ドラゴンに育てられた少年、生みの親を探して旅に出る

千耀

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第4章 近衛騎士団編

9 セリーヌ王女

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 王女は小動物のように震え、涙を零しながら外に目を向けると、大きな鳥らしきものが、飛んでくるのが見えた。
 その直後、御者の悲鳴と共に馬車は急停車した。

「何をしているのだ!」

 馬車の中からジェロームが、御者を怒鳴りつける。

「空から男が降ってきたんです」
「何を訳のわからないことを抜かしておるのだ」

 男たちが馬車から降りると、前方にテオドールが立ち塞がっていた。

「どうして近衛が此処に!? 奴を殺せ!」

 テオドールに顔を見られたジェロームは、生かしてはおけぬと、手下に殺害を命じた。
 得物を手に大男と御者の三人が襲い掛かるも、テオドールに殴り飛ばされて、ジェロームの上に積み重なっていく。
 白目を剥いて気絶した三人の下敷きになり、ジェロームは身動きできない。
 テオドールは男たちを、馬車に積んである縄で捕縛した。
 女の手下は、王女の口を塞いで喋れないようすると寄り添って、共に攫われた被害者の振りをする。
 そしてテオドールが馬車に乗り込むと、女二人は隠し持っていたナイフで、同時に襲い掛かった。
 ナイフが顔に突き刺さる寸前で、テオドールは女二人の手を掴んで防いだ。
 そのまま女二人を馬車から引きずり出すと、伸して捕縛した。
 再び馬車に乗り込んだテオドールは、

「助けに来た。もう大丈夫」

 と、蒼白になり慄く王女の縄をナイフで切った。
 すると王女はテオドールに抱きつき号泣した。


     ◇◆◇◆◇


 宮殿に戻る途中でレオンハルトは、数名の敵に足止めを食らっていた。
 一刻の猶予もないが、此処で敵を倒さなければ、王女が見つかる危険がある。
 だが敵は距離を取り、まともに戦おうとはしなかったので、苦戦を強いられた。
 しばらく膠着状態が続いたあと、敵は湖とは逆方向へ逃げ去ったので、レオンハルトは宮殿に急いだ。
 そして建物の入り口で警備している団員に、

「賊が宮殿に侵入したと聞いた。陛下は無事か?」
「宮殿の周囲に警備を配置していますが、賊が侵入したという情報はありません」
「なんだと!?」

 レオンハルトは宮殿に入り、国王のもとへ向かったが、賊が侵入した形跡はなかった。
 家族の間で国王夫妻の無事を確認したレオンハルトは、そこでようやく嵌められたことに気づいた。
  
「レオンハルトか。セリーヌは無事か?」

 レオンハルトは、国王の問いかけに答えず、走り去って建物の外に出ると、数名の部下を引き連れて、馬で湖畔の小屋へ急行した。
 小屋の中や周辺を手分けして探すも人影は見当たらず、レオンハルトは全身から血の気が引くのを覚えた。
 しばらくして部下が、真新しいわだちを発見したというので、そこへ向かい調べた。
 不自然な場所に轍があり、王女が馬車で連れ去られたのは明白だった。
 
「団長、何者かが此方に向かってきます」

 敵かもしれないと、団長たちは警戒して身構える。
 だがすぐに、王女を抱きかかえたテオドールが、駆けてきたのだとわかった。

「王女殿下は、御無事か!?」

 レオンハルトは馬で駆け寄りながら叫んだ。
 するとセリーヌは顔を上げて、

「私なら大丈夫です」

 しっかりした声で答えたので、レオンハルトは胸をなでおろした。
 テオドールが敵を捕縛したというので、レオンハルトは数名の部下を現場に向かわせた。

「テオドール、御苦労だった。馬車を呼ぶから、もう王女殿下を降ろしていいぞ。詳しい話は、馬車の中で聞く」

 レオンハルトがテオドールを労うとセリーヌは、

「わざわざ馬車を呼ばなくても、もうすぐ宮殿なので、このままで構いませんわ」
「ですが、その体勢では、お辛いでしょう」
「いいえ。平気です。快適というか、全然辛くないので――」

 まるで降りたくないとばかりに、テオドールにしがみつくセリーヌ。

「わかりました。王女殿下がそう仰られるのなら。テオドール。済まないが、そのまま宮殿まで王女殿下を運んでもらえるか?」
「問題ない。王女殿下、とても軽い」

 セリーヌの要望により、テオドールたちはゆっくりと宮殿に向かった。
 その道すがらテオドールは、レオンハルトに経緯を報告した。
 
 複数の場所で爆発音がしたので、テオドールは状況を把握しようと、宮殿の天辺によじ登り、屋根の上から周囲を確認した。
 緋竜山の崖を昇り降りして、鍛えていたテオドールにとって、宮殿をよじ登ることは容易いことである。
 湖の方に目を向けたテオドールは、王女が馬車で攫われるのを目撃。
 テオドールは、馬よりも速く走れるが、一刻を争う状況なので、腕輪状の鱗を翼に変化させて、飛んで追いかけた。
 でも鱗のことは秘密なので、走って追いかけたことにした。
 そしてすべての敵を捕縛して王女を救ったのである。
 だが拘束を解かれた王女が、テオドールに抱きついて号泣したまま、離れなくなってしまう。
 困ったテオドールは、馬車を扱えないのもあり、王女を抱きかかえたまま走ってきたと、レオンハルトに説明した。
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