマウンドに向かった。
最初の打者は今日初めてのバットに当てられたが三振に取り、続く打者も簡単に三振に取った。目的の広瀬さんまではあと3人の打者を歩かせない限り回らない。
「――タイム!」
キャッチャーの結菜が審判にタイムを宣告し私のもとに駆け寄ってくる。
「つらら、歩かせるっすか?」
この回で試合は終わる。私に選択の余地はない。
「当然よ。それと、次からツーステップでいくわ」
その言葉を聞いて結菜はニヤッと笑い、守備位置に戻っていった。
作戦通り3人を歩かせ、ツーアウト満塁でバッター広瀬さんを迎える。
クラスメイトたちは、私たちの行動に何も言わず笑っていたがさすがはB組、勝負の世界を良く知る彼女たちは怒っていた。
「広瀬さん! おもいっきり! B組の維持見せてやれ!」
広瀬さんに飛ぶ声援に私も気合いが入る。肩を数回まわして、ギアを入れ替える。
(さぁ! 場面は整ったわ! あなたが本物ならこの勝負、受けてみなさい!)
プレートに足をかけ、力強くかつ大きく跳び、踏み出して投じた一球目。ど真ん中に渾身のストレート。
しかし、広瀬さんはピクリとも動かなかった。
(手が出なかった? ……いや、そんなはずはないわよね?)
その様子を見て、結菜はすかさずタイムをかけた。
「動かないっすね……。やっぱ思い違いだったんじゃ……」
「いいえ、まだ諦めるのは早いわ。結菜、次はライズよ」
「ライズっすか? でもライズはまだ未完成なんじゃ……」
「大丈夫。毎日練習してきたんだから、きっと上手くいくわ。私を信じなさい」
「……わかったっす。どうなっても知らないっすからね!」
結菜が構えた場所は真ん中高め、上手くいけば空振り、もし打たれてもトップフライは確実に取れる。
(大丈夫。落ち着くのよ。あんなに練習したのだもの。絶対に上手くいくわ)
深呼吸をして、セットポジションにはいり動きを完全に静止する。そして、ミットを目掛けて地面を強く蹴り、再び大きく踏み込んだ。
「――あっ!」
ところが、ボールは指をすっぽぬけてしまった。私の手を離れたボールは広瀬さんの顔を目掛けて飛んでいく。
「危ない! 避けて!」
思わず叫んでしまった。しかし、そこもまた、私の予想を良い意味で彼女は裏切った。
ビーンボールすなわち危険球になりかねない私のボールを広瀬さんは、体を反転させて、いとも簡単に避けたのだ。
その姿に周りからは安堵の声のあと、歓声が上がった。
「広瀬さんすごい!」
「ボール見えとるやん!」
「るいちゃん試合決めてー!」
やはり、彼女はボールが見えていないわけではなかったようだ。もし、本当に見えていなければ私の球をあんなに上手く避けれるはずがない。
(危なかった……。今のは助けられたわね)
本来であれば、ここでもう一度タイムを取りたいところだけど……、私の視線の先には打席から出て屈伸をしている広瀬さんの姿がある。更に彼女はその後、2回バットを振った。
(結果オーライってとこかしら? さっきので火が着いたのかしら)
広瀬さんは打席に入り深く呼吸をし、バットを構えた。その姿を見て、結菜と視線が合う。ながくバッテリーを組んできた相方だけに考えていることは同じのようだ。
結菜は外角低めのボール一個分外にミットを構えた。
(そうね。ここは一球ボール球で様子を見ましょう)
私の投げたボールは指示通りミットに収まった。そのボールに広瀬さんは一瞬動きはしたものの、しっかりと見送った。
(ビーンボールの後なのに彼女は臆するとまころか踏み込んできたわね。度胸もあるじゃない)
これでカウントはワン、ツー、バッティングカウント。次の球は絶対に振ってくるはずだ。
結菜の出したサインはさっきの失敗したライズボールだった。
(またライズ? そう……結菜、私にも逃げるなってことが言いたいのね……。わかったわ!)
私は結菜のサインに首を縦に振る。
(次は決める!)
私は力強く地面を蹴った。
(ブラッシングのあと、ドアノブを回すように!)
投じた4球目。私の指を離れたボールはきれいにバックスピンがかかる。
(――よし!)
