ドラゴンに育てられた少年、生みの親を探して旅に出る

千耀

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第7章 エルデン帝国編

7 撤退

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 偽ゼウス皇帝ブリギッタは感情的になり、思わず隠していた尻尾を動かしてしまった。
 それに気付いた宰相が偽ゼウス皇帝の背後をのぞき込んだ。
 慌てて偽教皇ヴェラントが宰相の前に出て、
 
「それは私が連れてきた愛玩獣ですよ。室内を自由に動き回っているので、それが目に入ったのでしょう」

 教皇が肩に小動物を乗せてきたのを思い出し、宰相は納得した。

「無駄口を叩いてないで、早急に撤退の手配をしろ。ドラゴニア王国の民に害を加えてはならぬと、各国の軍に周知させるのだ。従わなければ敵対行為とみなし、エルデン帝国が鉄槌を下すとな。それから教皇と大事な話があるので、許可するまで誰もこの部屋に近づけるな」

 偽ゼウス皇帝が強い口調で命じると、宰相は御意と返事して退室した。


     ◇◆◇◆◇


 緋竜山では、帝国軍がジワジワと進軍し、毒矢を警戒して一定の距離をとるテオドールは、徐々に後退させられていた。
 男爵領のあちこちから火の手が上がり、建物が焼き払われ破壊活動が行われているのが見えた。
 テオドールは男爵一家のことが気がかりで、すぐにでも飛んでいきたかったが、眼前の敵を捨て置くわけにもいかなかった。
 覚悟を決めて眼前の敵に攻撃を仕掛けようとした時、
 
「皇帝陛下の命令だ。早急に撤退せよ!」

 隊長の命令により、帝国軍が撤退を開始した。

『……どうやら、父ちゃんと母ちゃん。上手くいったようだな』

 そう呟いてテオドールは、ほっと胸をなでおろした。


     ◇◆◇◆◇


 帝国軍により領民の血と汗の結晶である建物や農作物が焼き払われるのを、男爵は看過できなかった。
 領民は避難して無事だが、帝国軍の撤退が遅れて領地が破壊されたら、人々の生活が立ち行かなくなる。
 少しでも被害を減らそうと男爵は、200名ほどの兵を引き連れて、帝国軍のもとへ向かった。
 
 男爵は敵の猛者ドゥランと剣を交えるも、力で圧倒され弾き飛ばされてしまう。
 倒れ伏す男爵を討ち取ろうと、ドゥランは大剣を振り上げた。
 そこに鱗の翼で飛んできたテオドールが、急降下しながら翼を剣に変化させドゥランの大剣を両断した。
 地に降り立ったテオドールは、ドゥランを正面から思い切り蹴り飛ばした。
 身の丈2m越え、体重150kgの巨漢ドゥランが後方にぶっ飛び、帝国軍の兵数名を圧し潰した。
 近接戦では敵わないと見た帝国軍は、前衛を撤退させ弓兵を前面に出した。
 男爵を矢から守るためにテオドールが身構えた時、帝国軍の隊長に撤退命令が届いた。
 帝国軍が撤退していき、テオドールは安堵のため息を漏らす。
 もし一斉に矢が放たれたら、味方の全員男爵と200名の兵を守り切れなかったからだ。


     ◇◆◇◆◇


 侵攻を続けていたノーザン王国軍とハーランド王国軍は、ドラゴニア王国を蹂躙していった。
 破壊活動や略奪が行われ、平民の男は殺されて女は凌辱されたのである。
 しかし撤退が命じられると、売買のために捕らえられた女子供は全員解放され、両国の軍隊は速やかに退却した。


     ◇◆◇◆◇


 翌日、偽ゼウス皇帝のもとに、各国の軍隊が撤退したとの報が届いた。

『アンタ。これからどうする?』
『当面、皇帝と教皇の死は隠しておいたほうがいいだろう。二人の死が各国に知られたら、侵略の抑止力が失われるかもしれない』
『そうだね。妾はテオたちが心配だから、いったん緋竜山に帰るので後は頼んだよ』

 ブリギッタがいない間は、ヴェラントが偽ゼウス皇帝と偽教皇の二役を演じる。

 緋竜山では火竜たちが総出でブリギッタを迎えた。
 その後テオドールは、母竜ブリギッタの魔力をコップで飲みながら、

『――男爵と数十名の兵士が負傷したけど、大事には至らなかったよ』
『それじゃ、男爵邸へ飯を食いに行くついでに、男爵にも魔力を分けてやるかね』
『母ちゃん、ついでって……だけど魔力は大丈夫なの?』
『ああ、かなり回復している。帝国で美味いもん、たらふく食って十分に休んだからね』

 翌日、ブリギッタは、テオドールとフレアを乗せて男爵邸に向かった。
 アルフレッドに大広間へ案内されると、男爵がいたのでジュリエットは、

「テオから負傷したと聞いたが、大丈夫そうだな」
「ええ。痛みはあるけど、大したことはないです。それよりも陛下から勅命が届いて、王城で功労を称え労う式典が行われるので、ジュリエットさんとテオドール君にも参列してほしいとあります――」

 男爵に懇願され、ジュリエットとテオドールは式典に参列することになった。
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