サクラサク

すけさん

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第一話 走れ、咲

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ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ!

一人抜いた……。あと一人!!

負けない。絶対に、勝ってやるんだから!

よし——もう一人抜く!

あっ——

  …ズ……ズザアアアアア!!!

砂の匂いが鼻に飛び込んできた。

顔から着地した。

と気づいたのは一拍遅れてからだった。

いったぁ……。

足がもつれて、
顔面からおもいっきりダイブしちゃった。
温かいものが鼻からじわっと滲む。鼻血だ。

……もう走れない。

——いや、走る。

絶対に、ゴールする。

……………

ゴールのテープを切ったとき、
周りの子はもうとっくに走り終えていた。

運動会の100M走。今回もビリ。

どうしてだろう。あんなに自信があったのに。

悔しい、とか、悲しい、とかじゃなくて
——なんか、ただ、わからなくなっちゃった。

鼻にティッシュを二つ詰めてベンチに座っていたら、
男子がアタシの顔を見て笑い出した。

ムカつく。

立ち上がったら逃げていった。


「惜しかったね」

顔の前に、濡れたハンカチが現れた。


「もう少しで一位だったのに!」

えっちゃんだ。土で汚れたアタシの顔を、
冷たいハンカチで丁寧に拭いてくれる。
ひんやりして、気持ちいい。


えっちゃんはやさしい。
転んでもこけても、一度も「やめなよ」って言わない。
それが、なんかちょっと——
泣きそうになるくらい、ありがたかった。

「うん、次は絶対勝つ!」

今日はダメだったけど、次こそは。

──────────────

放課後、校門の前でお母さんを待ちながら、えっちゃんに話しかけた。

「今日も帰ったらカラオケ行くんだけど、えっちゃんも来る?」

「え?いいの?」

「もちろん!えっちゃんなら大歓迎!」


一か月くらい前からお母さんと週に一回だけ行くことにしている、アタシの秘密の練習場所。

本当は一人で歌いたいけど、えっちゃんだけは特別だ。

お母さんの車が校門に滑り込んできた。
窓から顔を出したお母さんが「あら、えっちゃんも?」と目を丸くする。
えっちゃんのお母さんに電話一本かけて、あっさりOKが出た。

──────────────

カラオケボックスの薄暗い部屋に入ると、
前の客が歌い残した曲のイントロがまだ鳴っていた。

空気はちょっと甘くて、密閉された感じがする。アタシは好きだ、この感じ。外の声も音も、全部シャットアウトされる感じが。

えっちゃんは男性アイドルグループ「ハニワ男子」の曲を入れた。
派手で激しい曲だけど、えっちゃんの透き通った声に不思議と合っていた。えっちゃんらしくて、好きだな。

次はアタシの番。今日はゴーイング娘。の「Be Alive」にしよう。やっぱりこの曲が一番しっくりくる。

マイクを握って、深呼吸した。

……………

──────────────

一曲歌い終えて顔を上げたら、えっちゃんが泣いていた。

「どうしたの!?えっちゃん、どうしたの!?」

えっちゃんはヒック、ヒックとしゃくり上げながら、
それでも何か言おうとしている。

「だ、だって……なんかすごく感動しちゃって!」

「え、この曲いいよね。心にグッとくるよね」

「ちがう……咲ちゃんの声が……
なんか、心があったかくなった……すごく良かった!」

そういえば、
えっちゃんに歌声を聴かせたのは初めてだったかもしれない。

胸の奥が、じわっと熱くなった。

「えへへ……そんなこと言われたの初めてかも。ありがと~!」

照れくさくて、でも嬉しくて、
アタシはえっちゃんにマイクを押しつけた。

「さあ、えっちゃんも歌おうよ!はい、マイク!」

「うん!」

アタシの夢は、アイドルグループ「ゴーイング娘。」のメンバーになること。


アタシには自信がある。きっと夢はかなう。
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