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本番はこれから

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 さて…人もいなくなったことだし腰抜けのフリはここまでにして…


「おい!狸じじぃ!死んだフリしても無駄だ。貴様はその程度じゃくたばらないだろう?」


 ミリアと名乗る女騎士が切ったのは頭部の上半分だけ。こいつの場合下半分が無事なら死にはしないだろう。


 おそらくあのままではどうあがいても勝てないと悟りワザと頭部を切らせ死んだフリをして隙をうかがっていたのだろう。だが俺は騙せないぞ。


「くくく…まさかこのワシの擬態を見破るとはな!その通りじゃ。この程度の傷など一時間もすれば完治するがそれでも恐れ入ったわい。なにものじゃ!」


 見た目的には頭部がないサソリがハサミで自分の頭部を拾い上げこちら側に身体を移動し視線らしきものを向けてくる。


 まるで首無し騎士のディラハンだな。不気味な奴だ。


「名乗るほどでもないただの勇者パーティを追放された腑抜けで腰抜けな鍛冶師だよ。」


「ふぉふぉふぉ。こんな有能な奴を追放するとはとんだ間抜け勇者パーティもあったものじゃの。」


 デススコーピオンは手に持った自分の頭を振り回しながら笑い答える。


「おーわかってくれるか!?まさか俺の最初の理解者がお前みたいな化け物だとはな。嬉しくて涙が出てくるぜ。」


 もちろん皮肉だ。実際は人間の理解者がいないことに悲しくて泣きそうだ。


「人間なんぞ実力で相手を見極めない愚か者だからな。有能なものほど迫害されるものよ。そこでおぬしに頼みたいのじゃがわしのことを見逃してはくれんかの?」


 ホント人間には欲に目が眩んだ馬鹿が多いからな。直接俺が襲われたわけでもないし正直見逃してやっても良いかななんて思わなくはないが…


「悲しいかな。それは出来ない相談だ。俺も唯一の理解者を手に入れて早速でその相手を殺さなきゃいけないなんてホント心苦しいが食人種の化け物など俺も人間である以上生かしてはおけないのでな。」


 そう言って俺は腰の剣に手をかける。


「そうかいのぉ?ワシが殺す人間なんて年間1000人程度だと言うのに…お前ら人間の国王だとかは年間『直接』『間接』含め自分の欲望のために10000人は殺してるだろうに。そう言うやつこそ人類の敵だと思うがな。つれないのぉ…年寄りをもっといたわってほしいわい。」


 デススコーピオンの国王という言葉に少し胸がざわつく…先祖からの血がそうさせるのかそれとも俺自身がされたことに対しての憤りか。


「これだから年寄りは困る。弱者の振りして実に老獪。確かに国王のがお前より人を殺しているかもしれないがだからと言ってお前が年間1000人殺してる事実は変わりない。論点をずらして無罪を主張してもそうは行かないぞ?」


 俺は静かに鞘から剣を抜く。
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