父親に会うために戻った異世界で、残念なイケメンたちと出会うお話【本編完結】

ぴろ

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始まりの予感

貴公子様は間に合わない

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時間が足りない…
まだダンスの練習が出来ていないのに…
我ながら精巧に作りすぎたアキの等身大人形が俺に微笑む…
愛らしいその姿に見とれていたら夜が明けていた…
せめてエスコートの練習までは完璧に終わらせてアキの所に行こう。
ダンスは帰ってきてからでも間に合うだろう…

カイは疲れた身体を椅子に預け目を閉じた…

アキの部屋に行ったあの日、スマホと呼ばれる道具を見せられた。
手のひらサイズのそれは驚くほど多機能で、異世界の生活には欠かせないものらしい。

アキは私の質問に一生懸命答えてくれた。自分は専門家ではないから…と前置きしながらも俺に伝えようと言葉を選ぶ姿に胸が震えた。

カメラとレンズの話は衝撃だった。
光を集めてレンズを通して映ったものを反転させる。技術的には全く難しいことではない。この世界にその発想がなかっただけだ。

スマホと電波の話もそうだ。
アキの世界の電気と違い、この世界は空気中の魔素と自らの魔力を繋ぐことで魔法を発動している。
つまりこの世界にアキの言う圏外は存在しないのだ…

出来る…そう思った。
アキにスマホを貸して貰えないかと尋ねると快く承諾してくれた。
それだけではない、アキは私の浄化石の研究についても知っていて誉めてくれたんだ…

「カイは凄いね」

アキの言葉が頭から離れない。
今の私は何だって出来る…

急いで研究室に戻り次の日の朝にはスマホもどきが完成していた。次の日には関節を動かせるアキの等身大人形が出来ていた。
自分の才能が恐ろしい…
本当は動くものにしたかったが、よりアキに近いものを追求したらこれが限界だ。
動きと喋る機能は後でつけよう…

スマホの中の動くアキを立体化したそれは異世界の学校の制服を着ている。眺めていたらあっという間に一日が終わる。

本来ならエスコートまでの動きを練習してアキの所に行く予定だったのに練習ができていない。
人形とはいえアキにそっくりなのだ。触れる手が震えるし顔も直視できない…
精巧に作りすぎた事を後悔したが、本物の破壊力を思えばやはり練習が必要だ。
大丈夫俺は出来る。
自分に言い聞かせ正面からアキ人形を見つめたが可愛すぎて直視できない。
まずは横に並んで共に歩く所から練習することにしよう、時間がない…
ルーカスに負けるわけにはいかない…経験がないなら練習を積むしかない…

「寝てしまった…」

目を閉じて少し休むつもりが寝てしまっていた…早めに行ってアキとクラウス達と昼食を取るつもりだったのに…
取り敢えず準備だ…急ごう。
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