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若衆
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浅草は達磨長屋に、若ぇ衆がひとり越してきやした。
大家の凸凹《デコボコ》の話じゃ、これがまぁ~なかなかの美男の二枚目のお職人だってんで。
するとどうです、長屋の女房連中、早速に井戸端会議で大盛り上がり。
「どこから来たんだろうねぇ?」
「なんでも職人らしいよ~」
「職人ったっていろいろあらぁね・・大工に佐官、指物師なんざ粋じゃないかい」
「染物師もいいわねぇ~」
てな調子で盛り上がってるところへ、婆さん連合の頭《かしら》、お熊婆ぁが割り込んできやして。
「おやおやお前さん方、何をコソコソしてんだい?」
「あら丁度よかったわお熊婆ぁ、いま噂の二枚目の話してたのよ」
「あぁあの若ぇのかい。昨夜《ユンベ》、わしんとこに挨拶に来ただよ」
「えぇ!? それで、顔は? 顔はどうだったの婆ぁ!」
「団十郎ってほどじゃねぇが、中村屋……ってほどでもねぇな。まぁ三津五郎てぇ感じかね。わしが二十若けりゃ誘っちまうよ」
これを聞いた女房衆、一斉に「きゃぁ~!」ってんで腰をくねらせる。そこらの井戸水まで熱気で湯気立ちそうな騒ぎ。
と、そこへ――
「みなさん、お騒がせしておりやす。新参者の清太と申します」
振り返れば、浅黒い肌にキリッとした目元、浴衣姿の若ぇ衆。まさしく噂の二枚目!
女房連、「はぁあぁ……」とため息の合唱。
「三津五郎どころじゃないわよ、菊五郎だわ~!」
「ちょっとお松、胸元見すぎだよ!」
そこへまた凸凹が団扇片手にひょっこり現れて、
「おう清太、ちょうどいい。おめぇの職を言ってやんな!」
女房連中、耳がピンと立つ。清太、ちょいと照れて口を開きやす。
「へぇ……あっし、花火師でござんす」
「は、はなびし!? あの空にドンと上げる花火!?」
「へぇ、親方について江戸じゅうの祭りを回ってまして、今度は隅田川の仕込みで……」
その途端、女房衆の目がギラッギラ。
「男前な上に、空に夢を打ち上げるだなんて……もう素敵すぎる~!」
と、お松がうっかり口をすべらせる。
「それに比べりゃうちの亭主なんざ……しょぼい花火よぉ。最初だけは勢いよくって、すぐパァって……ねぇ」
「お松っ! 言っちゃったよ!」
極めつけにお芳が上目遣いで、
「ねぇ清太さん、あたしの名前の花火……打ち上げてくれる?」
「はは、こりゃ照れますが……今度の隅田川で達磨長屋のために一発、仕込んでおきやすよ」
で、迎えた隅田川の大花火大会。
夜空に大輪の花火がドン、ドンと咲くなか、ひとつだけ異色の花火が。
赤く、丸く、ニッコリ笑った……達磨の顔!
「うわっ、達磨だ!」
「これ達磨長屋の花火だぁ!」
「粋だねぇ、乙だねぇ、清太さん!」
そりゃぁもう大喝采。
長屋衆が口々に褒めそやすと、清太、浴衣の裾をキュッとたくし上げて、にっこり笑って言いやした。
「実はあっし・・こう見えて女でござんす」
長屋女房連・・ドッと驚く。
「ええっ!? 二枚目だと思って惚れ惚れしてたのに、女だったのかい!」
「でもさぁ・・それならそれで、なおさら粋だねぇ!」
井戸端の女房衆は「まぁ~、やられたねぇ」と顔を見合わせ、
お熊婆ぁがまとめにかかりやしたら!
「男も女も関係ねぇ、花火ってぇのは粋で上げるもんさね!」
おあとがよろしいようで。
おわり
大家の凸凹《デコボコ》の話じゃ、これがまぁ~なかなかの美男の二枚目のお職人だってんで。
するとどうです、長屋の女房連中、早速に井戸端会議で大盛り上がり。
「どこから来たんだろうねぇ?」
「なんでも職人らしいよ~」
「職人ったっていろいろあらぁね・・大工に佐官、指物師なんざ粋じゃないかい」
「染物師もいいわねぇ~」
てな調子で盛り上がってるところへ、婆さん連合の頭《かしら》、お熊婆ぁが割り込んできやして。
「おやおやお前さん方、何をコソコソしてんだい?」
「あら丁度よかったわお熊婆ぁ、いま噂の二枚目の話してたのよ」
「あぁあの若ぇのかい。昨夜《ユンベ》、わしんとこに挨拶に来ただよ」
「えぇ!? それで、顔は? 顔はどうだったの婆ぁ!」
「団十郎ってほどじゃねぇが、中村屋……ってほどでもねぇな。まぁ三津五郎てぇ感じかね。わしが二十若けりゃ誘っちまうよ」
これを聞いた女房衆、一斉に「きゃぁ~!」ってんで腰をくねらせる。そこらの井戸水まで熱気で湯気立ちそうな騒ぎ。
と、そこへ――
「みなさん、お騒がせしておりやす。新参者の清太と申します」
振り返れば、浅黒い肌にキリッとした目元、浴衣姿の若ぇ衆。まさしく噂の二枚目!
女房連、「はぁあぁ……」とため息の合唱。
「三津五郎どころじゃないわよ、菊五郎だわ~!」
「ちょっとお松、胸元見すぎだよ!」
そこへまた凸凹が団扇片手にひょっこり現れて、
「おう清太、ちょうどいい。おめぇの職を言ってやんな!」
女房連中、耳がピンと立つ。清太、ちょいと照れて口を開きやす。
「へぇ……あっし、花火師でござんす」
「は、はなびし!? あの空にドンと上げる花火!?」
「へぇ、親方について江戸じゅうの祭りを回ってまして、今度は隅田川の仕込みで……」
その途端、女房衆の目がギラッギラ。
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と、お松がうっかり口をすべらせる。
「それに比べりゃうちの亭主なんざ……しょぼい花火よぉ。最初だけは勢いよくって、すぐパァって……ねぇ」
「お松っ! 言っちゃったよ!」
極めつけにお芳が上目遣いで、
「ねぇ清太さん、あたしの名前の花火……打ち上げてくれる?」
「はは、こりゃ照れますが……今度の隅田川で達磨長屋のために一発、仕込んでおきやすよ」
で、迎えた隅田川の大花火大会。
夜空に大輪の花火がドン、ドンと咲くなか、ひとつだけ異色の花火が。
赤く、丸く、ニッコリ笑った……達磨の顔!
「うわっ、達磨だ!」
「これ達磨長屋の花火だぁ!」
「粋だねぇ、乙だねぇ、清太さん!」
そりゃぁもう大喝采。
長屋衆が口々に褒めそやすと、清太、浴衣の裾をキュッとたくし上げて、にっこり笑って言いやした。
「実はあっし・・こう見えて女でござんす」
長屋女房連・・ドッと驚く。
「ええっ!? 二枚目だと思って惚れ惚れしてたのに、女だったのかい!」
「でもさぁ・・それならそれで、なおさら粋だねぇ!」
井戸端の女房衆は「まぁ~、やられたねぇ」と顔を見合わせ、
お熊婆ぁがまとめにかかりやしたら!
「男も女も関係ねぇ、花火ってぇのは粋で上げるもんさね!」
おあとがよろしいようで。
おわり
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