越後昔噺

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儂が〜

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儂が八のときじゃった。

越後から信州に抜ける道すがらに姉さまが儂に先に行けと言った。

儂はまだ八《ヤツ》なればそれはもう心もとなく難儀なことやった。

春とは言え越後から信州に抜ける山路はまだまだ雪が深くてのぉ。

「嫌じゃ・・姉さまと一緒に行くんじゃ!」

儂が姉さまに言っても姉さまは首を振っては先に行け・・と言うとった。

姉さまが言う!

「ここから数町に小さな祠が有る・・そこに行け!」
「なぁに心配するな俺は後から行くから決してお前を見捨てることはない!」

儂は姉さまの言う通りに雪路を歩いて行っただよ。

辺りが薄暗くなってやっと祠の灯りが見えたんじゃのぉ。

儂が祠に入ったときにはもう真っ暗な闇夜でのぉ!

儂が姉さまを待っていたら修験道者が来よった。

修験道者は歳の頃なら齢還暦なくらいの爺さまじゃった。

爺さまの修験道者は儂に頭を下げてから座り腕を組んでおった。

一刻も過ぎては姉さまがどうなったのか儂は気を揉んでおったんじゃ!

そんな儂を見てのぉ~!

「これ坊こっちに来てはお互いの身体を併せては少しでも暖をとろうてぇ」

そう言うと爺さまの修験道者は儂の襟首を引っ張って側に引き寄せた!

それから儂に言った!

「ここに結界を張るでなぁ・・結界を張ったら一言も言葉を発しては遺憾ぞ!」

「でも姉さまがこっち向かっておるんじゃ」

そう言いかけた儂の口を、爺さまの修験道者はそっと掌で塞いだ。
その手は、生きた人のものとは思えぬほど冷たかった。

「言うてはいかん・・来るのは姉御ではない」

そう囁いた爺さまの声が、祠の闇に吸い込まれたその時じゃ。

外でのぉ・・・!
ずる・・・ずる・・ずる

と、雪を引き摺る音がしとおった。

儂は思わず立ち上がろうとしたが、修験道者の爺さまが腕が鉄のように硬く儂を押さえつけた。
祠の入口の外、雪明かりに照らされて、影が揺れた・・・!

「坊・・・よう聞け」

修験道者の爺さまは低く儂に言った。

「お前の姉は、もう峠を越えとらん」

影が、一歩、また一歩と近づく。

その足取りは、姉さまが歩く癖と寸分違わぬのに・・?

音だけが、人のものではなかった。

「・・・八つの子を一人で山路を行かせる姉など、この世にはおらん」

「それでも先に行けと言うた時点で・・・もう・・な・・姉御は人では無い!」

その瞬間、祠の戸が!

       「コツン」

と叩かれた。

「・・弟《オジ》やぁ・・寒いでよぉ・・俺は心底寒い」

姉さまの声じゃった。
間違いなく、姉さまの声じゃった。

儂は叫びそうになった。
だが爺さまの言葉が、胸に杭のように突き刺さった。

「声に応えたら、結界は破れる」
「破れたら・・・お前も・・向こう・・へ行く」

戸の隙間から、白い指が差し込まれた。
指は六本あった。
爪は黒く、雪に濡れておらなんだ。

「弟《オジ》一緒に行こう・・俺と一緒に」
「姉さま、独りは寂しい・・・」

儂は歯を噛み締め、涙を噛み殺した。
声を出したら、すべてが終わると分かっとった。

やがて!
雪を引き摺る音は、遠ざかっていった。

朝になり、結界が解けた頃、爺さまはもう動かなくなっておった。

まるで夜の間に、命を燃やし尽くしたように。

峠を越えた先で見つかった姉さまの骸は、
儂とは逆の方向を向いて倒れておったんじゃ。

今でも春先、雪の残る山道を通るとのぉ~
祠の辺りから、幼子を呼ぶ声がすると言う!

「先に行け・・俺は・・すぐ追いつくから・・・」

あれはきっと、何かを察して姉さまが犠牲になったと思うでのぉ。

だがのぉ~!
儂を探し続けておる・・何か・・なのじゃ。

そして儂は今も、
あの夜、声を返さなかったことを・・・?

悔いておるのか、救われたのか、分からずにおる。

はいおしまい爺《ジジ》の話しはおしまいじゃ!

早よ寝た寝た!

をわり








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