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8 体で払って頂戴
しおりを挟む室内に入ってきた兵は、大急ぎで報告を始めた。
「クルル様、大変です!」
「なにがあったの!?」
「それが……東に向かっていた部隊が、オークに囲まれてしまった模様! このままでは……」
「救援は!?」
「準備させていますが、到着には時間がかかり、その間に……」
兵はそのあとは告げなかった。
全滅する。その言葉はあまりにも重い。
「わかった。なにか手を考えてみる」
「どうか、お願いいたします」
クルルは頷くが、任せろとは言わなかった。
この状況を打開する手立てなんて、すぐに浮かぶはずがない。
再び三人きりになると、空気が重くなる。
(……オークって、そんなにヤバい相手だったのか)
伊吹も見てはいたが、投擲術で吹っ飛んでしまった可哀想な相手という印象が強かった。
けれど、今のコーヤン国からすれば、兵を皆殺しにしてしまう強敵なのだろう。
(恐ろしい。……それにしても、コーヤン国、大丈夫なのか? 俺は来たばかりだけど、すでに二回もピンチに陥ってるんだけど)
彼が早くこの国を出たほうがいいかなあ、このままだとスローライフも送れそうにない、なんて考えたところで、クルルがじっと見つめてきた。
(嫌な予感がする。こういうとき、ろくなことがない)
果たして彼の予感は的中する。
「伊吹。オークを吹き飛ばせない?」
「いやいや、無理だろ。そんな危険なところに行きたくない。だいたい、間に合わないんじゃないか」
「遠くから狙い撃てばいいじゃない」
「狙い撃つって……人も巻き込んじゃうだろ」
「そうならないように、頑張るの」
「無理だろ」
「やって」
「いや、いやそれは……」
「借金200万ゴールド。体で払って頂戴」
「くっ……」
それを言われると、伊吹はなにも言い返せない。
「どうなっても知らないぞ」
「全滅するよりはマシ。なにもしないよりは、戦って勝ち取る未来に賭けたいの」
「くそっ。かっこいいこと言いやがって! 働くのは俺なんだぞ!!!」
「それはわかってる。悪いと思ってるけど……」
「じゃあ借金帳消しにしろよ!」
「……うん。この戦いが終わったら」
クルルはやけに素直である。
だが、それだけこの戦いが大きいものだということかもしれない。なにしろ、伊吹は戦犯にされてしまうかもしれないのだから。
それから三人は城を出て、この近くで一番高い見張りの塔に赴く。
そこからは、はるか遠くを眺める。オークの集団は豆粒のように見える。あんなのを狙い撃つなんて、できるはずがない。
伊吹が絶望するも、
「伊吹、頑張って!」
クルルが応援してくる。
「いや、さすがに……ここから狙ったら、全員吹っ飛ぶだろ?」
「なんとかならないの? 人にだけ無害で吹き飛ばさない投擲とかできないの?」
「できるわけないだろう、そんな都合のいい……」
伊吹が首を横に振る中、クルルが「はい」と小石を渡してきた。
つい手に取った瞬間、声が響く。
「人にだけ無害で吹き飛ばさない投擲」を獲得しました。
「…………そんな都合のいい投擲あったよ!!!」
「すごい! 伊吹すごい!」
「ほんと俺すごいかもしれない!」
「じゃあ早速!」
「どうなっても知らないぞ! 責任取らないからな!」
「うん。信じてる!」
クルルに信じられながら、伊吹は小石を振りかぶる。
そして勢いよく解き放った。
◇
「うおおおおおおお!」
兵たちの気合いが響く。
「あと少しだ! もう少しなんだ!」
「オークどもをぶっ殺せ! 救援が来るまで耐えきるんだ!」
オークに囲まれながらも、彼らは戦意を失ってはいない。
必ず、助けが来ると信じているのだ。そしてこの国の未来を守ろうとしている。
だが、内心ではわかっていた。
奇跡でも起きない限り、もう自分たちが助かる道はないと。
それでも、剣を振るわずにはいられない。この悪鬼どもを打ち倒すことこそ、彼らが与えられた使命なのだから。
「ブモォオオオオオ!」
オークが吠えると、そのたびに一人、二人と兵が倒れていく。
戦えずに這いつくばる者も増えてきた。こうなると、誰もが特攻を仕掛けるくらいしかできなくなる。
そして兵たちの長は声を上げた。
「これより、オークを葬り去る! ついてこい!」
彼はありったけの魔力を使って、最後の力を振り絞る。
全身が発光し、彼の能力がうんと底上げされる。
殴りかかってくるオークの腕を取ると、思い切り投げ飛ばして切りつける。
それを皮切りに、次々と敵を倒し始めた。
だが、それもほんの一瞬。囲まれて殴られたなら、もはや袋叩きにならずにはいられない。
この場で最も強い彼が倒され、誰もが希望を失いかけたそのとき。
空が輝いた。
「あれは……?」
誰もが言葉を失った。
向かってくるのは、どんな魔法よりもすさまじい破壊力を秘めた……なにか。
燃えている。すさまじい勢いで迫ってくる。
だが、いったいあれはなんなのか。彼らの知識にはないものだ。これまでに見たこともなかった。
しかし、一つだけわかることは――
「あんなのがぶつかったら、死ぬ」ということだ。
「王国は我々を見放した」
誰かが呟いた。
しかし、また誰かが呟いた。
「オークどもを吹き飛ばせるんだ。我々の囮は無駄ではなかった」
彼らは職務をまっとうしたのだ。
これでオークどもを滅ぼすことができる、と。
オークどももこの状況に、慌てふためくしかない。慌てて逃げ出す個体も現れ始めた。
しかし、もはやどうしようもない。あの迫ってくる物体は、間近になっていたのだから。
ズゴゴゴゴゴゴ――
近づく。
ズゴォオオオオオオオオオン!
そして一帯を吹き飛ばした。
オークが消し飛び、鉄片が飛び散る。
後ほど、誰かが言った。
あれは神の鉄槌であったと。
周囲数百メートルが消し飛んだ。跡形もなく、木々も岩もなにもかも、なくなっていた。
クレーターができあがり、もはや生命の残滓を感じさせない、崩壊した大地が広がっている。
だというのに、そこに似つかわしくない者たちがいた。
兵たちである。彼らはすっぽんぽんであった。
「……いったいなにが起きたんだ?」
辺りを見回し、一人が呟いた。
「これは……我々は一度死に、新たな生をここに受けたのだ! 今までの自分は滅び、新たな人生を歩めという天啓に違いない!」
誰もが頷いた。納得してしまった。
そうして彼らの人生を大きく変えることになった出来事であるが――
実際は、「人にだけ無害で吹き飛ばさない投擲」なので、鎧などは吹き飛ばしただけである。
ともあれ、そうしてコーヤン王国の平和は守られたのである。めでたしめでたし。
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