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「澄田さん、ご家族にはお話してこちらに来られましたか?」
ぱっとにらむのをやめて、先生からの質問の答えを考える。
「ええっと、スマホにメールは送っておきました」
ここに来る前もだが母親には反対された。胡散臭すぎる、危ない団体とかだったらどうするんだと許してもらえる様子もなかった。仕方なく内緒で先生とのメールのやり取りで病院の入院手続きと、さっきのような止まる場所の予約も自分でやってここに来てしまった。
「やっぱり反対されたんですか?」
わかっていたかのように聞いてきた先生。
「はい、」
先程からスマホには母親からの電話がひっきりなしにかかっていた。一度メールで大丈夫と送ったが、それでもかかってくる。
俺の反応を聞いて理解したように頷く先生。
「そうですよね、ホームページ見てもなんか怪しい感じしますよね。半年前にも澄田さんみたいに駅にお迎えに来たことがあったんですけど、女性の方。その方もご両親の反対を無視して来たみたいで、私がその方を車に乗せようとしたとき、ご両親が警察を連れて止めに来たんです。本当に驚きました」
「うわ、」
「その後は大変でした…。交番で事情聴取され、仕事の内容を伝えても理解してもらえなかったので、パトカーに警察の方と女性とご家族、キャラバンを運転する私は横に警察官を乗せて院に案内することになりました。直接見てもらった方が良いと思ったので、」
「大丈夫だったんですか?」
「ええ、入院している患者さんにお願いして説明しました。初めて見た警察の方は驚いていましたが、ご両親と女性の方は安心されたご様子で。やっと治せるね、とお母様が泣いていらしたのを覚えています」
泣きたい気持ちはわかる。
治るのか、治らないのか。
わからないことを考えるのは、先が見えなくて、寂しくて、怖い。
「もし、澄田さんのご家族が心配されている様子なら、運転中は無理なので、院に付いたら···私と一緒にお電話させてくれませんか。大切な一人息子様を預からせて頂くので…。その方が良いと思います」
バックミラーから先生がこちらに笑いかけてくれているのが見えた。
ここまで話をしている様子を見ると、怪しい団体の類はしない。今のところは信用しておこう。いざとなったら今、膝の上で抱えているバックの中で手で掴んでいるハンマーで殴ればいい。
俺はハンマーを握り直して、浅く腰掛けた。いつでも殴って、逃げられるように。
頭の中ではこんな状態でも、先生の話を聞いていて気になることがあった。その女の人の症状だった。この先生に頼るほどだ、どんな様子だったのか知りたい。
「あの、その女の人は、どんな症状だったんですか?」
バックミラーから、こちらをちらりと先生が見る。
「自分の目に、マルチスクリーンのように周辺が映ってしまう、という症状でした」
先ほどよりは少し低いトーンで話す先生。構わず俺は聞いた。
「マルチスクリーンって…」
いまいちピンと来ない。
「トンボの視界をご覧になったことはありますか?」
俺はスマホのネットでトンボの視界を検索した。丸く区切られた中に花がたくさん分裂して並んでいる画像が出てきた。
これがトンボの視界。一つの視点に慣れた人間にはこれはキツイ。
「どうして、こんな、」
「デリケートな部分は伏せますが、その方はご両親の熱心な教育もあって真面目に進学、就職したのですが、一度小さな失敗をして自意識過剰な性格になってしまいました。お仕事を辞められてからは更に周りの目を気にするようになり、視界の数は今の私たちのような状態から、4つ、6つ…と増えていき、私が診察をした頃には9000個近くになってしまいました」
トンボの目そのものになっている。
「治ったんですか?それ、」
「はい。ご家族からのお話を聞いて原因はわかりましたので、その方の自意識過剰な性格を徐々に柔らかくする所から治療を始めました。もしかしたら精神科の治療に近いかもしれませんね。半年かかりましたが、その方の目は今、私たちが見えている状態に戻すことはできました」
「良かったですね」
先生が嬉しそうに「はい」と言う。
「長い時間をかけて今の性格は作られますので、柔らかくするにはそれなりに時間はかかります。ですが、その方の場合、目の症状が無くなって嬉しかったのか、すぐ再就職したそうです。多くのものが見える経験をしたからか、職場ではよく気の利く人!勘が鋭い!なんて言われることがあるらしいですよ」
「その、病気の経験は無駄にならなかったんですね」
「良い個性になってくれたのかな、と思っております」
バックミラーに安心した表情をした先生の顔が見えた。俺はそれを見ていつの間になのか、ハンマーを握る手が緩んでいたことに驚いた。
「澄田さん、個生院は山の天辺にありますので、ここからは揺れますよ」
先生が言う前にガタンと、車が大きく揺れて俺は窓の外を見た。建物が少なくなり窓枠の景色には徐々に木々が生い茂っていった。
