個生院の患者のみなさん

さとう たなか

文字の大きさ
1 / 11

1-1 澄田優希さんのお話

しおりを挟む
朝早くに俺は駅の送り迎え専用駐車場に立っていた。
人通りの多くない日本の田舎駅だった。俺のすぐ近くで知らない制服を着た学生が車から降りていったり、子供を連れた母親が降りていったり…。そのときだけ駅は賑やかになるけど、あとは鳥の鳴き声と駅の前を通る車の音しか聞こえない。
俺はここである人と待ち合わせをしている。
高校で部活動をしていて私服は全く無い俺は、学校名をじろじろと見られるのも嫌だったから母親から買ってもらったジャージを着て、スポーツバックに着替えと少しのお金を詰めて、前日に駅近くのビジネスホテルに泊まり今朝9時30分にはチェックアウトを済ませた。
通常だったらこの日も部活動で学校に行っているけど、そんな中自分一人だけ旅行気分を味わっている······そう考えると高揚した。
もちろん、部活の顧問の先生にはきちんと連絡をしている。家族にも、一応。
···時計を見た。9時40分。
10時に迎えに来ますと相手からメールをもらった。まだ時間がある。今いる駅は大きくは無いが、コンビニ、立ち食いそば屋が建物の中にはある。何か食べておこうと俺は辛うじて開いていたコンビニで時間をつぶすことにした。



コンビニでおにぎりを二つ買ってさっきまでいた場所に戻ると、10人乗りのキャラバン車が一台止められその前に男性が一人立っていた。
俺はバッグからスマホを取り出してメールの確認をすると、「今、到着しました。緑のパーカーを着ている男です。見つかりましたら、予約したものですが。とお声がけください」とメールが来ていた。改めて男性を見ると、書かれていた緑のパーカーを着ている。俺が近づくと男性と目が合った。
30歳くらい?優しい目をした誠実そうな人だった。知らない人に声を掛けるのは今の時代勇気のいることだが、この人なら間違えても怒られなさそうだと、俺は判断してその人に声を掛けた。

「あの、」

その人が「はい」と優しい表情を向けてくれる。

「予約したものですが…」

俺が恐る恐る言うと、その人ははっとした表情で、「お待たせしました、澄田優希すみたゆうきさん」とお辞儀をした。そして頭を上げて、

「本日は、当院をご予約していただきましてありがとうございます」

と微笑みながら言った。

「あっ、私…」とその人はたすき掛けにしていたボディバッグをくるくると前に回して中から、名刺入れを取り出す。

「副院長の、進導栄道しんどうさかみちと申します」

さくら第一個生院
副院長 進導栄道
専門医として、不思議な症状にお悩みな方の手助けをさせて頂きます。

と、その人からもらった名刺には書かれていた。
さくら第一個生院。
『体から花が咲く、背中に翼が生えて困っている、水の中でしか息ができない、書いたことが現実になる…など、ここは不思議な症状でお悩みの方の為の施設です。当院ではそれらの症状を病気とせず、個性として考え、その改善、患者様のため、社会のために生かす方法を一緒に考えます。』
ここにくる前に、俺がホームページで見た内容はこのようなものだった。
内容を見る限りは関わらない方が良いとは思ったけど。
突然起こったこの症状、初め母親に打ち明けた。
一緒にたくさんの病院をまわって診察、処方箋を貰ったけど、症状は一向に改善しなかった。それで最後に行きついたところがこの個生院という、病院のような、そうでないような所だった。
母親には止められたけど、もう、なんでもいいから治して欲しかった。

「よろしくお願いします、進導先生」

「はい。では、行きましょうか」

先生はさくら第一個生院とステッカーが貼られたキャラバンの後ろのドアを開いた。
俺は運転席すぐ後ろの二人席、窓側の席に座った。先生がドアを閉めると、車の前を通り運転席に乗った。先生がシートベルトをしたのに合わせて俺もシートベルトをする。エンジンがかかる音がすると車はゆっくり動き出す。
駅から道路に出る所。道が左右正面の3つに分かれている。先生が左右を確認する。駅の周りはお店が密集していてそれを利用する人なのか、道路を走る車の量はまあまあ多く感じた。
車が慎重に動いていくと横からピーッとクラクションを鳴らされた。

「わっ!びっくりした!」

先生は反射的に身を引くと、「すみません…」と先生は肩をすくめながら小声で、すでに去ってしまった相手の車に謝り、先生の運転するキャラバンは逃げるように正面の道路に入って行った。

「ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたね、」

運転席の先生が正面を見ながら頭を下げた。

「いえ、大丈夫です」

「運転するの久しぶりで···、少し荒い運転になるかもしれませんが、事故は絶対に起こしませんので安心してください。さっきので感覚を取り戻しましたから」

先生は明るく言ってくれたが不安でしかない。症状を無くす前に命が無くなってしまっては意味がないぞ。
口には出さなかったけど、俺は運転席越しに先生をにらみつけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...