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1-1 澄田優希さんのお話
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朝早くに俺は駅の送り迎え専用駐車場に立っていた。
人通りの多くない日本の田舎駅だった。俺のすぐ近くで知らない制服を着た学生が車から降りていったり、子供を連れた母親が降りていったり…。そのときだけ駅は賑やかになるけど、あとは鳥の鳴き声と駅の前を通る車の音しか聞こえない。
俺はここである人と待ち合わせをしている。
高校で部活動をしていて私服は全く無い俺は、学校名をじろじろと見られるのも嫌だったから母親から買ってもらったジャージを着て、スポーツバックに着替えと少しのお金を詰めて、前日に駅近くのビジネスホテルに泊まり今朝9時30分にはチェックアウトを済ませた。
通常だったらこの日も部活動で学校に行っているけど、そんな中自分一人だけ旅行気分を味わっている······そう考えると高揚した。
もちろん、部活の顧問の先生にはきちんと連絡をしている。家族にも、一応。
···時計を見た。9時40分。
10時に迎えに来ますと相手からメールをもらった。まだ時間がある。今いる駅は大きくは無いが、コンビニ、立ち食いそば屋が建物の中にはある。何か食べておこうと俺は辛うじて開いていたコンビニで時間をつぶすことにした。
コンビニでおにぎりを二つ買ってさっきまでいた場所に戻ると、10人乗りのキャラバン車が一台止められその前に男性が一人立っていた。
俺はバッグからスマホを取り出してメールの確認をすると、「今、到着しました。緑のパーカーを着ている男です。見つかりましたら、予約したものですが。とお声がけください」とメールが来ていた。改めて男性を見ると、書かれていた緑のパーカーを着ている。俺が近づくと男性と目が合った。
30歳くらい?優しい目をした誠実そうな人だった。知らない人に声を掛けるのは今の時代勇気のいることだが、この人なら間違えても怒られなさそうだと、俺は判断してその人に声を掛けた。
「あの、」
その人が「はい」と優しい表情を向けてくれる。
「予約したものですが…」
俺が恐る恐る言うと、その人ははっとした表情で、「お待たせしました、澄田優希さん」とお辞儀をした。そして頭を上げて、
「本日は、当院をご予約していただきましてありがとうございます」
と微笑みながら言った。
「あっ、私…」とその人はたすき掛けにしていたボディバッグをくるくると前に回して中から、名刺入れを取り出す。
「副院長の、進導栄道と申します」
さくら第一個生院
副院長 進導栄道
専門医として、不思議な症状にお悩みな方の手助けをさせて頂きます。
と、その人からもらった名刺には書かれていた。
さくら第一個生院。
『体から花が咲く、背中に翼が生えて困っている、水の中でしか息ができない、書いたことが現実になる…など、ここは不思議な症状でお悩みの方の為の施設です。当院ではそれらの症状を病気とせず、個性として考え、その改善、患者様のため、社会のために生かす方法を一緒に考えます。』
ここにくる前に、俺がホームページで見た内容はこのようなものだった。
内容を見る限りは関わらない方が良いとは思ったけど。
突然起こったこの症状、初め母親に打ち明けた。
一緒にたくさんの病院をまわって診察、処方箋を貰ったけど、症状は一向に改善しなかった。それで最後に行きついたところがこの個生院という、病院のような、そうでないような所だった。
母親には止められたけど、もう、なんでもいいから治して欲しかった。
「よろしくお願いします、進導先生」
「はい。では、行きましょうか」
先生はさくら第一個生院とステッカーが貼られたキャラバンの後ろのドアを開いた。
俺は運転席すぐ後ろの二人席、窓側の席に座った。先生がドアを閉めると、車の前を通り運転席に乗った。先生がシートベルトをしたのに合わせて俺もシートベルトをする。エンジンがかかる音がすると車はゆっくり動き出す。
駅から道路に出る所。道が左右正面の3つに分かれている。先生が左右を確認する。駅の周りはお店が密集していてそれを利用する人なのか、道路を走る車の量はまあまあ多く感じた。
車が慎重に動いていくと横からピーッとクラクションを鳴らされた。
「わっ!びっくりした!」
先生は反射的に身を引くと、「すみません…」と先生は肩をすくめながら小声で、すでに去ってしまった相手の車に謝り、先生の運転するキャラバンは逃げるように正面の道路に入って行った。
「ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたね、」
運転席の先生が正面を見ながら頭を下げた。
「いえ、大丈夫です」
「運転するの久しぶりで···、少し荒い運転になるかもしれませんが、事故は絶対に起こしませんので安心してください。さっきので感覚を取り戻しましたから」
先生は明るく言ってくれたが不安でしかない。症状を無くす前に命が無くなってしまっては意味がないぞ。