そこまでスピードこそ出ていないが、これば紛れもないライズボール。軌道も悪くない。真ん中高めのストライクコースだ。
その時、広瀬さんが動いた。
甘いと思ったのか、彼女の振ったバットはボール下を通過する。
(流石に振ってきたわね。でも甘いわ。ここは私の勝ち)
空振りを取ったことで優越感が生まれる。この興奮、この感覚。三振を取れればさらに気持ちいい。それが私がピッチャーを好む理由。
「――タッ、タイムっす!」
結菜が突然タイムをかけて近寄ってくる。その表情は少し固く見えた。
「どうしたの? 何かあった?」
「つららぁ、広瀬さん……笑ってたっす」
「笑ってたですって……」
予想もしていなかった結菜の発言に驚いた。その言葉で少しだけ広瀬さんが不気味にさえ感じる。さっきまでの優越感は一瞬で消え去り、再び闘志に火がつく。
一方的に勝負をしている気になっているだけかもしれないけど、それでも私は、彼女に負ける気はさらさらない。
「結菜! もう小細工はなしよ! ど真ん中直球勝負でいくわ!」
そうこなくっちゃと言わんばかりに結菜は笑う。
「おっけーっす! じゃあ後は任せたっすよ」
この時、私はこの大会の真の目的の事など忘れて純粋に楽しんでいた。高校での初試合、たかが体育の合同授業だけど、今この瞬間は間違いなく真剣勝負そう思えずにはいられなかった。
(カウントはツーツー。私が本当の意味で全力で投げれる球は、もう次の球だけ……。フルカウントになる前に決める!)
私はゆっくりとプレートに足をかけた。大きく息を吐き出し、肩の余分な力を一旦抜いてセットする。
そして、数秒の静止した直後に、大きく跳び出し再び軸足を地面に着くと、腕をしならせながら渾身のストレートをど真ん中、結菜の構えるミットを目掛けて投げ込んだ――。
(――あ、ダメ。打たれる……)
投げた瞬間に私はそう思った。別にボールが指に掛からなかったわけではない。踏み込みもブラッシングも完璧だった。でもなぜかそう思わずにはいられなかった。
広瀬さんの繰り出したスイングは理想だった。ブレのない姿勢、テイクバック、下半身の力をバットに伝えるためのタメ。そして軌道。無駄な力も入っていない。そんなスイングだった。広瀬さんのバットは私の投げたボールに鋭くシャープに最短距離で向かっていく。
――カキーーーンッ!
私は打球を追わなかった。だって分かるもの。この音、打球の角度、ホームランにならないはずはない。
それよりも私は広瀬さんの事が気になる。ダイヤモンドを回る彼女の姿を目で追ってしまう。
勝負にも試合に負けた? そんなことはもうどうでもいい。
ただ、私は確信した。
彼女は、広瀬るいは本物だ。間違いなく光ヶ浦高校ソフトボール部の力になる。
(監督……、最高の選手を見つけました)
合同授業のソフトボール大会決勝戦。相手は普通科B組。このクラスは基本的に運動部が多いから、みんな運動神経は良いのだけれど……。
(やっぱりこのクラスにも目ぼしい子はいないわね……)
それでも、私の投げる球に当てることすら出来る生徒はいなかった。とは言っても私のいるC組も私とキャッチャーの田島結菜以外は話にならない。ここまでも私と結菜の二人で点を取り、私が0点に押さえるだけの単調な試合ばかりだった。
「つーらら、どっすか? 誰かいい人いたっすか?」
この子が田島結菜。私と同じ中学で幼なじみでもある。小柄な見た目に似合わず強肩で野球脳は高い……でも、普段はお馬鹿。
「いいえ。あなたも分かってるでしょ? 見ての通りよ」
「やっぱそうっすよねぇ。B組は運動神経いいんすけどねぇ。でもあのセンターの松本さんは少し面白いっすよ。元気で動き事態は悪くないっす。バッティングはめちゃくちゃっすけど……、――あ、打った」
結菜と話をしている時、私のクラスメイトが珍しくバットに当てた。
「おっ、面白い所に転がったっすね」
打球は地面に叩きつけられピッチャーの頭上を越える。
「さすがにこれは誰も取れないっすね。センター前確定っす」
「そうね……」
こんな試合早く終わらないかしら……、私はこんな事をするために来たんじゃないのに、一秒も無駄にはしたくないのに。そんな事を思いながら打球を目で追った。
しかし、そんな感情は一瞬で吹き飛ばされた。セカンドを守っていた子が、素早くボールにまわり込みショートバウンドでキャッチすると、そのまま流れるようにスナップスローを決めたのだ。
「つらら! 見たっすか?」
「ええ! 見たわ!」
今までソフトボールをしてきて、あそこまでなめらかにボールを捌く選手は数えるほどしか見たことがない。オリンピックや社会人など一線で活躍している選手にも引けをとらない、そんな動きだった。
「結菜! あの子! あの子の情報!」
私は興奮を押さえる事が出来なかった。
(見つけたわ! あの子ならチームの力になるかもしれない!)
