推しの運命を変えるため、モブの俺は嫌われ役を演じた

月冬

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# 第1章 俺はモブだ。

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ここは、俺が前世でやり込んだBLゲーム
『聖魔学園クロニクル』の世界。

そう理解したのは、わりと早かった。

そして俺は、名前も立ち絵もないモブ。

……の、はずだった。

「玲《れい》」

呼ばれて振り向く。

銀色の髪。紫の瞳。
名門貴族の養子。
攻略対象の1人。

レオン・ヴァルディエール。
本来なら、孤立する男。
強大すぎる闇属性の魔力を宿すがゆえに恐れられ、孤立し、
最終的に主人公・ノアに救われる存在。
それが、正史。

「また一人でいるのか」

「うるさいな。お前だって一人だろ」

言い返すと、レオンは少しだけ笑った。

ほんのわずかに口元が緩む。

ゲームの中では、こんな顔は見たことがない。
ゲームの中の彼は、もっと冷たくて、もっと他人を拒絶していた。
こんなふうに、誰かに向けて柔らかく笑うことなんてなかった。

(……世界観、変わってないか?)

俺といる時間が増えてから、彼は少しずつ柔らかくなった。

昼休み。
放課後の訓練。
なんでもない廊下の立ち話。

少しずつ、少しずつ。
彼の空気が変わっていった。

昼休み。
魔力制御の訓練を終えたあと、俺たちはいつもの場所に座る。

「なあ玲」

「ん?」

隣から低い声。

「……俺の力、やっぱり気味が悪いか?」

心臓が、嫌な音を立てた。

原作イベント前。
その問いは軽く聞いているようで、本当はずっと抱えているものだと分かる。
彼はずっと、誰にも見せない顔で、こんなふうに揺れている。

「別に。すげぇ力じゃん」

できるだけ、いつも通りに言う。

特別扱いしない。
哀れまない。
怖がらない。

「……本気で言ってるのか?」

紫の瞳が、まっすぐ俺を見る。

縋るみたいな視線。

「じゃなきゃ言わねーよ」

そう返すと、レオンはしばらく黙って――
ゆっくり視線を逸らした。

耳が、ほんの少し赤い。

その変化に気づいてしまう。

(やめろ)

胸の奥でブレーキがかかる。

俺はモブだ。

ノアじゃない。

選ばれるのは主人公。
闇を包み込む存在。

分かってる。
分かってるのに。

もし。

ほんの少しでも。

この時間が続けばいいと、思ってしまった。

もしかしたら。

ほんの一ミリでも。

俺が“選ばれる側”になれるんじゃないかと。

そんな、馬鹿みたいな希望が胸の奥で芽を出しかける。
そんな希望を、持ってしまった。

――モブのくせに。

期待するな。

自分に何度も言い聞かせながら、
俺は隣に座る距離を、ほんの少しだけ縮めた。
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