口には出さなかったけど、俺は運転席越しに先生をにらみつけた。
人通りの多くない日本の田舎駅だった。俺のすぐ近くで知らない制服を着た学生が車から降りていったり、子供を連れた母親が降りていったり…。そのときだけ駅は賑やかになるけど、あとは鳥の鳴き声と駅の前を通る車の音しか聞こえない。
俺はここである人と待ち合わせをしている。
高校で部活動をしていて私服は全く無い俺は、学校名をじろじろと見られるのも嫌だったから母親から買ってもらったジャージを着て、スポーツバックに着替えと少しのお金を詰めて、前日に駅近くのビジネスホテルに泊まり今朝9時30分にはチェックアウトを済ませた。
通常だったらこの日も部活動で学校に行っているけど、そんな中自分一人だけ旅行気分を味わっている······そう考えると高揚した。
もちろん、部活の顧問の先生にはきちんと連絡をしている。家族にも、一応。
···時計を見た。9時40分。
10時に迎えに来ますと相手からメールをもらった。まだ時間がある。今いる駅は大きくは無いが、コンビニ、立ち食いそば屋が建物の中にはある。何か食べておこうと俺は辛うじて開いていたコンビニで時間をつぶすことにした。
コンビニでおにぎりを二つ買ってさっきまでいた場所に戻ると、10人乗りのキャラバン車が一台止められその前に男性が一人立っていた。
俺はバッグからスマホを取り出してメールの確認をすると、「今、到着しました。緑のパーカーを着ている男です。見つかりましたら、予約したものですが。とお声がけください」とメールが来ていた。改めて男性を見ると、書かれていた緑のパーカーを着ている。俺が近づくと男性と目が合った。
30歳くらい?優しい目をした誠実そうな人だった。知らない人に声を掛けるのは今の時代勇気のいることだが、この人なら間違えても怒られなさそうだと、俺は判断してその人に声を掛けた。
「あの、」
その人が「はい」と優しい表情を向けてくれる。
「予約したものですが…」
俺が恐る恐る言うと、その人ははっとした表情で、「お待たせしました、澄田優希さん」とお辞儀をした。そして頭を上げて、
「本日は、当院をご予約していただきましてありがとうございます」
と微笑みながら言った。
「あっ、私…」とその人はたすき掛けにしていたボディバッグをくるくると前に回して中から、名刺入れを取り出す。
「副院長の、進導栄道と申します」
さくら第一個生院
副院長 進導栄道
専門医として、不思議な症状にお悩みな方の手助けをさせて頂きます。
と、その人からもらった名刺には書かれていた。
さくら第一個生院。
『体から花が咲く、背中に翼が生えて困っている、水の中でしか息ができない、書いたことが現実になる…など、ここは不思議な症状でお悩みの方の為の施設です。当院ではそれらの症状を病気とせず、個性として考え、その改善、患者様のため、社会のために生かす方法を一緒に考えます。』
ここにくる前に、俺がホームページで見た内容はこのようなものだった。
内容を見る限りは関わらない方が良いとは思ったけど。
突然起こったこの症状、初め母親に打ち明けた。
一緒にたくさんの病院をまわって診察、処方箋を貰ったけど、症状は一向に改善しなかった。それで最後に行きついたところがこの個生院という、病院のような、そうでないような所だった。
母親には止められたけど、もう、なんでもいいから治して欲しかった。
「よろしくお願いします、進導先生」
「はい。では、行きましょうか」
先生はさくら第一個生院とステッカーが貼られたキャラバンの後ろのドアを開いた。
俺は運転席すぐ後ろの二人席、窓側の席に座った。先生がドアを閉めると、車の前を通り運転席に乗った。先生がシートベルトをしたのに合わせて俺もシートベルトをする。エンジンがかかる音がすると車はゆっくり動き出す。
駅から道路に出る所。道が左右正面の3つに分かれている。先生が左右を確認する。駅の周りはお店が密集していてそれを利用する人なのか、道路を走る車の量はまあまあ多く感じた。
車が慎重に動いていくと横からピーッとクラクションを鳴らされた。
「わっ!びっくりした!」
先生は反射的に身を引くと、「すみません…」と先生は肩をすくめながら小声で、すでに去ってしまった相手の車に謝り、先生の運転するキャラバンは逃げるように正面の道路に入って行った。
「ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたね、」
運転席の先生が正面を見ながら頭を下げた。
「いえ、大丈夫です」
「運転するの久しぶりで···、少し荒い運転になるかもしれませんが、事故は絶対に起こしませんので安心してください。さっきので感覚を取り戻しましたから」
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口には出さなかったけど、俺は運転席越しに先生をにらみつけた。
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