呪われた王子様の真実の鍵を探して

桜ふぶき

文字の大きさ
5 / 5

第5話 扉の先へ

しおりを挟む
私は思わず、扉を開けなければよかったと、心の底から後悔した。いったんそう思うと、途端に手が、足が、震えだす。
胸の内から熱いものがこみ上げてきて………。
今にも泣きそうになってきたとき、

「知りたいから、開けたんだろ?」

心を見透かされたような答えに、私は思わず顔をあげる。
すると、優しそうな悲しそうな、そんな何とも言えない表情で、こちらを見る男と目が合った。

「…心を、読めるの?」

「さあ、どうだろうな?
ただ一つ確かなことは、お前がこの扉を開けた選択は、間違ってなかったってことだ」

私は、黙ったまま、ソファに腰掛ける男を見つめる。
いかにも女慣れしてそうなこの男は、記憶を失う前の私のことを知っているのだろうか?
すると「ほら」と、視界に何かが差し出された。
それは、宝石のように美しく透き通った珍しい青色のダイヤモンドで、首から下げれるペンダントのようになっているものだった。座っていた男は、いつの間にか、私の前に立っている。

「これは、俺の願掛けな♪お前が無事に帰ってこれますようにって。――俺からの祝福。」

男が、怖くて今にも泣きそうな、私の首にかけてくれる。その瞬間、なぜだか不思議と、力がみなぎってくるような感覚に陥った。それはまるで、あの時の、真っ暗なところに光が降り注いだ時と、同じような感覚だった。

「お前が、誰よりも聡明で、誰よりも強いことを俺は知ってる。
――だから、ここへ呼んだんだ」

そういって、男が優しくほほ笑んだ。なんだか、父親に言われたような安心感にほっとする。
この人は、本当に誰なのだろうか?ここへ、呼んだって、いったい…。

「さあ、時間だぜ。
今も囚われたオウジサマが、お前を待ってる」

私が考えるのを邪魔するように、男が背中を軽くたたいた。そして奥の廊下とエントランスとの境界線を指さしながら、少し脅すように言う。

「いいか? この境界線からむこうに一歩でも踏み出したら、もうこっちを振り返るんじゃねえぞ?
――じゃねえと、お前はまた、あの真っ暗な暗闇の中に引きずり込まれて、もう一生涯、出てこれなくなっちまう」

私は想像して、ゾクッとした。
それは…いやだ。
戻りたいけど、一生は勘弁してほしい。

私は、改めて、薄暗い廊下を見つめる。これで電気さえついていたら、完全にホテルだったのに。
奥には、何が待っているんだろうか…?
私は、境界線ギリギリのところまで行き、そして、男を振り返ってみる。

「オウジサマによろしくな♪」

そういう表情は、ニヤニヤしていて、相変わらず、何を考えているのかわからない。こっちの気も知らないで、とはよく言ったものだ。
しかし、ここから進まないと始まらないことも、よくわかっている。
――しばらく悩んだ後、私が、思い切って一歩を踏み出した時だった。

「安心しろ。お前は一度、オウジサマとキスしてる」

「え?」

「ああ、振り返るなよ?もう一歩踏み出してんだから♪」

――ムカつく。

どうして踏み出す前に言ってくれなかったのか。一発なぐってやりたい気持ちに襲われながらも、私はしぶしぶ進む。その間も、男は豆知識のようなものを延々としゃべり続けた。

「この先、魔王の手下のゴブリンがお前に襲い掛かってくるだろうが、やつらは目も頭も悪りいから、うまくやりすごしゃ、簡単に逃れられるぜ」

とか、

「オウジサマの居場所は、ところどころメッセージを集めながらいけ」

とか、

「アイテムは部屋の隅々までさがせよ?」

とか。

男の声がいよいよ聞こえにくくなってきたとき、男がふと、珍しく悲しそうな口調になって言った。

「お前だけは、あいつの二の舞にはなるなよ。エル」

――エル?

何のことだろうか?と思ってその次の言葉を待つが、もう男の声はそれ以降、聞こえなくなっていた。

――静寂だけが、この薄暗い廊下を支配する。
途端に怖くなった。
男の声が聞こえなくなった瞬間、不安と迷いが、一気に私を包み込む。

あとどれくらいこの薄暗い廊下を進めばいいのだろうか?
というか、ここはどこに向かっているの?
大魔王とかいう化け物に、もし、やられてしまったら?私は、死ぬの――?
そう考えると、途端に足がすくんだ。なんであの時踏み出したのか?なぜ、男にもっと聞かなかったのか。考えれば考えるほど、あれを聞いておけばよかったと、後悔があふれてくる。

――今、振り返れば、私は、あの元の暗闇に戻れる。
その考えが、ふと、私の頭をよぎった。
一度よぎると、もう脳は、それしか考えられなくなる。

私は――。

――いや。
振り返って何になるのか。さんざん暗闇にいたじゃないか。
私は、進まないといけないのだ。
『真実は、扉の向こうに』

またあの声が聞こえた気がした。

――大丈夫。私は無事にクリアできる。クリアして、あのニンマリ顔の男にガツンと言ってやるんだ。
そう考えると、不思議と勇気が出た。なぜだか、パワーがみなぎってくる。
そして勢いよく私は、顔を上げた――
すると、「?!」驚いて、声が出そうになる。目の前には、制服をきたブレザー姿の女の子が立っていたのだ。ただの女の子じゃない。薄く青光りしているその子は、私を睨みつけていた。

『本当に、扉の先にいくの?――逃げたくせに』
怒気を含む声だった。
見たこともない子…いったいこの子は、誰なんだろう……?高校生くらいだろうか?
私のことを、知っているの?
何も言えずに黙っていると、その子がまた、しゃべりだす。
『せいぜい、リタイヤしないことを祈るばかりだわ』
そう、さげすむと、その子はパッと消え、代わりに光る扉が現れた。またしても大きな扉で、今度は扉の模様が薄く光っている。
これは…天使?
大きく羽根を広げた天使が、天界から地上に降り立つような、そんなイラスト。あまりにもリアルで、本当に扉から飛び出してきそうな…。
――なんだか、不気味だ…。

私は、恐る恐るドアノブに、手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...