ぱっとにらむのをやめて、先生からの質問の答えを考える。
「ええっと、スマホにメールは送っておきました」
ここに来る前もだが母親には反対された。胡散臭すぎる、危ない団体とかだったらどうするんだと許してもらえる様子もなかった。仕方なく内緒で先生とのメールのやり取りで病院の入院手続きと、さっきのような止まる場所の予約も自分でやってここに来てしまった。
「やっぱり反対されたんですか?」
わかっていたかのように聞いてきた先生。
「はい、」
先程からスマホには母親からの電話がひっきりなしにかかっていた。一度メールで大丈夫と送ったが、それでもかかってくる。
俺の反応を聞いて理解したように頷く先生。
「そうですよね、ホームページ見てもなんか怪しい感じしますよね。半年前にも澄田さんみたいに駅にお迎えに来たことがあったんですけど、女性の方。その方もご両親の反対を無視して来たみたいで、私がその方を車に乗せようとしたとき、ご両親が警察を連れて止めに来たんです。本当に驚きました」
「うわ、」
「その後は大変でした…。交番で事情聴取され、仕事の内容を伝えても理解してもらえなかったので、パトカーに警察の方と女性とご家族、キャラバンを運転する私は横に警察官を乗せて院に案内することになりました。直接見てもらった方が良いと思ったので、」
「大丈夫だったんですか?」
「ええ、入院している患者さんにお願いして説明しました。初めて見た警察の方は驚いていましたが、ご両親と女性の方は安心されたご様子で。やっと治せるね、とお母様が泣いていらしたのを覚えています」
泣きたい気持ちはわかる。
治るのか、治らないのか。
わからないことを考えるのは、先が見えなくて、寂しくて、怖い。
「もし、澄田さんのご家族が心配されている様子なら、運転中は無理なので、院に付いたら···私と一緒にお電話させてくれませんか。大切な一人息子様を預からせて頂くので…。その方が良いと思います」
バックミラーから先生がこちらに笑いかけてくれているのが見えた。
ここまで話をしている様子を見ると、怪しい団体の類はしない。今のところは信用しておこう。いざとなったら今、膝の上で抱えているバックの中で手で掴んでいるハンマーで殴ればいい。
俺はハンマーを握り直して、浅く腰掛けた。いつでも殴って、逃げられるように。
頭の中ではこんな状態でも、先生の話を聞いていて気になることがあった。その女の人の症状だった。この先生に頼るほどだ、どんな様子だったのか知りたい。
「あの、その女の人は、どんな症状だったんですか?」
バックミラーから、こちらをちらりと先生が見る。
「自分の目に、マルチスクリーンのように周辺が映ってしまう、という症状でした」
先ほどよりは少し低いトーンで話す先生。構わず俺は聞いた。
「マルチスクリーンって…」
いまいちピンと来ない。
「トンボの視界をご覧になったことはありますか?」
俺はスマホのネットでトンボの視界を検索した。丸く区切られた中に花がたくさん分裂して並んでいる画像が出てきた。
これがトンボの視界。一つの視点に慣れた人間にはこれはキツイ。
「どうして、こんな、」
「デリケートな部分は伏せますが、その方はご両親の熱心な教育もあって真面目に進学、就職したのですが、一度小さな失敗をして自意識過剰な性格になってしまいました。お仕事を辞められてからは更に周りの目を気にするようになり、視界の数は今の私たちのような状態から、4つ、6つ…と増えていき、私が診察をした頃には9000個近くになってしまいました」
トンボの目そのものになっている。
「治ったんですか?それ、」
「はい。ご家族からのお話を聞いて原因はわかりましたので、その方の自意識過剰な性格を徐々に柔らかくする所から治療を始めました。もしかしたら精神科の治療に近いかもしれませんね。半年かかりましたが、その方の目は今、私たちが見えている状態に戻すことはできました」
「良かったですね」
先生が嬉しそうに「はい」と言う。
「長い時間をかけて今の性格は作られますので、柔らかくするにはそれなりに時間はかかります。ですが、その方の場合、目の症状が無くなって嬉しかったのか、すぐ再就職したそうです。多くのものが見える経験をしたからか、職場ではよく気の利く人!勘が鋭い!なんて言われることがあるらしいですよ」
「その、病気の経験は無駄にならなかったんですね」
「良い個性になってくれたのかな、と思っております」
バックミラーに安心した表情をした先生の顔が見えた。俺はそれを見ていつの間になのか、ハンマーを握る手が緩んでいたことに驚いた。
「澄田さん、個生院は山の天辺にありますので、ここからは揺れますよ」
先生が言う前にガタンと、車が大きく揺れて俺は窓の外を見た。建物が少なくなり窓枠の景色には徐々に木々が生い茂っていった。
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