結菜はバッグからファイルを取り出すとB組と書かれた資料を開いた。例の監督から借りたファイルだ。
「広瀬 るい。横浜出身で帰宅部っすね。中学までの情報は……、残念ながら載ってないっす」
「やっぱり県外だと情報はなのかしら? 今日の打席はどうだったか分かる?」
今日はたくさんの人に対して投げたけど、本当に目ぼしい子はいなかった。思い返しても、やはりピンとくる子は一人もいない。
「広瀬さんは……、これが初試合っすね。しかも試合でもまだ一回もバットは振ってないっす」
結菜の言葉に私は疑問を覚えた。
「振っていないですって?」
運動部集団のB組、どんなに下手な子でも一回はバットを振るはず。しかも今日は監督の言い付けどおり7割以下の力で、しかもワンステップ投法でストライクしか投げていない。
「やっぱおかしいっすよね。思い返してみると、広瀬さんは振れないっていうよりも振る気がないって感じだった気軽するっす」
「もしかしたらこの試合の意味を見抜かれているのかしら……」
いや、そんなはずはない。みんなを試しながら投げてはいるが、はたから見れば真剣にやってるようにしか見えない。そんな投げ方をしている。となると……、他に何か理由があるのかもしれない。
「結菜! あの子の次の打席は全力で行くわよ」
「りょーかい! そう言うと思ってたっすよ」
私の全力を見せれば嫌でも打ちたくなるはず。ソフトボールを真剣にやってきたならそうならない訳がない。
「アウト! チェンジ!」
審判の声で攻守が交代する。
力量もわからない未知の相手、私はこの授業で初めてワクワクしていた。
「さあ、行くわよ!」
私は結菜に声をかけマウンドに向かった。
最初の打者は今日初めてのバットに当てられたが三振に取り、続く打者も簡単に三振に取った。目的の広瀬さんまではあと3人の打者を歩かせない限り回らない。
「――タイム!」
キャッチャーの結菜が審判にタイムを宣告し私のもとに駆け寄ってくる。
「つらら、歩かせるっすか?」
この回で試合は終わる。私に選択の余地はない。
「当然よ。それと、次からツーステップでいくわ」
その言葉を聞いて結菜はニヤッと笑い、守備位置に戻っていった。
作戦通り3人を歩かせ、ツーアウト満塁でバッター広瀬さんを迎える。
クラスメイトたちは、私たちの行動に何も言わず笑っていたがさすがはB組、勝負の世界を良く知る彼女たちは怒っていた。
「広瀬さん! おもいっきり! B組の維持見せてやれ!」
広瀬さんに飛ぶ声援に私も気合いが入る。肩を数回まわして、ギアを入れ替える。
(さぁ! 場面は整ったわ! あなたが本物ならこの勝負、受けてみなさい!)
プレートに足をかけ、力強くかつ大きく跳び、踏み出して投じた一球目。ど真ん中に渾身のストレート。
しかし、広瀬さんはピクリとも動かなかった。
(手が出なかった? ……いや、そんなはずはないわよね?)
