ドラゴンに育てられた少年、生みの親を探して旅に出る

千耀

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第2章 オークハート領編

5 解体

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 男爵の求めに応じたテオドールは、魔獣の肉を領民に分け与えることになった。
 すると周りにいた人たちが彼を取り囲み、次々と感謝や賞賛の声を浴びせた。
 だが当の本人は、みんなが喜んでいる理由がわからず、困惑ぎみである。
 
「テ、テオドールさん……さっきは叩いてしまい、本当にごめんなさい」

 グレース夫人に促されて、エレナは申し訳なさそうに謝った。
 
「先ほどは娘が、無礼な振る舞いをしてしまい、本当にごめんなさいね。エレナは勘違いで、あなたを叩いてしまったの。本人も心から反省しているので、許してあげて」
「許す? どうして? オレ、怒ってない」
「だって私、酷いこと言って思い切り叩いたわ。テオドールさんは、何も悪くないのに」
「勘違い。だから問題ない」

 叩かれても痛くはなかったが、エレナが怒っていたことを、テオドールは気に掛けていた。
 だから勘違いで怒っていたとわかり、彼は顔をほころばせる。
 
「でも――」
「おい、おい、おい。驚いたね。こりゃ。こんなバケモノ、よく仕留められたな」

 そこに料理長のグスタフがやってきて、ジャイアント・ボアを見るなり驚きの声を上げた。
 40歳になる彼は、執事・アルフレッドの息子であり、侍女・ソフィーの父親である。
 ジャイアント・ボアを解体するため、厨房にいたグスタフをソフィーが呼んできたのだ。

「此処じゃ解体はできないから、こいつを解体小屋へ運んでくれ」

 グスタフが徴集兵たちに指示すると、みんなはテオドールに期待の眼差しを向ける。
 
「テオドール君。お願いできるかな?」

 みんなを代表して男爵が依頼すると、
 
「うん。どこへ運ぶ?」

 テオドールがジャイアント・ボアを運ぼうとするのを見て、一人事情を知らないグスタフが徴集兵たちに、
 
「おい、お前ら。何をぼーっと見てやがんだ。お前らも一緒に運べえええええぇっ!?」

 テオドールが魔獣を担ぎ上げたのを見て、驚愕するグスタフ。
 他の人たちは驚きながらも、半信半疑だったテオドールの言葉が、真実だったと確信した。
 テオドールは男爵に案内されて、魔獣を解体小屋に運んだ。
 グスタフは小屋に向かいながら、父のアルフレッドから詳しい話を聞いて、さらに驚く。
 男爵からグスタフが、料理をつくると聞いたテオドールは、
 
「肉の煮込み、食べたい!」
「解体が終わってからだ」
「いつ終わる?」
「どんなに頑張っても、1日は掛かるだろう。ジャイアント・ボアの皮は、とても硬いからな。明日は筋肉痛で動けなくなりそうだぜ」

 グスタフは、はぁと溜息を漏らした。
 
「オレがやる。どうすればいい?」
「駄目だ。解体にはコツがいる。力任せにやっても、刃が折れてしまうからな」

 テオドールは、父竜から貰った鱗を、腕輪にして嵌めている。
 人間にとって竜の鱗は、とても価値があり高価なので、誰にも見せてはいけないと教わっている。
 テオドールは小屋を出て裏にまわり、人がいないのを確認して腕輪を外すと、解体用の刃物に変化させて、みんなのもとへ戻った。
 内臓を取り出すため、魔物の腹を切り開こうと、四苦八苦するグスタフ。
 彼が使う解体用の刃物は、手入れが行き届いているので、切れ味はいいが、それでもジャイアント・ボアの皮は硬くて、思うようには切れない。
 
「ナイフ、持ってきた。オレがやる」
「そんな薄っぺらい刃じゃ、簡単に折れちまうぞ。ジャイアント・ボアの皮は硬いって言っただろ」
「大丈夫。このナイフ、絶対に折れない」

 テオドールが譲らなかったので、グスタフは根負けして、やらせることにした。
 解体の難しさがわかれば、諦めるだろうと考えたのも束の間、テオドールは軽く刃物を一閃させて、魔物の腹を切り開いてしまう。
 一瞬の出来事で、何が起こったのかわからず、あんぐりと口を開けて、呆然とするグスタフ。

「次、どうすればいい?」
「お、おい。その刃物、一体どうしたんだ? 国宝級、いや、それ以上の価値があるぞ。あんた異国人らしいが、もしかして王族なのか?」

 テオドールは首を横に振って、

「父ちゃんがくれた」
「父ちゃん?」
「早く食べたい。次! 次!」

 内臓の取り出しや皮剥ぎ、分割など、グスタフの指示に従い、テオドールは手際よく処理していく。
 ジャイアント・ボアは、肉以外にも、ラードや皮、牙など余すところなく利用される。
 牙を切り落としても、刃こぼれ一つしないテオドールの刃物に、グスタフだけでなく男爵たちも驚きを隠せない。
 
 一通り解体作業が終わると、男爵の指示で徴集兵たちは、領民に肉を配って回り、グスタフは調理に取り掛かった。
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