その様子を見て、結菜はすかさずタイムをかけた。
「動かないっすね……。やっぱ思い違いだったんじゃ……」
「いいえ、まだ諦めるのは早いわ。結菜、次はライズよ」
「ライズっすか? でもライズはまだ未完成なんじゃ……」
「大丈夫。毎日練習してきたんだから、きっと上手くいくわ。私を信じなさい」
「……わかったっす。どうなっても知らないっすからね!」
結菜が構えた場所は真ん中高め、上手くいけば空振り、もし打たれてもトップフライは確実に取れる。
(大丈夫。落ち着くのよ。あんなに練習したのだもの。絶対に上手くいくわ)
深呼吸をして、セットポジションにはいり動きを完全に静止する。そして、ミットを目掛けて地面を強く蹴り、再び大きく踏み込んだ。
「――あっ!」
ところが、ボールは指をすっぽぬけてしまった。私の手を離れたボールは広瀬さんの顔を目掛けて飛んでいく。
「危ない! 避けて!」
思わず叫んでしまった。しかし、そこもまた、私の予想を良い意味で彼女は裏切った。
ビーンボールすなわち危険球になりかねない私のボールを広瀬さんは、体を反転させて、いとも簡単に避けたのだ。
その姿に周りからは安堵の声のあと、歓声が上がった。
「広瀬さんすごい!」
「ボール見えとるやん!」
「るいちゃん試合決めてー!」
やはり、彼女はボールが見えていないわけではなかったようだ。もし、本当に見えていなければ私の球をあんなに上手く避けれるはずがない。
(危なかった……。今のは助けられたわね)
本来であれば、ここでもう一度タイムを取りたいところだけど……、私の視線の先には打席から出て屈伸をしている広瀬さんの姿がある。更に彼女はその後、2回バットを振った。
(結果オーライってとこかしら? さっきので火が着いたのかしら)
広瀬さんは打席に入り深く呼吸をし、バットを構えた。その姿を見て、結菜と視線が合う。ながくバッテリーを組んできた相方だけに考えていることは同じのようだ。
結菜は外角低めのボール一個分外にミットを構えた。
(そうね。ここは一球ボール球で様子を見ましょう)
私の投げたボールは指示通りミットに収まった。そのボールに広瀬さんは一瞬動きはしたものの、しっかりと見送った。
(ビーンボールの後なのに彼女は臆するとまころか踏み込んできたわね。度胸もあるじゃない)
これでカウントはワン、ツー、バッティングカウント。次の球は絶対に振ってくるはずだ。
結菜の出したサインはさっきの失敗したライズボールだった。
(またライズ? そう……結菜、私にも逃げるなってことが言いたいのね……。わかったわ!)
私は結菜のサインに首を縦に振る。
(次は決める!)
私は力強く地面を蹴った。
(ブラッシングのあと、ドアノブを回すように!)
投じた4球目。私の指を離れたボールはきれいにバックスピンがかかる。
(――よし!)
そこまでスピードこそ出ていないが、これば紛れもないライズボール。軌道も悪くない。真ん中高めのストライクコースだ。
その時、広瀬さんが動いた。
甘いと思ったのか、彼女の振ったバットはボール下を通過する。
(流石に振ってきたわね。でも甘いわ。ここは私の勝ち)
空振りを取ったことで優越感が生まれる。この興奮、この感覚。三振を取れればさらに気持ちいい。それが私がピッチャーを好む理由。
「――タッ、タイムっす!」
結菜が突然タイムをかけて近寄ってくる。その表情は少し固く見えた。
「どうしたの? 何かあった?」
「つららぁ、広瀬さん……笑ってたっす」
「笑ってたですって……」
予想もしていなかった結菜の発言に驚いた。その言葉で少しだけ広瀬さんが不気味にさえ感じる。さっきまでの優越感は一瞬で消え去り、再び闘志に火がつく。
一方的に勝負をしている気になっているだけかもしれないけど、それでも私は、彼女に負ける気はさらさらない。
「結菜! もう小細工はなしよ! ど真ん中直球勝負でいくわ!」
そうこなくっちゃと言わんばかりに結菜は笑う。
「おっけーっす! じゃあ後は任せたっすよ」
この時、私はこの大会の真の目的の事など忘れて純粋に楽しんでいた。高校での初試合、たかが体育の合同授業だけど、今この瞬間は間違いなく真剣勝負そう思えずにはいられなかった。
(カウントはツーツー。私が本当の意味で全力で投げれる球は、もう次の球だけ……。フルカウントになる前に決める!)
私はゆっくりとプレートに足をかけた。大きく息を吐き出し、肩の余分な力を一旦抜いてセットする。
そして、数秒の静止した直後に、大きく跳び出し再び軸足を地面に着くと、腕をしならせながら渾身のストレートをど真ん中、結菜の構えるミットを目掛けて投げ込んだ――。
(――あ、ダメ。打たれる……)
投げた瞬間に私はそう思った。別にボールが指に掛からなかったわけではない。踏み込みもブラッシングも完璧だった。でもなぜかそう思わずにはいられなかった。
広瀬さんの繰り出したスイングは理想だった。ブレのない姿勢、テイクバック、下半身の力をバットに伝えるためのタメ。そして軌道。無駄な力も入っていない。そんなスイングだった。広瀬さんのバットは私の投げたボールに鋭くシャープに最短距離で向かっていく。
――カキーーーンッ!
私は打球を追わなかった。だって分かるもの。この音、打球の角度、ホームランにならないはずはない。
それよりも私は広瀬さんの事が気になる。ダイヤモンドを回る彼女の姿を目で追ってしまう。
勝負にも試合に負けた? そんなことはもうどうでもいい。
ただ、私は確信した。
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